三十五話 道具屋のおっさん、ドキドキする。
これがジーク・モルネトの力なのか……。
そう思えるほど急激に視界が晴れてきて、その結果俺たちはスムーズに山頂へと近付くことができた上に、襲ってくるスノードラゴンたちもガンガン倒して大量の経験値を稼ぐことができた。
「エレネ、俺のレベルどれくらいだ?」
あとのお楽しみということであえて聞かなかったが、山頂を目前にして我慢できなくなった。もう1500くらいはいっただろう。
「1232ですよ」
「……あれ?」
意外と少ない。めっちゃ倒したんだけどなあ。もしかしたらこっちが強くなりすぎたことで上がりにくくなってるのかもしれない。試しに今遠くに見えたスノードラゴンを電撃一発で倒してみた。力が湧いてくるのがわかる。レベル自体は上がってるっぽいんだけどなあ。
「今どれくらい?」
「9上がって、1241です」
「……9か。もうそれくらいしか上がらないんだなあ」
「ですねぇ」
あの勇者パーティー、特に魔術師アルタスはレベル6000くらいあった。一体どこで上げたんだろう……。
「ちなみにエレネのレベルは?」
「今ので734になりました」
「おおっ。エレネも頑張るなー」
「……私は何もしてないですけどねぇ。全部モルネトさんのおかげです」
「いや、エレネ、お前がいなかったら俺はここまで来られなかった……」
……あれ? 俺の口から、らしくない寒い台詞が。なんか懐かしい感じだったな……。
「私も、モルネトさんなしじゃもう生きていけないです……愛してます……」
「エレネ……」
「「ちゅうぅー……」」
……な、なんだ。この心が洗われていくような感じは……。そうか。善人モルネトのやつが隙を見て出てこようとしてるのか。こらこら、もうお前の出番なんてないぞ。誰のおかげでここまで成り上がったと思ってんだ。引っ込んでろ! こういうときこそ性欲パワーだ……。
「イツデモキノコー!(低音」
ボロンッ。
「わぁっ……」
「さあエレネ、お食べ。お前の大好物だよ」
「ちょうどお腹が空いてきたから嬉しいです……。かぷっ……」
いいぞいいぞ……ゾクゾクしてきた……。
「デリュウウウウウウゥゥゥッ!」
※※※
とうとう山頂が見えてきた。なんか暗くなってきたしもうすぐ日が暮れそうだな……。確かに大分歩いた気がするが、レベルが高くなったためか疲れはまったくなかった。それでも夜になるとさすがにスノードラゴンには勝てないだろうから、その前に伝説の剣を頂戴しなければ……。
「――あ、モルネトさん、あそこにっ」
「お、おおっ……」
エレネが指差す方向に見える十字の形。周囲が暗くなってきてるせいで一見墓と間違えそうになるが、よく見ればあれは紛れもなく剣だとわかる……。
側まで近寄ると、青く図太い刀身が半分以上地面の中に埋め込まれているのが確認できた。
「エレネ、あれがどういった剣かステータスカードでわかるか?」
「ちょっと待ってください……あ、見えました。氷結剣だそうです」
「氷結剣か。なるほどな……」
ヴァルキリーフラワーに加えて伝説の武器、氷結剣も俺の物になるってわけか。オラ、ドキドキしてきたぞ……。
「抜けるでしょうか……」
「大丈夫だろ」
確かに俺はただの道具屋だったわけで、伝説の剣を抜けるかどうかという不安はある。言い伝えでは、魔王を倒すためにこの世界に召喚された者――すなわち勇者か、その血筋のものでなければこうした剣の封印は解けないのだそうだ。
ただ、俺もやつらにはまだ及ばないもののレベル自体はかなり高いからな。なんせ、ここに来るまでにまた少し上がって俺は1314レベルになっていた。パワーだって滅茶苦茶あるから、無理矢理にでも引っこ抜いてやる……。
「頑張ってください、モルネトさんっ……」
「ああ」
「「ちゅー……」」
エレネとのチューでオラの力も百倍UPだ。
「イックぞおおおぉぉぉ!」
……結論から言おう。抜けなかった。というか微塵も剣は動かなかった。これが封印の力なのか……。
「やっぱり、勇者しかダメなんですかね……」
「……だろうな」
せっかくここまで来たってのに、無駄になってしまうのか……。
「私が試してみますねっ」
「……」
いやいや、エレネも強くなったとはいえ、俺よりレベル低いんだし無理に決まってる。そう言おうとした矢先だった。
「……あれ?」
氷結剣を手にしてあっけにとられているエレネがいた。おいおい、なんでエレネが抜いちゃうんだよ。って、それじゃまさか……。




