第六話
アンが応接室を出て行くと、ケイトリンは改めてユーリに話しかけた。
「ユーリさま。あの、スージーのことですが」
「ああ、そうだね。お詫びをしなくては」
「そうではなく、スージーの気持ちは察していただいていますか」
「あ、ああ、それは……身に余る光栄だ……」
青い目を伏せると、ユーリは言った。
「だが、今は……」
「はい……」
ユーリの辛い気持ちを察して、ケイトリンも目を伏せた。
私もセドリックさまのお傍にいたい。
いますぐにでもお会いしたい。
けれど、それは許されない。その行為はきっとセドリックさまの立場を悪くすることだから。
大切な人だからこそ、会えないのだ。
「副長! ケイティ!」
小さくケイトリンが溜息をついた時、アンが血相を変えて部屋に駆け込んできた。後ろには同じく顔色を失ったトムたちが続く。
「何だ、どうした?」
ソファーから立ち上がったユーリにトムが言った。
「俺たちも耳にしたばかりで、何が何やら判らないんだが、城からお達しがあったらしく、今、国中が騒然となっている。号外が配られて、情報も錯そうしていて……」
「内容は何だ!」
「隊長が、セドリック殿下が」
「殿下がどうした!」
胸ぐらをつかむ勢いでユーリが詰め寄ると、苦々しい表情でトムが言った。
「国王への謀反を疑われて身柄を拘束された、と」
「何だと!」
「そんな……!」
ケイトリンが立ち上がろうとして、すぐにソファーに倒れ込んだ。それを慌ててアンが支える。
「ケイティ、しっかりして」
「ああ、アン。どういうことなの? 謀反って何?」
「判らない。情報がまだ何も掴めていないのよ。みんな、あれこれ噂していて、混乱しているの……ただ」
「ただ?」
「隊長の王位継承権が剥奪されるのは確実らしいわ」
王位継承権?
ケイトリンの頭に、美しい女性のシルエットが浮かんだ。
あまりに遠い存在で写真か遠目でしかその姿を見たことが無かった。
グレイシア王妃……。
あの方がまさか。
「……ユーリさま」
怒りと失望に震えているユーリに真っ直ぐな視線を向けるとケイトリンは言った。
「まずはすべてを、あなたやセドリックさまに今、何が起きているのかを私たちにお話しください」
ケイトリンはすっと姿勢を正すとソファーに座り直した。
「セドリックさまをどうお救いするのか、考えるのはその後です」
「……判った」
深く息を吸って気持ちを整えると、ユーリは呆然と立ち尽くしている部下たちを見渡して言った。
「これからすべてを話す。判っているだろうが、生易しいことではない。話を聞けば抜けることは出来ないぞ。覚悟はできているか」
「当然です」
「聞くだけ野暮ですよ」
全員が不敵な笑みを浮かべた。
「さて、作戦会議といきましょうや」
頷き合うと、ユーリとケイティを中心に円陣を組むように集まった。と、その時、あっと声を上げたのはアンだった。
「ニールとあの男のこと、忘れていました。それからガーランドのお譲さんを護衛しているセルコもいません」
「ああ、そうだったな」
「ニールやセルコはともかく、あのカイルとかいう男、どうします?」
「解放してやれ」
「え? いいんですか?」
「カイルと話したことで、少し見えてきたことがある。お礼にこちらからも土産を持たせてやろう」
「はい? 土産って?」
「散々やっていただいた。今度はこちらから仕掛けてやろうじゃないか」
「……副長」
「うん?」
「惚れそうです」
にやりとアンに笑われて、ユーリは苦笑しつつもどこか誇らしげだった。




