72話 商人ギルドのウルファリア
直人は少しだけ悩みつつ1つの扉を叩いた。
「初心者…なに、ダンジョン、いく?」
「いや、今ネネはどこにいる?」
「今は、実家。」
実家というとエルフが住んでいるところか…流石にそこにはいけないな。
「じゃあいいやまたな。」
「次は、ダンジョン、いく。」
イレーネのところへ行けば確実なんだろうがなんか雄彦に会わせるのが危険な気がしてためらうんだよな…ここはやっぱりアストレアかな…
ため息を1つはくと次の扉を叩いた。
「ん?ちょっと久しぶりだねナオト。というか召喚魔法後半に入ったら全然上がらないんだけど!」
扉をノックしたとたん勢いよく開けられアストレアが文句を言っている。アストレアには元の世界に帰るために召喚魔法をお願いしたままだったことを思い出し、直人は少しだけすまなそうな顔をした。
「アストレアごめん。折角覚えてくれようとしてたのに帰れちゃって…」
「あーまあそれはそれで問題ないじゃない。それにこれはどうせなら最後まで覚えてみたいしね。……もちろんそれだけじゃないけど。」
最後にぼそりと言った言葉が直人には聞き取れず少しだけ首をかしげると、アストレアは頭を激しく振った。1つ咳払いをした後アストレアは言葉を続ける。
「で…なんの用かな?」
「王都の入り口が混んでたからアストレア経由で中に入ろうかと思ってね。」
「ふむ…それはいいのだが、何しに王都へ?最近は同じ世界の者とばかり一緒だったでしょ。」
チラリと直人の後ろにいる雄彦のほうへ視線を向けるアストレア。それに気がついた雄彦は少しだけいやそうな顔をする。相変わらず言葉の通じない2人はそれだけじゃなく仲が悪い。
「商人ギルドへ顔を出そうと思ってね。」
「商人ギルド…ああ、たしかにまだ全然早いけどまた祭りの申し込みかしら。」
「祭りって前僕が参加したやつ?」
「そうそれ。前回の反省とか改良点とかの話し合いが終わるとすぐ募集が始まるのよね。それに今回は弟が帰ってくるから私の仕事はなくなるし、ナオトともう少しまわれると思うわ。」
「へ~祭りに弟か。」
そんな話を聞きつつ本来の予定は違うことを告げ、祭りのことは検討することを教えた直人はアストレア経由で王都の中へと入った。
王都の中に入るとあまりに広さに雄彦が驚いて口が開いたままになっていた。それをみた直人はついペットボトルの蓋を開け飲み口をその開いた口に差し込む。
「がふっ?!ぐぼぼっけふっかふっ~~~~~ぜぇはぁ…」
「……ぷっ」
その様子を見たアストレアが口を押さえて笑いをこらえている。
「なにするんだっ死ぬかと思ったぞ!」
「何って…なんか丁度よさそうだったから?」
「意味わかんねぇーーっというかなんでこいつがついてきてるんだ。」
「…?」
こいつと呼ばれたアストレアが指を指されたことに眉を寄せて首をかしげた。言葉が通じていないので何を言われたのかわからなかったのだが、何か文句をいわれたことくらいは理解出来たのでそんな顔をしたのだ。
「アストレアが何でついてきてるのかだって。」
「暇だったから?」
「暇だったんだって。」
「そんな理由かよ!帰れ帰れっ」
雄彦が騒ぎ出したがそれを無視して商人ギルドへと向かう。この騒がしい空気も長いこと異世界にいた直人は楽しくて心地よく感じているので止める理由がない。
「あ……待って置いてかないで~確実に迷子になるっ」
あわてて雄彦は直人と合流するとそのまま歩き続けた。
周りに立ち並ぶ商店を眺めながら一番奥にある商人ギルドをめざす。たまに匂いに釣られて雄彦がふらふらとしたけども寄り道はせず目的地にたどり着いた。
商人ギルドの扉を開けると中は以前より人がいない感じで閑散としていた。
「なんか暇そうなとこだな…」
つい雄彦が思ったことをそのまま口にしたことによって周りがざわついた。
バンッと大きな音がしたと思ったらカウンターの中にいた人が1人こちらに向かって来た。
「いらっしゃいませ、こんな暇そうなところへようこそクソボーズ。」
気のせいかかなり怒ってるんじゃないかこの人…人?
よく見ると青っぽくて犬のように尖ってふさふさとした耳と、耳と同じ色をしたこちらもふさふさとした尻尾が生えている。引きつった笑顔は折角のかわいい顔が台無しだ。
「あーあ、ウルファリア怒らせてるよあそこ。」
「最近まで忙しかったことを知らないんじゃないか?」
「それなら仕方ないかもだけど…でもなあ。ウルファリアが相手じゃ無理だろ。」
周りから聞こえてくる声に耳を傾けた直人はこの目の前の人がどうやら融通の聞かない人だということだけは理解した。
楽しいと思ってた気持ちはすっかりうせ、どうしたものかと直人は悩む。雄彦が何か言い出すまでに何とかしないと大惨事になることが目に見えていた。
「お客様当店にどのような御用でしょうか?」
ニッコリと笑っているがそこには見えない怒気を直人は感じていた。あわてて雄彦を口を塞ぐとそれに気がついたアストレアが前に出た。