五十八話 道具屋のおっさん、脱帽する。
もくもくと不穏な煙が上がる中、瓦礫の中から勇者クリスと戦士ライラが出てきたが、あまり元気がない。そりゃそうだろう。こっちもレベルが上がってるからな。それでも無事で済んでいるのはさすがだが……。
「エレネ、やれ」
「はい……」
エレネの氷結剣によってクリスとライラが凍る。すぐ元に戻るにしても奇襲としては充分だ。
「行け、リュリア」
「了解」
リュリアが突っ込んでいく最中、アルタスが出てきた。このタイミングで俺が迅雷剣を使ってしまうと、透明でもやつのカウンター魔法攻撃で命が危ないというのは学習済みだ。
俺はリュリアの透明化を解除すると、スターカードに彼女の名前を念じた。
これによって、リュリアの吸引力は相当なものになった。俺たちはパーティーメンバーだから平気だが、やつらからしてみたら視線を強引に引っ張られるレベルになるわけだからな。
「エレネ、ここからが本番だ」
「はい」
エレネが氷結剣を振ってやつらを僅かな時間だが凍らせることで、リュリアのサポートをする。俺はまだ攻撃に参加しない。スターカードでやつらの目を向こうにやれているといっても、迅雷剣まで使ったらさすがに目立つからな。
「はあっ! ていっ!」
「ライラ、このハーフエルフ! 王都にいたやつだ!」
「クリス、あたいも知ってるよ! 人間様、それも勇者パーティーに逆らった下種だね!」
「下種はどっちだ!」
「ぐはっ! ……くそ! 仲間がどこかにいて凍らせてきやがる!」
「どこにいるんだい!? アルタス、なんとかしておくれ!」
よし、いいぞ……エレネがいちいち凍らせるから、それまでやつらと互角だったリュリアが一方的に押す形になっている。ただ、アルタスだけはほんの一瞬しか凍らない。あいつ、魔法耐性が高すぎるんだ……。
「くうっ!」
アルタスが例の超威力な火の玉を出してきて、リュリアに命中した。それでクリスとライラが勝ち誇った顔を見せたが、すぐに動揺した表情で塗り替えられた。
「な、なんだこいつ!」
「う、嘘……! アルタスの火の魔法がまったく効かないなんて!」
そりゃそうだ。リュリアはただでさえ魔法耐性が高い上に俺がエレメンツカードで火に強い水属性に変えたんだからな。
「妙な術を使われている。しばし待て……」
「モルネト様、アルタスがこっちに気付いたみたいですわ」
「な、何?」
「あの人はとにかく勘がいいのです。リュリアに引きつけられている間も、おそらく氷結剣を使っている場所を正確に把握していますわ……」
……ミヤレスカの予感は当たっていた。やつはリュリア、それから俺たちのほうに向かって、同時にあの火の玉を放ってきたのだ。当然バリアは破られ、俺たちは場所を変えなければならなくなった。
「超一流の魔術師だけが使えるダブルキャスティングですわ」
「同時詠唱、か……」
実に器用なことだ。やはりあの男の力だけずば抜けている……。
走り撃ちでやつを仕留めようとするが、ダメだ。俺の電撃はほとんど効いていない。
「モルネト様、クリスとライラをまず仕留めたほうが……」
「それもそうか……」
軍師ミヤレスカの提言により、やつらを集中攻撃する。
「「――ぎゃああぁあ!」」
クリスとライラが折り重なるようにして倒れる。実にあっけなく終わった。やはりアルタスだけだな、強いのは……。
やつはリュリアの攻撃をかわし続け、俺の電撃を食らいつつも、それでも涼しい顔で火の玉を的確に放ち続けていた。そのせいで最早町は火の海状態で、愚民どもから悲鳴が起こってるが……。
「はぁ、はぁ……モルネト様、このままでは……」
「ああ、わかってる、ミヤレスカ……」
魔術師アルタスの放つ魔法の正確性は威力とともにどんどん上がっていた。走り撃ちをしているのに張っていたバリアを破られるレベルだった。おそらく、やつは戦えば戦うほど、誰かを殺せば殺すほど強くなり頭も冴えてくる戦闘狂タイプだ。戦いを長引かせるとまずい。
「リュリア、戻ってこい!」
「はっ!」
ミヤレスカがバリアを張ったタイミングで叫び、リュリアをやつから退避させる。
「うぐっ……」
そのタイミングで飛んできた火の玉によって結界は破られ、全身に焼け付くような痛みが残った。
「エクストラヒールッ!」
ほぼ同時にエクブスがヒールしてくれたからよかったが、意識が飛ぶかと思った。火の玉の威力も相当上がってるなこりゃ……。
「……そろそろ終わらせてやる……」
俺の絞り出した小声に、奴隷たちは一斉にうなずく。それだけ信用しているということだ。
まず自分の透明化を解除すると、さらにスターカードで存在感を濃くしてアルタスに向かって走った。
「……ジイイィイィクッ……モルネェエエトオオオォオッォオオオオオオオ!」




