67話 人数が増えました
「いや~~これはやばいね!」
「何がやばいの?」
「イヤだって……ん?」
直人と雄彦は直人の部屋に戻ってくるとその部屋には1人女の子が座り込んでいた。長い黒髪を高い位置で束ねたいわゆるポニーテールという髪型が、首を傾けると横に流れた。
「というかあんた達今どっから出て来たのよ…」
「あーその前に聞いていいですか芳香さん…?」
「何を?」
「なんでこの部屋にいるんですかね?」
楠木芳香。直人の隣の家に住んでいる幼馴染で同い年。1人暮らしをしている直人を心配して、たまに様子を見に行くように言われてるらしく、鍵を持っているので出入りが自由だ。それはいい…問題はこの部屋にいたことだ。
「声掛けたわよ?でも返事ないし…靴はあるからいると思って全部屋開けたけど…いないから困っていたら目の前から出てきたのよ。」
どうやらそんなタイミングで帰ってきてしまったようだ。外を見てみると日が暮れ始めていて薄っすらと赤くなっている。異世界へいってから数時間経過していたようだ。
「………」
「……」
「…で?」
直人と雄彦は顔を見合わせるとすでに見られていたということもあり。簡単に説明をした。異世界に直人が召喚され色々あったけど自力で戻ってきて、雄彦と一緒に再びいって戻ってきたところだと。
「すごいわね…」
「信じるんだ。」
「まあ目の前で見たからね。数日見かけないことがあったのはそういった理由なのね…じゃあもしかしてその異世界とこっちの世界は時間の経過が違うのね…」
「あーうん。そうみたいだよ。」
顎に手を当て芳香は何か考えているようだ。
「ねえ、私も一緒に行けるかしら…」
「多分いけるけど…多分今日はもう行かないよ?」
「じゃあ明日の朝!」
「たけ~明日も行くのか?」
「イエス!」
「だそうだ…」
「明日朝来るから置いてかないでねっ…置いてかないよね?」
聞きたいことやいいたいことを終えた芳香はさっさと帰っていった。明日は3人で異世界へ遊びに行くことになった。
時間のずれの関係でおなかのすいていなかった2人はお風呂を済ませると、今度はちゃんと勉強をすることにした。直人はぼちぼち出来るほうで余程難しいものでない限りは問題なく出来ていたが、雄彦は苦手らしく何度もつまずいて臥せっていた。こんな状態で遊びまわるとかいい度胸である。
「も、無理…寝る。」
「まだ30分も経ってないけど…」
「今はまだ本気を出すときではない…はず!」
いつ本気を出すのか知らないけどまあ…いいならいいか。
先に横になってしまった雄彦を放置して直人はもう少しだけ勉強するとベッドに入って眠った。
ピンポーンピンポーン…ピポピポピポピンポーン…
何度も玄関のチャイムが鳴り響く。どうやら誰から来たようだ。まだ眠い目をこすりながら起き上がった直人は大きな欠伸をしながら立ち上がると、部屋のドアノブに手を掛け外側へと開こうとした。
「おわっと…」
外側から引っ張る力も加わり直人は転びかける。
「おっそーーーい!」
ドアを引っ張ったのは芳香のようだ。待ちきれず家の中まで入って呼びに来たらしい。
「…ってまだ着替えてもないじゃない!」
「チャイムで起きたからな。…まだ7時じゃないか。」
時計を確認するとまだ朝の7時で、芳香が来るのが早すぎただけのようだ。確かに朝とは言ったが出かけるにしても早すぎる時間だ。
「まだ、じゃないでしょう?」
「たけだってまだ寝てるし…せめてご飯食べてからでいい?」
「しかたないわね…」
雄彦を無理やり起こし、ご飯を食べ身支度を整えると、3人は直人の部屋にそろっていた。
「なあ芳香…荷物多すぎじゃね?」
「ほんとだ何が入っているの?」
さっきは気がつかなかったが芳香が大きな鞄を持っている。少し小さめなキャリーバックというやつだ。
「女の子の持ち物を知りたいだなんて…っ」
「いえ、何でもありません…」
芳香さん目付きがこわいです。どうやら聞いてはいけないらしい。
「さて、どうすればいいのかな?」
直人は『ディメンションウォール』を開くと2人に中に入ってもらう。それを確認した後『転移10』を使用し異世界へ移動をした。
相変わらず一瞬でついてしまうのであまり遠くに来た感じはないが、これでもやっぱり異世界で見慣れない景色を直人はじっと眺める。
「…と。2人に声掛けないと。」
中に入ると、
「まだ行かないの?」
「いや、ついたけど?」
「早いのね…」
初めて入った『ディメンションウォール』の中をキョロキョロとしていた芳香はあまりの速さに驚いていた。
「変わった生き物がいるからもう少し見てたかったけど…外も見たいものね。」
みんなで外に出ると丁度ダンジョンの入り口が開いて海が割れていた。
「…………」
「相変わらずすげーな…!」
「い、異世界というのは伊達じゃないのねっ」
海が割れるというのはそれだけで異世界を感じさせるに十分だったようだ。芳香も来るのが2度目な雄彦もしばらく海を眺めていた。