表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/127

第八話

「ケイティ……ありがとう。だけど」

 ケイトリンの肩に甘えるように頭をもたせかけると、スージーは悲しくつぶやいた。

「私、嫌われているみたいなの」

「そんなことないわ!」

「いいえ。私、はっきりとユーリさまに拒絶されたのよ。あの方に腕に触れようとしたら、すぐに振り払われた。それってどう考えても嫌われているでしょう」

「きっと何か理由があるのよ。そうでなければあなたのことを振り払ったりするわけ……」

 ケイトリンはそこまで言って、はっと息を呑んだ。何かがひっかかったのだ。

 え?

 ユーリさまの腕に触れて……?

「どうしたの、ケイティ?」

 不意に黙り込んでしまったケイトリンをスージーは不思議そうにみつめた。

「そんな真剣な顔をして」

「……ねえ、スージー。あなたはユーリさまの右手に触れようとしたのよね?」

「え? ええ、そうね。右手だったわ」

「そして、振り払われたのね?」

「そうよ」

「スージー」

 ケイトリンはソファーから立ち上がると、優しくスージーの手を引いた。

「あなたはこのまま、すぐにお屋敷に帰って。外にあなたを護衛してくれる軍人さんがいらっしゃるから、何の心配もいらないわ」

「え。護衛って……ねえ、ケイティ、あなた、何か……?」

「スージー、お願い。今は何も聞かないで。だけど、これは信じて欲しいの」

 ケイトリンはしっかりと親友の目を見て言った。

「ユーリさまはあなたのことを嫌ってなどいないわ」

「だけど」

「お願い。もう少しだけ、私に時間を頂戴」

「ケイティ……?」

 困った顔でスージーは、しばらくケイトリンを見返していたが、揺るがない彼女の瞳に、やがてゆっくりと頷いた。

「判ったわ、ケイティ」

 ようやくいつもの笑顔に戻るとスージーは言った。

「今は何も聞かない。だけど、その時が来たらすべてを話してね」

「ええ、勿論よ」

 ふたりは頷き合い、そして微笑み合った。


 スージーをセルコに預け、帰途につくふたりを見送るとケイトリンは自分の部屋に戻り、ベッドに座り込んだ。別室にいるトムたちに話を聞いてみることも考えたが、その前に頭の中を整理してみたかったのだ。

 先ず引っかかったのは、ユーリの右手だった。

 ケイトリンは黒の樹海で起こったことを、ゆっくりとそして正確に思い出そうとしていた。

 ……あの時、黒の樹海でユーリさまが怪我をされたのは……右手、だったわ。

 そして、その傷を癒すために使ったのは……『虹のかかる泉』の水。

 ケイトリンはぞくりと背中に悪寒が走った。

 あの水を使ったことで、ユーリさまの身に何かが起きている? そしてそれはきっと……良くないこと。

 だから右手に触れようとしたスージーをユーリさまは振り払った。彼女を守るために。

 ケイトリンは弾かれるようにベッドから立ち上がった。

 どうしよう。

 ユーリさまが怪我をしたのは、そもそも私のせい。

 私のせいで大切な人たちが悲しい思いをしているなんて……そんなこと……あってはならないわ。

 ケイトリンは落ち着かず、部屋の中を歩き回りながら考えた。

「私やスージーにユーリさまが護衛を付けたこともこのことに関係があるのかしら。一体、今、私たちの周りで何が起きているの……!? ああ、セドリックさま! お会いしたい……!」

 不安で仕方なくなって、ケイトリンは思わず、愛しい人の名前を呼んだ。気を抜くと途端に涙が溢れそうになる。

 きっとセドリックさまなら、しっかりと私を支えてくださるはず……ああ、だめよ。

 ケイトリンは慌てて首を横に振って、自分の弱さを追い払った。

 セドリックさまに頼ろうだなんて!

 こんな弱い私を、あの方はお許しにはならないわ。

 ケイトリンは大きく深呼吸すると、真っ直ぐに顔を上げた。

 ……考えるのよ、ケイトリン!

 大切な人たちのために、私は先ず何をしなくてはならないの?

 ケイトリンは立ち尽くしたまま、ひとりきりで長い時間を考え込んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ