たとえばこんな異世界ライフ

第2章 転移者

12話 現実はこんなもの

「そんなわけで直人、僕が召喚したのは君なんだ。」

「へー」

　まあ夢とはいえ召喚されるのにも事情はあるか。

「こんなことになって驚かないのか？」

　逆に驚き、聞き返してくる。そもそも夢だと思っているのでそんな設定なのか、くらいに思っていた。

「事実なら驚いてもしかたないし？」

「そういうものか……？」

　一息はくとテンタチィオネは会話を続けた。

「まあ、大体の事情はわかってもらえたと思うが…何か聞きたいことはあるか？」

「そうだな…」

　1番聞きたいのはこの夢がいつ覚めるかだけど、聞いてもわからないだろうな…。自分の意識が覚醒するの待つしかないか。他には…

「ああ、そうだ。俺と会わせてその魔族の子が思い出したとするよ？その後どうするんだ？」

　そう言うとテンタチィオネは少し考えた。

「そうだな……その後のことは考えていなかったな。」

　あきれたものだ。

「まあ、あれだよ。別にどうもしないが、知り合いのような気がしてな。直人が呼び出されたのでさらに可能性があがった。」

「ん？ということは僕の知り合いでもあるということか…魔族の子もあんたも。」

　少し考えてみる。僕の知り合いや身内ですでに亡くなった人…友達はそれほどいなかったし生きている。親戚とかは亡くなった人もいるがそれほど親しくはない。

「思い当たるのは両親しかいないんだけど…」

「…なにっ直美もしんだのかっ？」

　……ん？母さんの名前を知っている⁇そういえば僕の名前も初めから知っていたよな。クラスタが報告でもしていたのだろうと思っていたのだが違ったのか？

「もしかしなくても父さん……？」

　父親は5年前にすでに亡くなっていた。車同士の事故である。

　テンタチィオネは頷いた。

「まじかー……」

　ひどい夢である。死んだ父親が異世界で冒険者となり魔族の少女の記憶のために宮廷魔術士を目指し、挙句召喚魔法で実の息子を呼び出すとか。

「じゃあ魔族の子はきっと母さんだね。2年前に亡くなったんだ。」

「そうか……」

「なんかもうバカらしいから元の世界に帰りたいわ。」

　脱力感がひどい。そろそろ目が覚めてほしい。

「無理だな。」

「…何？」

「召喚条件だよ。『魔王討伐の勇者としての召喚』だからな。」

「それってつまり……」

「魔王に死んでもらわなければならない。」

　頭を抱えてしまう。僕の（元）親はこんなに馬鹿だったのかと。

「早く目を覚ませ僕ーー！」

「現実をうけいれてくれっ」

　しばらく騒いだ後現状確認をすることにした。

「ところでクラスタがずっと静かなんだが？」

「ああ、話が終わるまで口を出さないようにしてもらってたからだよ。もう会話に入っていいぞクラスタ。」

　クラスタは口を開く許可がもらえ、まずは深呼吸をした。

「まずは謝らせてください。」

　深々と頭を下げる。

「「なにを？」」

　色々ツッコミどころが満載だったので何を謝っているのかわからない。

「お二人が会わないように妨害してしまったことです。」

　言われてみればそうだ。クラスタは僕を助けてくれてからほとんど側にいたのにテンタチィオネにはそのことが伝わっていなかったようだ。

　クラスタは貴族の娘でテンタチィオネはその家にメイドとして働いている者の子供だった。クラスタが10歳、テンタチィオネが3歳のときに出会った。クラスタは弟が出来たようで嬉しかった。2人でよく遊んだ。

　それから2年経ち、テンタチィオネの様子が変わった。この時に過去の記憶を思い出していたようだ。それからというものテンタチィオネは魔法の練習ばかりするようになりクラスタと遊ぶ機会が減り、クラスタも同じ話題欲しさに魔法を学ぶ。

　気がついたらテンタチィオネは宮廷魔術士になっているわ、たびたび女の子のとこに通っているわでクラスタは面白くなかったわけである。弟を取られてしまったと思っていたわけだ。

　そこに召喚対象の行方不明を聞き偶然直人を見つけたわけである。この子を渡さなければ私のこと頼って探すように言ってくるはず。頃合いを見て差し出せば喜ばれると思った。

　実際は差し出すまえにダンジョンの前で見つかってしまったわけだ。

「クラスタの行動がおかしかったからね。ダンジョンの前で直人を見てすぐに気がついたよ。自分の子供の顔した子がいたんだから。」

「（元）親子だとは知らず申し訳ありませんでした。」

　つまりはヤキモチからの妨害だったわけだ。

「…で召喚対象見つけたら渡すようにお願いした魔法具はどうしたんだ？」

「それならば最初にあったときに渡してあります。」

　クラスタが魔法具をすでに渡していると言う。

「魔法具？」

「はい、この指輪です。」

　指についている魔法具を見せる。会話と移動用の魔法具だ。クラスタから受け取ったものは麻袋くらいしかない。

「もしかしてこれか？」

　ポケットから麻袋を取り出す。最初に受け取ったまますっかり忘れていたものだ。袋を開けると確かに指輪が入っていた。

「………」

「指にはめないと効果がないからね？」

「はめるかどうか賭けみたいなものでした。でもその前に見つかってしまいましたし。」

　もう深く考えないようにしよう。

「で、魔王は本当に進軍してくるのか？」

「いや、来ないだろなー」

「あーあの昔魔物が溢れたやつもただの畑の作物が育ちすぎただけみたいなものだしな。」

「石化魔法をかけられたと聞いたけどあれは？」

「溢れた作物の回収に来ただけみたいだ。」

　つまり、イレーネの石化は手違いだから話に行けば直してもらえるわけだ。