十三話 道具屋のおっさん、キレる。
チュンチュンッ。ピチュチュッ。
小鳥たちの歌声が俺の瞼と耳をノックする。
「ふああ。もう朝かぁ……」
見慣れた天井がなんとも愛おしい。しみったれてて蜘蛛の巣もあって汚らしいが……。
昨日のことは大体覚えている。カードを神様に見せてすぐ、視界が変わって俺の部屋に着いたわけだが、エレネも側にいたからベッドインしたんだ。もちろんスェックスはしてないが。あまりにも眠くて、勃起はしたものの手をつなぐくらいしかできなかった……て、あいつが横にいないだと……?
「おい、エレネ?」
慌てて周りを見渡すも、エレネの姿はない。ベッドの下やクローゼットの中も見てみたがいない。まさか、俺が寝てる間に逃げられたのか?
「――はっ……」
まさかと思ってコートの裏ポケットを確認したら……ない……。無限のカードが……。ちょ……。迅雷剣までも……と、盗られたああああぁぁぁ!
「うぬうぅぅ……」
あの小汚い雌豚めがああああぁぁぁぁぁ……ふざけやがって……。トゥサツしてやるぞ畜生、ルェイプしてやるぞ畜生、てやんでぇバロー畜生!
「……おっ」
涙目になりつつズボンの中をまさぐってみたら、カードの感触があった。
「こ、これは……!」
水晶玉のマークと30の数字が描かれたカードが入っていた。そういや昨日、眠気が酷くてコートの内ポケットじゃなくて咄嗟にズボンのベルト通しに挟み込んでいたんだった。
あいつも俺の隆起した汚いズボン探るの嫌だっただろうしそれが功を奏したな……。でもこれってなんの効果なんだろう。神様に聞く前にループのスタート地点に戻っちゃったからな……。
多分占いかなんかだろーな。藁にも縋る思いでカードをおでこにつけてみると、右上に表示された1という数値がどんどん30に近付くにつれ、何やらドタドタと騒がしい音が迫ってきて、乱暴に扉が開けられて勇者パーティーが俺の部屋に乗り込んでくるシーンが浮かんできた。
「――ちょ、ちょい待って……」
カードをおでこから離すと、映像はピタリと止んだ。……なんだ今の。怖すぎて少しちびったわ……。
これはあれか、未来予知かなんかか? じゃあこの30って、もしかして俺がこのまま何もしなかったことを想定した30分後ってわけか……?
「ま、まさか……」
急いで店のほうに走ってしばらく窓から外を見ていると、やがて勇者パーティーが遠くからこっちに向かってきているのが見えた。しかもエレネまでいる……。
あいつ、俺に復讐するために勇者パーティーを引っ張ってきたわけか……。無限のカードもあるしな。なるほどなるほど……って、納得してる場合じゃない。クソッタレが。急いで道具屋を飛び出し、雪が積もった堀の後ろに屈んで身を隠した。
――来た来た。勇者パーティーが来た……が、いつもと様子が違う。かなり急いでる感じだった。エレネと何やら言葉を交わしたあと、扉を蹴破り、エレネを残して全員店の中に雪崩れ込んでいった。もし俺がまだあそこにいたらと思うとぞっとする。さっきカードで見たシーンが繰り広げられるわけだからな……。
よし、また予知してやろう。カードをおでこにやると、早回しで右上の数字が15に達したとき、道具屋から勇者たちが怒った様子で出てきてエレネを中に引きずり込み悲鳴が上がった。うわっ。ギシアンしてるっぽい。
……なるほど。中に俺がいなかったから嘘をつかれた形になるわけで、標的がエレネに変わったってわけか。いいお仕置きになるとも思ったが、それだと処女じゃなくなっちゃうからまずいな。それにエレネが無限のカードを持っていた場合、勇者たちに奪われるかもしれない。それだけは避けたい。
今から15分後にやつらが道具屋から出てくるのはわかっているので、その前にエレネにそっと近寄り、羽交い絞めにしつつ口を塞いでそのまま拉致してやった。
「む、むぐっ……」
「来いよ雌豚」
道具屋からなるべく離れる。あそこにいたら野次馬も集まってきて危険だからな。
「――よし、この辺でいいか」
昨日通った裏路地をずっと進んだところで立ち止まった。
「エレネ、わかってるな?」
「ちゅーですよね?」
「あ? んなわけねえだろ」
「……えっと、じゃあなんでしょう……?」
白々しいやつ……。ごまかそうとしても無駄だ。俺は執念深いんだ……。
「ま、とりあえずボコボコの刑ね」
「……ぇ」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオアラオララ!」
「もぶぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇ!」
「――……はぁ、はぁ……。ま、こんなところでいいかな」
「……ヒュー、ヒュゥゥ……」
ウッワ、ヤッベ。殴りすぎちゃってこいつ岩みたいになってる。超絶ブスだし息も絶え絶えだし何度見ても笑える。いやあ危ない危ない。もうちょっとで殺すところだった……。




