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第六話

「あの、それで……どういうことなのかしら」

 一方、ウィルローズ家では、ケイトリンが困惑顔で庭先に佇んでいた。

「あ、あの、みなさん?」

「よし、ここはそろそろ終わるぞ。おーい、クリス。そっちはどうだ」

「こっちももう終わるよ。しっかし、広い庭だな。抜いても抜いても果てがない。まだ向こうの方は手付かずじゃないか」

 と、第一部隊所属のクリストファー・リブはしゃがんでいた身体を伸ばすと、離れているところで草抜きに精を出しているフラン・エランに聞こえるよう声を張った。

「日に焼けて俺の美貌が台無しなるよ。そろそろ終わろうよ」

「美貌って……お前、どこの姫君だよ?」

「そうだそうだ。もっと真面目にやれよ、お前ら」

「って、トム。ベンチに座って休憩のしすぎだよ、あんたは!」

「あ、あの、みなさん、ちょっと聞いてください!」

 ケイトリンが更に一歩踏み出すと必死に声を出した。

「どうしてみなさんが、ここにいるのですか。あ、いえ。いてくださってもいいのです。でも、どうして庭の草抜きをしているのですか? お客さまならどうぞ、屋敷の中に……」

「俺たちはお客さまじゃないよ。こうして庭にいれば、この屋敷を監視している奴がすぐ判るだろ。草抜きはいい暇つぶし。気にしないでいいよ」

「え? この屋敷を監視している人がいるのですか?」

 フランが立ち上がると、膝についた土を払いながら唖然としているケイトリンに向き直った。

「今、第一部隊は特に任務もなく待機中なんだ。訓練っていうのもいい加減飽きるしなあ。で、殿下の婚約者とそのご家族の護衛をすることにしたんだ」

「……あ、あの、もう私は婚約者では」

「名目上はそうだろうが、殿下の大切な人ということには変わりないだろ」

「え。あ、あの」

 顔を赤くして俯いてしまったケイトリンに、好意的に笑いかけると、フランは声を落として言った。

「護衛することは、副長からの命なんだよ」

「え? ユーリさまが? どうして……」

「うーん。副長に思うところがあるんだろうな。君の友達にもアンとニール、それからセルコが交代で護衛に付いている。あいつらの場合は、面識がないから屋敷の外から彼女の安全を見守っているわけだけど、君は俺たちの仲間だからな、こうして付かず離れずで護衛しようというわけさ。敷地内にいれば守りやすいからね」

「え? 待って。友達って……スージーのこと?」

 ケイトリンは、驚いてフランに身を乗り出した。

「スージーに護衛ってどういうことなの? 危険が迫っているの?」

「落ち着いて。もしもに備えているだけだよ」

 クリスもケイトリンに近づくと言った。

「君たちに何かあってからでは遅いからね。というわけだから、僕たちのことは気にしなくていい。いつも通りに過ごしてよ」

「そういうこと」

 トムも同調し、優しく微笑む。しかしケイトリンは納得がいかず首を横に振った。

「だめよ。何が起きているのか説明をして。私のせいでスージーにまで危険がおよんでいるというのなら、私……!」

「そうじゃないよ。説明したいのはやまやまだが。実は俺たちも詳しいことは知らないんだ」

「それはどういうことなの?」

「……もっと上の方で何かが起こっているってことだろうな」

「上の方?」

 ケイトリンの顔が険しくなる。

「それは……セドリックさまに何か……」

「いいかい、ケイティ」

 トムがケイトリンの手を取ると優しく言った。

「君の気持ちは判る。だが、今は大人しく俺たちに守られていて欲しいんだ」

「トム……」

「それが隊長のためでもある。俺たちに任せて欲しい。いいね?」

 ケイトリンは何か言いかけたが、真摯なトムたちの表情に、結局言葉を呑みこんだ。心は不安に沈んだが、あえて笑顔を作った。

「判ったわ。だけど、私からもひとつ、お願いがあるの」

「うん? 何だ?」

「お屋敷の中に入って。食事とベッドの用意をさせて頂戴。お願いよ」

「あ、いや。そうはいかない。夜間は交代で寝ずの番を」

「それはありがたい」

 トムの言葉を遮ったのはクリスだった。彼はご自慢の銀髪を指でかきあげながら言った。

「庭で野宿は美容に悪いからね。助かるよ」

「お前なあ……」

「さあ、みなさん、どうぞ」

 ケイトリンが玄関を手で指し示しながら微笑んだ。

「一階にみなさんが休める場所を作ります。それならもし、誰かが屋敷に侵入してきてもすぐ判るでしょう? それでいいわね?」

「……判ったよ」

 トムとフランは顔を見合わせると、仕方なく頷いて言った。

「それじゃあ、しばらくの間、厄介になるよ」

「はい。いらっしゃいませ」

 ケイトリンの笑顔に三人もつられるように微笑んだ。



「で、これはどういうことだ?」

 いつも部隊の飲み会で使う裏通りのさびれた酒場で、平服を着たセドリックが腕組みをして、既にテーブルについているふたりの男を睥睨していた。

「どうしてここにユーリがいるんだ、テリュース」

「ああ、やっぱりそこ、気になりますか」

 屈託なく笑うと、テリュースは改めて隣に座るすまし顔のユーリと苦い顔で立ち尽くすセドリックとを交互に見た。

 今、彼らがいるのは、店の入口からは見えない所にある奥のテーブルだ。おまけに薄暗いため、よほど近づかないと知り合いでもそこにいるのが誰か判別がつかないという、まさに密会にはうってつけの場所だった。


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