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第五話

 帰る、のか。

 軽く肩を竦めると、その人物は十分な距離を取って彼女たちの背中を追った。

 ガーランド家に到着したスージーと花束を抱えたメイドが屋敷の中に入って行くと、尾行していた彼は、何食わぬ顔でそのままガーランド家を通り過ぎたが、角を曲がったところで不意に足を止めた。

 そこからガーランド家を見張るのかと思いきや、屋敷にはまったく注意を払わない。彼が気にしているのは、自分と同じように彼女たちの後ろをつけていた別の男の存在だった。

 その男は、彼の存在には気が付いていないようで、ガーランドの屋敷を時折見上げながら、裏手の方へと歩いて行く。

 すかさず彼がその背中を追うと、男はガーランド家の裏口あたりで足を止め、そこから中の様子を伺うべく扉に身体を寄せている。あわよくばそこから敷地内に入り込もうとでもいうのだろうか。彼はその様子に、やれやれと溜息をつくと、男の背後に回り込み、声を抑えつつも怒鳴り声を上げた。

「馬鹿。目立つでしょ!」

 わっと男はその場から飛び退き、そして後ろにいる人物が誰か判ると、ほっと息をついた。

「何だ、脅かさないでよ。アン」

「脅かさないでってのはこっちの台詞。何、思い切り目立つ尾行してんのよ。この下手くそ」

「ええ? そんなことないだろ? 上手くやってたよ」

「あのねえ、ニール」

 頭を抱えて、男装のアンが言った。

「ガーランドのお嬢さんにも誰かがつけてきていると気付かれていたわよ。何度も後ろを振り返っていたもの。通りの人ごみに紛れてみつからなかったけど、素人に気付かれるってどういうこと?」

「え? 嘘。ばれてた?」

「ばれかけてたのよ。……もういいわ。交代よ。あんたは副長に報告に行って。今のところ、異常なし。だけど」

「だけど?」

「やっぱり、お嬢さんを見張っている奴はいるわよ。通りの向こうに止まっている馬車。怪しいわね。お嬢さんがまさか徒歩で出かけるとは思っていなかったようね。乗っていた男が慌てて降りているのが見えたわ」

「ああ、その馬車なら僕も気になっていたよ。だったら、お嬢さんがすぐに屋敷に帰ってくれたのは幸いだったね」

「まあね。だけど、何だったのかしら? まさか、物売りの少年から花束を買うためにわざわざメイドを連れて出てきたわけでもないでしょうに」

 首をひねるアンに、同じように首をひねってニールも言った。

「うん。でもさ」

「でも、何?」

「屋敷から出てきた時のお嬢さんはあんまり元気がなかったけど、花束を買って屋敷に戻る時は意気揚々としていたんだ。何ていうか、いいものをみつけたってそんな感じで。彼女が元気になったのは良かったなあって思ってさ」

「ふうん。いいものねえ」

 少し考えた後、アンは我に返って言った。

「おっと、こんなところで立ち話なんてしている場合じゃなかった。ほら、行きなさい。ちゃんと報告するのよ」

「判ってるよ。子供扱いしないでくれる?」

 ふくれっ面で、歩き出そうとしたニールだったが、ふと足を止めると言った。

「ねえ、アン。待機中の僕ら第一部隊が秘密裡に副長に呼ばれて、ガーランドのお嬢さんとそれからケイティを守って欲しいと頼まれたけれど……これって隊長のためにやっているんだよね? 副長はきちんと説明しないけれど」

「副長がきちんと説明しないのは、きっと、何かあった時、私たちを守るためだと思うわ。事情を知らない方がいいってことよ」

「それって、やっぱり危険なこと、だからだよね?」

 怯えたような顔のニールに、アンは優しく笑いかけた。

「第一部隊に入った時から、私たちに安全なことなんてなくなったのよ。いい加減、腹くくりなさいよ」

「で、でも」

「私はあの高い国境壁を単身、馬で駆け上がって行った時のケイティの勇気を忘れないわ。彼女は私の命の恩人であり大切な友人なの。政権争いやら陰謀やら、そんな駆け引きなんかどうでもいい。ケイティを守れと言うなら喜んで守るわ。私は彼女のためだったら何だってする。ここのガーランド家のお嬢さんはケイティの幼馴染だっていうじゃない。勿論、彼女のことだって守るわよ。そんなの当然よ」

「わ、判っているよ。僕だって」

「だったら、ほら、早く行け」

 足を上げてニールの尻を蹴るふりをして明るくアンは言った。

「ごちゃごちゃ考えるな。私たちはね、隊長と副長とケイティを信じていればそれでいいのよ」

「はいはい。僕たちは信じるものが多くて幸せだよね!」

 少しやけ気味になってニールは言うと、周囲を気にしながら足早にその場を離れて行った。


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