二人の時間
僕達の時間は二駅先で始まる。
オレンジ色の光が電車の窓越しにチラチラと僕の顔を照らす中、電車が止まり僕のいる反対のほうのドアが開く。
この駅で乗り換える人が多く、大勢の人が下りていく中、僕の耳に聞き慣れた女性の声が聞こえてくる。
「ばいばい、また明日ね」
「うん、あとで、連絡するねー」
その声に目をやると、ストレートに長い黒髪が良く似合う、僕の学校の制服を着た女の子が、座りながら手を振っていた。
少しすると、電車のドアが閉まり、僕とさっきの女性以外に同じ制服を着ている人が見えなくなる。
「ああ~疲れた~」
彼女は車両に僕しかいないことを確認すると、大きな声を出しながら姿勢を崩す。
「気を抜くのは良いけど、そのままだと見えるぞ」
僕も気を使わずに話しかけると、彼女も返事をしてくる。
「見たらコロス」
「へいへい」
彼女は姿勢を戻すと、横に来い。と言わんばかりに自分の右手で座席を叩く。
僕が移動して彼女の横に座ると、彼女は僕の肩にもたれ掛かってくる。
「今日は本当に疲れたの、着いたら起こして」
「ん、わかった。おやすみ」
「ん」
そう言って彼女は僕に体を預けると、目を閉じる。
しばらくすると彼女は横で寝息を立てはじめる。ふと彼女の顔を覗くと綺麗な顔で眠っていた。
僕がボケっと眺めていると彼女の顔から一滴の涙と寝言が漏れる。
「無視してごめんね」
彼女は学校で、僕と距離を置いている事を気にしているのだろうか。そんなことを考えていると、また、口が動き出す。
「嫌いじゃないよ」
「…俺は好きだぞ」
僕が彼女の寝言に小さい声で返事をすると、左肩に当たる彼女の顔が少し熱くなっていることに違和感を覚えて、彼女の顔を覗くとニヤケ顔になっていた。
「いつから起きてた?」
「…ずっと」
「そうか…俺は好きだぞ」
「…なんでもう一回言うのよ」
「いや、なんとなくだよ」
「そ…私も好きよ」