54話 終末の足音
「マリーナス…広すぎないか?」
「建物、多くて、ごちゃごちゃ…」
地図を手に入れるために直人とネネは町の中を歩いている。門から港に向けて広い通りがあり、その両サイドに階段状に建物がたくさん並んでいるのだ。建物同士の間に通路はあるものの、まるで迷路のようである。
「地図だから…本屋とか雑貨屋…あとは冒険者ギルドとかにいけばよさそうか?」
「ギルド、有力。」
「ギルドか…」
ネネの意見にしたがい冒険者ギルドに向かうことにした。大体ギルドというものは門の傍か、ダンジョンの近くと決まっている。このまままっすぐ中央の通りを門へと戻ればあるはずだ。
「ないな…」
門まで戻ってきたがそれらしい建物はなかった。ということはダンジョンの傍にあるのだろう。
「とりあえず本屋にいくか。」
先ほど通った途中に本を扱っている店を見つけていた。そこで地図を探しつつなかったらギルドに顔を出せばいいだろう。
本屋の前に着くとネネが不思議そうな顔をしていた。
「ここ…地図、ある?」
「…ないのか?」
看板には本を開いたマークが書かれているのでてっきり本屋だと思ったのだが違ったのだろうか。
「まあ入ってみるか。」
扉をくぐり中に入ると棚には本が並んでいた。やはり本屋で間違っていないようだ。でもネネは別のほうを見ている。その視線をたどると、よくわからない器具などがならんでいた。
「魔道具。」
つまりここは本屋というより魔法ショップという感じの店のようだ。
「めずらし~あんたたち客なの?」
奥にあるカウンターに伏せていた女性がこちらに声をかけてきた。暇なのかとてもだるそうだ。
「すみません、地図ってどこに行けば手に入りますか?」
「ちずぅ~~?一体どこのが欲しいんだい…」
「えーと、この海を越えた先のです。」
「………」
女性は驚いた顔をしたかと思うと、頭の天辺からつま先までじろじろと見てきた。何か変なことを言っただろうか…
「…何しに行くんだい?」
「え?」
「この陸地以外の陸地に行きたいってことだろう?何しに…」
「えーと…観光のようなものですかね…」
観光なら問題ないと思い言ってみたのだがどうやらそれは勘違いだったようだ。その言葉を言ったとたん女性の様子がおかしくなった。顔は青くなり、体は小刻みに震え呼吸が荒くなった。
「大丈夫ですか?」
熱でもあるのだろうかと手を額に伸ばすと、すごい勢いで後ずさりをした。すぐ後ろに壁があるので下がることは出来ないのだが。
「あんた、何者……?この陸地の人間じゃないね?」
「んーというかこの世界のことがよくわからないってのが正解かな…」
「そうか…記憶喪失とかそういった類か…なら知らなくてもおかしくはないか……」
姿勢を正すと女性は棚から1冊の本を出してきた。
「……?」
「この本を読みな、この世界の過去について書かれているから。」
渡された本は子供でもわかるように書かれた絵本だった。
「終末の足音…」
タイトルからしてあまりよくない話のようだ。表紙には子供が2人抱き合うようにしており、その背後には大きなスライムがいる。ページをめくり中を読み進めることにした。
この世界にはダンジョンと呼ばれる畑が多数存在していました。
そのダンジョンの底は深く、先が見えません。
ある日そのダンジョンの中から初めてみる種族が現れました。
その男はこういいました。
「おや、畑がこんなところまで出来てしまいましたか。」
どうやらこの男が畑を作ったひとだったようです。
そんなこととは知らず私達は好きに収穫してしまっていました。
ある日村の村長さんがその男に謝りに行こうと畑に入っていきました。
するといつもと畑の様子が違ってたくさんの作物が出来ていました。
その作物はみるみるうちにあふれ出し、村長さんの村まで埋め尽くしました。
畑の男が出てきて逆に謝ってきました。
その日から男のほうがあふれない様に収穫を頼んできました。
ですがやはり人様の畑。村長さんは収穫するのをためらいました。
するとどうでしょう…どんどんと作物があふれてくるではないですか。
こうして村人達は作物に追われ外へと押し出され、どんどんと住む場所がなくなってきたのです。
村人達は住んでいた陸地を捨て、海を渡りました。
そこはまだダンジョンがありません。村人達はほっとしました。
ところがある日、ダンジョンが1つ現れました。
村長さんはあわててダンジョンで収穫をすることを村人に言いました。
この陸地も作物であふれてしまうと人は住む場所がなくなってしまうからです。
村人達は子供達にこのことをしっかり伝えていこうと決めました。
そしていつかはあの作物であふれた陸地を取り戻せることを祈って…
絵本を読み終えた直人は考え出した。この内容はどう見てもスライムの氾濫についてのことだった。今いる陸地には確認しただけでも5つのダンジョンがある。ということは他の陸地に10個はダンジョンが存在しているはずである。
ということはその10個のダンジョンが今すべて放置で、あふれたままということもある…のか?
この絵本の話が本当だとすればだが。
一度地下都市にいて魔王にでも確認してみるか…