50話 祭り最終日
祭り3日目、最終日。直人は起きると1階で食事を済ませ、まずは魔法道具店のほうへ足を向けた。今日でこの店でお世話になるのは最後になる。用があれば来るだろうがたぶんもう教えてもらうこともないし、一緒に来年祭りに参加するということもないからだ。短い間だったけど世話になった店の周りの掃除をすませる。それが終わってから露店のほうへ顔を出した。
「おはようございますー」
「おはよーナオト。今日で祭り最後だねー」
「うん、ほんと助かったよー」
資金の調達ができ、魔法道具の作り方を教わり、お礼に作る魔法具のアイデアを出すことが出来た。オルガとラスティンにも感謝を忘れない。
祭りの準備を始めるとネネとクラスタは今日も手伝いに来てくれた。もちろんこの2人にも散々世話になってるのでお礼を忘れないようにしよう。ちなみに元両親であるテンタチィオネとサラキアはここにくる原因を作った人なので、お礼対象外だ。まあいつかテンタチィオネが自分で作れるようになるだろうからいいだろう。
「ねえナオト、今日祭り終わったらどうする?」
「祭りが終わった後?」
特に予定はない、片付けたら帰るだけだ。
「んーないかな?」
「祭り最終日の夜に祭りで出たゴミや壊れてしまった露店、道具などをまとめて燃やすんだけど。すごい大きな火柱が上がるの。で、その火柱が今にも天に届きそうだということで、その燃やす対象に天に届けて欲しい願い事を書いて火にくべるんだ。」
「つまり…それを見に行こうという話?」
「そう!」
もしかすると祭りの本来の目的は最後のそれなのか…?そうであるなら行ってみてもいいかな直人は頷いた。
「ナオトさんオルガさんと行くのですか?」
「え、なんかいけないのか??」
クラスタが不思議そうにこちらを覗きこんでいる。
「オルガさん説明省くのはずるいですよ?」
「えーっべつにいいじゃない…」
よくわからないがオルガがなにか省いた説明があるらしい。そのせいでクラスタがくちをはさんだようだ。
「願い事です。その願いの対象になる人物と一緒に火にくべると願いが叶いやすいと言われています。」
「なるほど…」
「つまりオルガさんの願いを優先していいのですか?という話です。」
たしかに直人は元の世界に帰るという願いがある。でも願ったからといって帰る手段も探さずいたら帰れるはずはない。
「じゃあこのさいみんなで行けばいいんじゃないか。人数制限があるわけでもないだろう?」
「まあそうだけど…」
「じゃあアストレアとかテンタチィオネにも声をかけておくか。」
念話でアストレアに連絡取ると《がんばって抜け出してくるわ。》と返事があった。テンタチィオネは《その場には行くつもりだから見かけたらよろしく。》とのことだった。
「すいませーん。この商品の説明をお願いします。」
「わかりました。」
クラスタがなれたように商品の説明をしている。その隣では紙に必要事項の記入を促すネネ。3日目だというのに直人の作るアクセサリーはまだ列が消えない。やはりその場で作るのがいけないのだろうか。でもこの方が商品が余らないのだからこれはこれで悪くないと直人は思っている。
「あ、今の人で鎖が最後です。」
「お…?」
「相変わらずよく売れてるわね…」
「まあでも付与する人は少ないからそうでもないんじゃないかな?」
その後すべての注文を作り終えた直人たちは少し早めの撤収作業をした。みんなとは日が暮れるころまたここで集まることを約束し、いったん各自自由になる。
直人はその空き時間を利用し、少し『転移8』の確認作業をすることにした。
まずは「行った事がある場所」というのがどういった範囲なのかの確認からしてみる。最初に試すのは建物の中へ飛べるのか。ということで、今利用している宿へ『転移』を試す。これはあっさりと成功した。
建物の中へも可能…と。
次に試すのはダンジョンの中。今いる宿からダンジョン『サラキア』の地下5階へ飛ぶ。
ダンジョンも可能…と。
最後に距離も稼ぐために一度地下都市まで飛んだ後、この間行った『テレノ』のダンジョン前へ飛んでみた。
これも可能…と。
『転移8』だと中距離らしいいがまだまだ距離は飛べそうだ。これ以上はまず直人が直接行ってみないと確認することが出来ない。空も薄っすらと赤くなり始めているし、この先の距離稼ぎは明日以降順番に進めていくしかなさそうだ。
集合場所へと『転移』で一気に戻ると、オルガとクラスタがすでに来ていた。あとはネネとアストレアがくるのを待とう。
「そういえばナオトさんは願い事何に書いてきましたか?」
「あー…忘れてた。」
すっとクラスタが紙の束を渡してくる。直人が作っていたアクセサリーの注文書のあまりだ。
「この祭りで使用した、あまり物。これでいいかと思います。」
「ありがとう。」
素直に受け取った。確かにこれはあまりものだ。どうやらクラスタもこれに書いたらしい。折りたたんだ紙を持っている。
「願いか~何にするかな…」
「あ、ナオトさん願いは口に出したり人に言わないほうが叶うそうですよ。」
「そうなのか…じゃあ口に出したことがない願いのほうがいいってことだな。」
「そうかもしれないです。」
ペンを手に持つと直人は願い事を紙に書いた。
《元の世界に戻ってもまたみんなに会えますように。》
元の世界に戻りたいのが一番の願いだが、これは何度も口に出しているので遠回りにお願いする形にしてみる。この願いならまず元の世界に帰るのが大前提だ。そしてまたここで出会った人達と会えるのならきっとそれはうれしいことにちがいない。
「おまたふぇ…」
もごもごと口を動かしながらネネが来た。また何かその辺で買ってきたようだ。
「いやーびっくりよ…途中で見かけたから一緒に来たんだけど、ネネ食べすぎよね…」
アストレアも一緒に来ていたようで、これで全員そろった。
「よぉーしみんなそろったし火の傍にいこーっ」
「いこー」
ぞろぞろと火がたかれている中央に行くとすでに火の高さはずいぶん上がっていた。周りの人がどんどん投げ込むとそのたびに高さが増していく。火が横に来ないように多くの魔法が使える人が囲み火を上へ誘導しているようだ。
「あ、父さんもいる…」
テンタチィオネはその火を囲んでいる人の1人であった。たしかにこれなら絶対来ることになっていたはずだ。それを見ながら直人たちはそれぞれ持ち寄ったものを火の中へとくべた。
火はいろんな願いごとを燃やしながら天へと高く高く伸びていく。そこにいる誰もがその伸びていく火をずっと眺めていた。