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十話 道具屋のおっさん、説教する。


『インフィニティ・ウェポン』と書かれた仰々しい看板の一部が見えてくる。


 嫁との優雅な馬車の旅も短かったな。


 元々家族連れが乗ってたんだが、駅で待ち伏せして下りてきたところでガキを人質に取って俺たちがタダで乗ったんだ。ワーワーうるさいオスのデブガキだったから殺してやろうかとも思ったが、一発思いっ切りぶん殴る程度に収めておいた。ブギャーとか叫んで2メートルくらい吹っ飛んでて大いに笑ったなあ。大人を、舐めるな。


 おっと、そうだ。馬車を下りる前にやることがあった。御者の爺さんに忠告しとかないと。


「いいか? 今日のこと誰かにチクったらよ、この女の子の首を切断するからな。ほら、お前からも言えッ!」


「い、言うことを聞いてください。この人、本気です……」


「わ、わ、わかりましてございます……」


 よし、この怯えようなら大丈夫だろう。


「さあ、行こうか、エレネ」


「……はい」


「ほら、お前の好きなチューだ。受け取れ」


「……ちゅ、ちゅう……」


 エレネ、顔面が腫れてなきゃもっといいんだがなあ。俺がやっといてなんだが……。


「あの……」


「……あ?」


「えっと、名前だけでも……」


「モルネトだよ」


「そ、そうなんですね」


「それがどうかしたのか?」


「……だ、だって、嫁ですから、名前くらいは知りたいって思いました……」


「……そうか。そりゃそうだよな。ほかに何か知りたいことはあるか?」


「あの、私の名前はどうして知ったんですか? 兄からです?」


「……あ?」


「……あ、いえ、言いたくないならいいんですけど……」


「凄い力があるんだよ、俺には……。何もかもを読む力がなあ……」


 こうでも言っておかないと舐められたら困るからな。女と畜生は甘やかすな。今作ったことわざだ。


「……そ、そうなんですねっ。でも、それじゃあなんで私のこと、兄の嫁だと勘違い……」


「ん?」


「あ、ごめんなさい。疑うつもりじゃ……」


「疑ってんだろオラッ!」


「うぐっ……」


 腹パンしてやった。軽くしたつもりだったが、結構力が入ってしまったな……。


「ごご……ぐええっ……」


 エレネのやつ、うずくまってゲロ吐き出しやがった。汚い……。これじゃしばらくキスはできんな。


「――しっかし、ホント凄い武器ばっかりだな……」


 まだオルグが帰ってきていなかったこともあり、エレネと一緒にウィンドウショッピングをしているわけだが、惚れ惚れする品揃いだった。悔しいがこりゃ確かに自慢するだけある。


 特にこれ、刀身が細くてギザギザの形になってて面白い。いいねえ。迅雷剣だって。物理攻撃で使う場合は、切るより突くのに向いてるんだと。振ると雷が出せるらしい。説明を見てたら段々欲しくなってきた。


 ……って、非売品だと……? そりゃねえだろ。あれか? 自慢するためだけに置いてるっていうのかよ。オルグらしいや……。


「なあエレネ。これ欲しいんだけど」


「え?」


「欲しいんだけど」


「……え?」


「いやこれ、欲しいんだけど」


「え……?」


「おいっ!」


 エレネの首元にナイフを突きつける。


「……無理です……。超レアなものなんですよ……」


「じゃあ、ここで死んでもいいっていうのか?」


「……ひぃ……嫌です」


「じゃあ貰うぞ」


「で、でも、この特殊なケースは普通の方法じゃ開けられなくて……」


「何? じゃあ、どんな方法ならいいんだ?」


「それは、お兄さんじゃないと……」


「……なるほど。オルグしか知らねえってわけか……」


 試しに思いっ切り蹴ってみるが、びくともしない。鍵穴っぽいのがあるから、鍵さえあればいけそうだがな。




 ※※※




「――ただいまー」


「お……」


 エレネと色々ヤってから武器屋内で仮眠してたんだが、陽気かつダンディな声で目を覚ました。オルグだ。イケメンの顔だけじゃなくボイスまで自慢されてるようで胸糞悪い。


「あ、お客様、いらっしゃ――……」


 俺たちを見たオルグのハンサムで明るい顔が徐々に凍り付いていくのが面白かった。


「ウイッス。オルグ、久々だな!」


「……も、モルネト君か? これは……一体なんの真似だい……?」


 こいつ、アホか。ボコボコ状態のエレネの首にナイフを突きつけてるんだから大体わかりそうなもんだがなあ。


「見たらわかるだろうがボケ! 俺の言うことを聞かなかったらお前の妹の首を切断するってことだよ。ケーキみたいによお……ヒヒッ……」


「兄さん、お願い、この人の言うことを聞いて……」


「……わ、わかった! なんでもする! モルネト君、落ち着いて……!」


 こいつ、まだなんとかなりそうって気持ちが少し顔に出てるな。俺を昔の俺だと思って舐めてるんだろう。気に食わねえ。今の俺はな……ムテキングなんだよ……。


「いいかい、落ち着いて。君がいいやつなのは僕がよく知っている。疎遠にはなったけど、僕たちは元々友人同士だったじゃないか……。君がそんな大それたことをできるやつじゃないっていうのは、理解しているつもりだ」


「ほほー……。で?」


 とりあえず鼻くそをホジホジしつつ聞いてやる。


「き、君は今、心が荒れているんだ。どうか優しい心を取り戻してほしい。ほら、心の目で見てごらん。本当に大事なものは目では見えない……。小鳥も風も太陽の光も、もちろん僕も、みんなお友達だよっ……」


「……で、そいつらは金をくれるのか? ヤらしてくれるのか?」


「……え?」


「もう一度言う。そいつらは金をくれるか? ヤらしてくれるか? できねえんだったら友達でもなんでもねえよ。俺にとっての友達ってのは、自分に都合のいい奴隷みたいなもんなんだよ。てかみんな本音はそうだろうが。なんだかんだ小奇麗な理由つけてもよお、結局はてめえだけ気持ちよくなりたいんだろ。オルグ、てめーもそうだろうがよ。かつての俺みてえに自慢できるやつじゃないと友達として選ばねえだろうが!」


「……」


 オルグのやつ、俺に論破されて放心状態になってるっぽいな。


「おいボケっとしてんじゃねえぞ。ここのよ、迅雷剣ってあんだろ。それを俺にやれ」


「そ、そんなのできるわけが。迅雷剣は僕の店の看板娘みたいなものなんだ……」


「はあ? 要するにお前が糞みたいな自慢をするためだけに置いてあるようなもんなんだろ。なら頂いても問題ねえじゃん」


「で、できない。それだけは……」


「あー、じゃあ妹の首を切断していいよね」


「あ、ちょっと待ってくれ! ほかのものでいいなら、なんでも……」


「ダーメ」


「……わかったよ……わかったよ、もおおおおおぉぉぉ!」


 オルグが鼻水と涙をダラダラと流しながら奥に走っていったかと思うと、憔悴した顔で鍵を持って戻ってきた。あー、人生ってこんなにも簡単だったんだな。なんで気付かなかったんだろう……。

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