五十六話 道具屋のおっさん、決戦に備える。
道具屋のベッドで、ミヤレスカが引いた9枚目のカードを確認する。
「「「「こ、これは……」」」」
そこには星のマークが描かれていた。スターカード、か。一体どんな効果なんだろう……。
試しにエレネと念じてみると、裸体がきらきらと輝くのがわかった。なんだこりゃ……。
「やぁぁん……目立つです……」
「……」
エレネ、嬉しそうだな。試しにパーティーから外してみると、彼女はそれまで以上に目を引いた。
「もっと見てください……」
満足そうなウサビッチから目を背けたくてもできない。これは使えるかもしれないな……。
「まさに、私に相応しいカードですねえ……」
ミヤレスカがドヤ顔になっている。しかも一人だけ全裸になっていない。
おいおい……これは教育が必要だろう。ってなわけでエレネをパーティーに入れたあと、ミヤレスカを除名した。
「……」
ポキッ、パキッ……。
「も、モルネト様……? 何故私のほうを向いて拳を鳴らしておられるのでしょう……」
ミヤレスカがやっとすっぽんぽんになり、猫なで声ですり寄ってきたがもう遅い。髪をわしづかみにしてやる。
「……ひっ……」
「今頃気付いて媚びだしたかエクブス……。もう無駄だ。お前の体にたっぷりと世の中の厳しさというものを刻み込んでやる……」
ペットに対する躾の意味合いもあるが、こいつは俺たちの中で一番レベルが高いというのも大きい。決戦に向けてレベルをもっと上げておきたいからな。
「お、おおお、お許しを……」
「ダメだ」
「ひいぃぃぃぃいいいい!」
いいぞ。エクブスが暴れないようにエレネとリュリアが手足を押さえつけてる。
「死ねミヤレスカ! オラオラオラオラロアロアロアラオラオラオロアオラオラロアオラオラオラオラオラオラオラオラオロアロアロアロアロアロアオラオラローラアアアッ!」
「ヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルッルルルヒルヒールヒールウウウゥ、ヒルヒルッルルララウララルララアアアアアアァァァアッ……ァ……!」
血まみれのベッドで、俺たちはレベルUPの瞬間を存分に味わった……。
※※※
「んくっ、んくっ……」
「どうです、ミヤレスカさん、美味しいでしょう」
「はいっ。とろっとしてて、上品な中にも苦さがあって癖になりますわね」
エレネの口移しで、俺の特製白ポーションをミヤレスカが味わって飲んでいるのがわかる。リュリアもそうだが、みんなとても美味しそうに飲むようになった。体の芯から俺の色に染まった証拠だろう。みんな凄く幸せそうだ。
見ろ、善人モルネト。お前を罵倒し苦しめた僧侶ミヤレスカでさえ、ジーク・モルネトである俺の前では子猫同然なのだ……。
ミヤレスカ退治によって、俺はレベル3124、エレネは2895、リュリアが3253となった。エクブスが3421レベルだから、大体みんな同じくらいになったな。
「「「「ちゅうぅうっ」」」」
クアドロプルキッスは宴の終わりを告げる華やかな合図だ。決戦に向けて、これから打ち合わせしないといけないからな。
「――……っとまあ、こういうわけだ」
「わかりましたぁ」
「承知した」
「わかりましたですわ」
決戦の大雑把な流れは、大体俺からみんなに伝えた。細かいところは実際にやってみないとわからないし、途中で変わることもあるから、そこは各自臨機応変にやっていこうということになった。
「コホン……。実は、皆さまに話さなくてはならないことがありますの」
なんだ? ミヤレスカのやつ、改まって……。
「エレネさんに勇者の血が流れているそうですが、勇者パーティーの中にも血を持つ者がいるのです……」
「……な、なんだって……?」
「それはまことなのか、ミヤレスカどの」
「ま、まさか、そんな……」
特にエレネが動揺するのも無理はない。俺たちがこれから戦う相手の中に血を分けた者がいるわけだからな。まああれだけオルグを甚振っておいてなんだが……。
「どうせ魔術師アルタスだろ?」
「はい、さすがはモルネト様」
……まあ大体わかる。強さも変態度もアルタスはずば抜けてるからな。
「ということは、アルタスさんと私は異母兄妹ということですね」
「ええ、落とし子、すなわち落胤だそうですからそうなりますです」
落胤、か……。アルタスが王都で放火殺人しまくっても無罪放免になったのがよくわかる。
「では、あの男が氷結剣を抜く予定だったのだろうか?」
リュリアの問いに、ミヤレスカはうなずいた。
「そうですわ」
「しかし、私がよくわからないのは、何故そこまでわかっておきながら、偽勇者のクリスがそのまま勇者として担がれていたのかということなのだ……」
「リュリア、あれだろ。魔術師アルタスの態度見てりゃわかる。目立つの嫌そうだし、ダラダラやりたかったんじゃないか?」
「さすがはモルネト様、よく観察していらっしゃいますね」
「ああ。まあループの中で何度も見てきたからな。逆に勇者クリスは目立つのが好きそうだし、アルタスはその陰で好き勝手やれるから両者ウィンウィンの関係だったんだろうよ」
「さすがです。でも、クリスも最近は勇者然としているのに飽きて、こそこそ悪いことをするようになっちゃいましたの……」
「……なるほどな」
まあそのおかげで俺はジーク・モルネトになれたわけだが。
……っと、だべってる間に朝チュンタイムが来た。いよいよだ……。




