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作戦決行⁉︎

「うわあ、小梅ちゃんだ」


「久しぶりだね」


馴れ馴れしいところが、さすが大同の部下だと評していいのかどうなのか。鹿島は自分のこめかみに青筋でも立ってるんじゃないか、という状況にも耐えた。


ここで怒り狂って、作戦をぶち壊してしまうのもいけないと思い直したのだ。


「こんばんは。お久しぶりです、って、お会いするの二回目ですけど」


小梅が笑って言うと、部下AとBがさらに言った。


「可愛いなあ、このドレス鹿島さんの見立てですか?」


この部下Aとは話したことも飲んだこともあるので名前もしっかり覚えているが、ここは敢えて部下Aで通そう、小梅の笑顔を見て再度そう思う。


心を『無』にしなければ。


鹿島は、心でぐっと拳を握った。


「ああ、そうだよ」


実際には秘書の深水の見立てだが、ここは自分が選んだと言うべきだと頭で警報が鳴る。まさかここで。秘書が有能で、などと得意げにでも言ってみろ、どん引きだぞ、と。


「さすがだなあ、鹿島さん。センスが光りますねえ。あーあ、うちの社長と交換して欲しいな」


「鹿島さんが社長なら俺、すっげやる気出るのに」


「ふふ、大同さんとお仕事、面白そうですけど」


小梅が言うと、部下Bが言った。


「うん、まあ面白いっちゃ面白いんだけど。あの人、マイペースだから、こっちはいつも振り回されるんだよ」


「イメージ通りですねえ」


小梅がにこっと笑う。すると、二人の部下がそわっとなった。気がする。


鹿島が側でひやひやとしていると、ウェイターが近づいてくるのが視界に入った。すっと手を上げて呼ぶ。


持っているトレーの、シャンパンを二つ取ると、鹿島は小梅に一つ差し出した。


「大同はああ見えて、仕事だけはできるやつだから。それで君たちもついていくんだろ?」


鹿島が差し出したグラスを小梅が嬉しそうに手に取る。目線までグラスを持ち上げると、「すごい、キラキラしてる」と目をパチパチとしばたかせた。


「これ、なんていう飲み物ですか?」


小梅が問うのにシャンパンだよ、と答えながら、もう一つのシャンパンを部下Aに渡す。


「あれ、鹿島さんは飲まれないんですか?」


「今日は須賀さんの運転ですよね?」


ちらと見ると、須賀がオードブルの小皿を持ってうろうろとしている。


「うん、今日は須賀くんに送ってもらうから飲むつもりだよ」


「あ、じゃあ、これ、」


部下Aが渡したシャンパンを返そうとする。鹿島はそれを制してから、小梅ちゃんに貰うからいいよ、と軽く言った。


小梅の背後からその小さな背中を包み込むようにして、シャンパンを持つ手を上からそっと握った。


「小梅ちゃん、ちょっと味見させて」


「か、鹿島さん、」


小梅の手を握ったまま、持ち上げてグラスに口をつけた。


「ん、美味い」


斜め後ろから見る小梅の顔が、真っ赤に火照っている。


よし、と心の中で小さくガッツポーズをした。


けれど顔を上げると、目のやり場に困る、というようなふらふらした視線で、部下二人が見ている。その二人の様子を見て、鹿島は内心、焦ってしまった。


(ちょ、ちょっと、やり過ぎたか?)


ここは軽く言い訳を。


「しゃ、シャンパンは普段はあまり飲まないけど、う、美味いもんだね」


「あ、そうなんですか? 鹿島社長は家でもビールじゃなく、シャンパン飲んでいるかと思いましたよ」


「うん、そうそう、オシャレなイメージだよな」


部下ABが慌てて言う。変な空気が流れて、鹿島は溜め息を吐きたい気分になった。


(やばい、これはやばい。小梅ちゃんの反応は……)


真っ赤になっている。そして、固まっている。


(あーー……しまった)


どうフォローをするか考えを巡らせていると、小梅が急に動き出した。


「か、か、鹿島さんは、普段はビール派なんですよ。それも国産の本物のビールです」


「こ、小梅ちゃん?」


「私が以前勤めていたスーパーのモリタでも、いつも六缶パックを買うんです。一日一本飲むので、一週間七日だから一本足りないですよね。だから私。六缶パックとバラを一本買えばいいのにって、いつも思うんです」


「へ、へえ、そうなんだ」


部下Aが慌てて頷く。


「それで、あとはお惣菜を一緒に買ってくださるんですけど、私が以前ポテトサラダが美味しいですよって言ったら、それ以来ずっとポテトサラダを買うので、たまには違うのを買えばいいのにって、いつも思うんです」


「……そっかー。鹿島社長、一つにハマるとずっとそれ派なんですね」


「え? あ、まあ、そんな感じかな」


鹿島が頭を掻きながら照れる。


(ちょっと待て待て……作戦が、)


「私が苺が好きなので、いつもケーキは苺のショートケーキか苺のミルフィーユを買ってくれるんですけど、たまにはチョコレートケーキとかモンブランも食べたいなあって、思う時もあるんです」


「こ、小梅ちゃん?」


「だから、最近は私がチョコレート系や秋の味覚系を買ってきて、それで半分こにすることにしたんですよー」


小梅が自信ありげに言い通すので、鹿島は気恥ずかしくなって、かあっと顔が火照ってくる気がした。鹿島は、そんな真っ赤であろう顔を両手で隠したい気持ちになる。


「半分こって、……良いですよね」


小梅を見ると、もう顔の赤みは引いている。


「私、ずっとひとりだったから、半分こって幸せだなあーって、しみじみ思うんです」


「……小梅ちゃん」


大同の部下ABも、しんみりとして小梅の話に耳を傾けている。


「鹿島さんがいつも、あーんって食べさせてくれるんですけど、そういう時は本当に、ひとりじゃなく二人で良かったなあって、」


次には、鹿島は穴があったら入りたい気持ち、を表情に浮かべた。


「だって、そうじゃないですか。ひとりじゃ、あーーんなんて、できないですよね?」


小梅がにこにこと言い切ったところで、しん、となる。


鹿島が真っ赤になった顔で、口火を切ろうとすると、部下Aが慌てて言った。


「鹿島社長、めっちゃラブラブですねえ」


「こ、こんな可愛い子と、いちゃいちゃできて、羨ましいなあ」


部下Bも次に続く。


「ええええー、すみません、そういうんじゃないんですけどっっっ」


あわわわと小梅が、オロオロし出すと、鹿島も照れ笑いと苦笑いを混ぜた顔で言った。


「うん、まあ、そういうことにしておいてくれ」


そして、部下ABが声を揃えて、「うはあー」「やられたあ」とはやし立てたのは言うまでもない。


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