表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/127

第二話

「かもしれませんね」

「どうしてそんなことをお考えになるのですか?」

「帰還した彼らを検査した病院から報告を受けました。任務に失敗したにも関わらず、全員が誇らしい顔をしていたと。おかしいと思わない? 任務を果たせなかった軍人が、どうして平然としていられるのか。特にシアーレン公のような誇り高い男が……不思議ですね」

「それは」

 男爵は姉の無機質な顔をうかがいながら控えめに言った。

「全員が無事に帰ってこられた、それだけで良いという安堵感で……」 

「ロバート」

「は、はい」

「時間をあげます。調べなさい」

「え? あの、姉上、そういうことでしたら、軍の中にいる協力者に頼まれた方が」

「それがどうも芳しくないのです。だからといって私が直々に動くと目立ちます。お前ならこの城に関係のない、金銭で動く者どもを使って密やかに探り出すことが出来るでしょう。今まで通りにやるだけです。判るわね?」

「……はい」

 今更目立つもないだろうに。

 姉上とセドリック殿下の不仲はとうに周知のことだ。何を今更とコリックス男爵は毒づきたかったが、その気持ちを抑えて、ただ従順に頷いた。

 そのタイミングで、突然、まあ! とグレイシアが声を上げる。

 ぎくりと驚いて顔を向けると険悪な角度に眉をはね上げた不機嫌そうな姉がいて、そして、次の瞬間には広間の隅に置かれた鉢植えに向かって彼女はつかつかと歩み寄っていた。

「まったく、ショーンですね。植物を城の中に持ちこんではいけないとあれほど言っているのに。すぐに処分させなくては」

「処分? 捨てるのですか? ショーンさまが飾られたものを」

「ええ。こんな花、気持ち悪いではありませんか。何か虫でも付いているかもしれません」

「……虫、ですか」

 ふっとコリックス男爵は微笑んだ。

「変わりませんね。姉さんは昔から虫が嫌いだった」

「……何ですか、そんなこと。子供の頃の話でしょう?」

「ええ。私が薬草を摘んでくるたびに、怖いと言って逃げ回っていましたね」

「あなたの摘んできた草には、本当に虫が付いていたじゃないの」

「そうでしたっけ」

「そうよ」

 ふたりは睨み合うように対峙して、それからどちらともなく小さく吹き出した。

「子供の頃のことなんて忘れたわ」

「そうですか」

 男爵は寂しそうに呟くと、薄紅色の花に改めて目をやった。

「母さんは身体が弱かった。私はそれをどうにかしたくて、子供の頃から野山を駆けまわって、少しでも役に立ちそうな薬草を摘んで家に持ち帰ったものでした」

「……そうね。身体も精神も弱い人だった。少しでも厄介ごとがあるとすぐにショックを受けて寝込んで」

「そんな母さんを軽んじる連中を私は……」

「だから」

 グレイシアは苛立つ声で、男爵の言葉を遮った。

「私は強くなろうと思ったのよ。そして、強くなってここにいる。母さまのようにみじめな生き方も死に方もしない」

「姉さん!」

「ロバート。私の大切な弟」

 グレイシアはそっと指先で男爵の頬に触れた。

「お前と私の想いは同じなのよ。だから、力を貸してちょうだい」

「それは……」

 男爵は姉から目を逸らした。

 あの花はショーンさまがこの城の重たい空気を払拭させたくて、母親を笑顔にしたくて、ここに飾ったものではないのか。

 それはかつて自分が、母親のため、必死で薬草を摘んで家に持ち帰っていた時の、あの想いと同じはずだ。

「姉上。どうか、あの花はお捨てにならず、そのままに」

「何を言っているの、ロバート」

「ショーンさまのお心を捨てるようなことはなさらないで欲しいのです」

「……随分、感傷的なことを言うのね」

 ふんと鼻で笑ってみたが、やがてグレイシアは仕方なさそうに言った。

「判ったわ。ただし、私の命令をしっかりと遂行するのよ」

「……はい、かしこまりました」

 男爵は深く静かに頭を下げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ