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二十九話 道具屋のおっさん、約束する。


 そこは、一本足の丸いテーブルが中央に置かれただけの殺風景な部屋だった。道具屋の寝室よりは広いが、あまりにも生活感がなくて不気味すぎる……。


 ハーフエルフのメスガキがそこに燭台を置いて振り返ってきたが、なんとも暗い笑みを浮かべていた。


「落ち着く……」


「へ?」


「ここだと本来の私に戻れる。安心できる……」


「……」


 逆に不安になりそうな場所に思えるんだが……。エレネもここに来てからずっと俺にくっついてるし。


「そ、そうだ。あんた名前はなんていうんだ?」


「……メスガキ……」


「……」


「プハッ……」


 なるほど、冗談が言える程度には落ち着いているらしい。やつの思わぬジョークにエレネが噴き出している。


「じゃあメスガキでいいかな? ハーフエルフだから略してハメガキでもいいぞ?」


「いや……リュリアっていう名前がある」


「リュリアか。おっぱいが大きそうな名前だな」


「……」


 若干滑ったようだ。いやこういう不気味な空気だからな。俺が悪いわけじゃない。


「私への当てつけですか、モルネトさん……」


「……エレネ、名は体を表すんだ。モルネトっていったらアソコが大きそうな名前だろ?」


「……そ、そうですかね」


「……ん?」


「あ、はいっ。そうです!」


 ……エレネのやつ、俺に殴ってほしくてわざと否定したがってる感じすらあるな。


 ……っと、話が大分逸れてしまった。


「リュリア、なんで迅雷剣がそこまでしてほしいのか話を聞かせてくれ」


 俺の台詞から若干遅れてリュリアがおもむろにうなずくと、彼女の白い喉がぐるりと動くのがわかった。


「……私は、勇者パーティーを倒さなくてはならない。そのために必要なのだ……」


「……な、なんだって……?」


 リュリアは田舎町の騎士とはいえ団長なわけで信じがたい発言だったが、さすがに冗談を言ってるような雰囲気じゃなかった。


「元々、私は王都グロムヘルの騎士団長だったが、わけあってここに流されてきたのだ……」


「お、おおっ。リュリア、王都の騎士団長だったのか……」


 こりゃくっ殺せと言わせ甲斐があるというもの。実に楽しみだ……。


「なんでまたそんな大物がこんなところに左遷されてきたんだ?」


「……勇者パーティーに盾突いたからだ」


「そんな立場にいながら?」


「やつらは正義の面を被ってるが、中身は魔王より極悪非道なのだ……。信じてはもらえないかもしれないが……」


「いやいや、信じる信じる。な、エレネ?」


「はい、信じますよリュリアさん、安心してください」


「……」


 リュリアのやつきょとんとしている。そりゃそうか。勇者パーティーなんて一般人からしてみたら正義の味方のイメージしかないだろうし、なんで信じてもらえるのかって感じなんだろう。


「いや、偶然やつらの悪行を目撃しちゃってね……」


「……そうか。ならば話は早い……」


 リュリアの青い目に力が籠もるのがわかる。


「あの中にいる魔術師アルタスは特に危険な男で、隠れて放火殺人をしまくっていた男だった。それを捕まえたのがこの私なのだ……」


「……なのに、なんで左遷なんかされるんだ? お手柄だろうに……」


「そうですよ……こんなのおかしいです……」


「……処刑寸前まで行ったが、上手く揉み消されたのだ。残りのメンバーである勇者クリス、戦士ライラ、僧侶ミヤレスカによって……。その結果、何故か私が悪いということになった。私が事件を解決させたいがために無理矢理アルタスに罪を着せたと言われたのだ……」


「……そりゃひでぇな」


「ですね……」


「当然だが、誰もが勇者パーティーの言い分を信じた。逆に自分が処刑される寸前になったが、今までの功績を買われてこの町に左遷させられるだけで済んだのだ……」


 なるほどなあ。リュリアが隠れるようにこんなところに住む理由もなんとなくわかる。そりゃ人間不信にもなるか。種族的にハーフエルフっていうのもあるし余計にな。ただ、ビッチなせいかまだそこまで重症じゃないっぽいな。


「……わかった。リュリア。迅雷剣を渡そう」


「かっ……か、かたじけない……」


 ひざまずき、涙をポロポロと流すリュリア。


「も、モルネトさん?」


 エレネ、俺の判断に戸惑ってるみたいだな。まあ俺は人助けみたいなことをしそうには到底見えないだろうし、そりゃそうか。


「いいから、見てろって」


「は、はい……」


 この俺が迅雷剣をタダで手放すはずもない。ジーク・モルネトだぞ……。


「でもな、リュリア。今日は無理だ。この迅雷剣でやらなきゃいけないことがあるからな。だから明日武器屋『インフィニティ・ウェポン』に来てくれ」


「承知した。本当にかたじけない……」


「……ぷ、ププッ……」


 ……エレネ、勘付いたな。口を押さえたが笑い声が漏れてしまって、リュリアが眉をひそめている。口約束だけしておけばこいつも嬉しいし、一日がループして約束もなかったことになるから俺も嬉しい。まさに両者ウィンウィンってわけだ。


 今回の件で勇者パーティーにはさらにむかついたが、やつらの討伐に関してはリュリアに屈服クッコロさせて味方にしたあとでも遅くはないだろう……。

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