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第二話

「そ、そんな」

 ケイトリンは困惑して口ごもった。

 一体、このお方は何を考えておいでなのかしら。

 パーティを抜け出す口実でないのだとしたらどういうつもりで私を妻にするなどと……。どう考えてもこの美貌の王子様が自分のような平凡な容姿の娘に一目惚れするとは思えなかった。

「あ、あの」

「なんだ?」

「どうして私なのでしょう? 妻にするにふさわしい令嬢はたくさんいらっしゃいます。あなたさまは私のこと……ウィルローズ家のことをご存知でいらっしゃいますよね?」

「ああ、知っているさ」

 ふんと鼻先で笑うとセドリックは言った。

「お前は落ちぶれた貴族の娘だろう?」

「そ、そうですが」

「それだからこそいいのだ」

「どういう意味でしょうか……」

「俺は自分の妻には最低最悪の女をと、思っているということだ」

「……最低最悪の女」

「俺の服に酒をひっかけたドジ娘が、かのウィルローズの娘とは好都合だった」

「お、お待ちください」

 ふるふると彼女の肩が震えているのは怯えているからではなかった。強い眼差しでキッとセドリックの顔を見据える。

「それは、つまり私が最低最悪の女、と仰りたいのですか」

「そうだが、何か違ったか?」

「……わ、判りました。質問を変えます。では、セドリックさまは何故、最低最悪の女を妻にご所望なのでしょうか」

「俺がそのような女を妻にすれば、父上が失望する。俺はあの男をとことん失望させてやりたい」

「は? 何ですか、それは」

 思わず、ケイトリンは大きな声を出した。

「そんなことをして何になるのです?」

「何も」

 さらりとセドリックは言った。

「何もならないさ。ただ、父上が嫌がることをしてやるだけだ」

「まるで反抗期の子供ですね。私の八歳の弟でも、そんなことは言いません」

「それは失礼したな。だがな、どうせどの女を選んでも同じなんだ。女たちが愛しているのは俺ではない、きらびやかな王族としての暮らしや権力を愛しているんだ。そして、この俺も誰も愛すことはない。だから最低最悪の女が丁度いい」

「誰も愛さないなんて、どうしてそんなことを」

「俺は愛し方を知らない。愛されたことがないからな」

「愛されたことがない? あなたさまが? とても信じられません」

「判ってないな」

 セドリックは、ふっと口元だけで悲しげに笑うと言った。

「お前は、俺が国境警備の任についていることは知っているか?」

「え? あ、はい」

 どうしてそんな話しになるのだろうとケイトリンは思いつつも大人しく頷いた。

「勿論、存じております。精鋭部隊の隊長さまでしょう?」

「精鋭か。どこをどうすればあれを精鋭部隊などと呼べるのだろうな」

「あ、あの?」

「国境警備は3部隊ある。その中で落ちこぼれや荒くれ者が集まっているどうしようもない部隊が、俺が率いている第1部隊だ。第1部隊と言えば精鋭のように聞こえるが実情は、何か起これば先ず矢面に立たされる、言わば生贄部隊だ」

「生贄部隊?」

 思わず顔をしかめるケイトリンに、セドリックは近づくとベッドの端に腰を下ろし、彼女の瞳をじっと覗き込んだ。

「……なるほど。醜い真実は無垢な国民には伝わっていないようだな」

「それはどういうことですか? あなたさまは今もこの国を荒そうとする野盗を鎮圧してお戻りになったばかりなのでしょう。大変なお手柄で、パーティはお妃選びだけでなく、その凱旋のお祝いも兼ねていたはず」

「確かに父上……国王の命により、俺たちの部隊は野盗討伐に向かった。連中は流れ者で国境近くの山間部に潜んではいたが、通りがかった不運な旅人を襲うことはあっても、この国に侵入するわけでもなく国民に危害を加えることはなかったんだ。野盗討伐は意味がないものだったと俺は思う。それを国王はただ『目障りだから始末してこい』と言ったんだ。そして俺に、始末するまでは国に戻るなとな。俺には生きて戻ってくるなと聞こえたよ」

「……そんな」

 ぐっと息を呑んで、ケイトリンは真っ直ぐにセドリックの緑の瞳を見返した。

「嘘です。国王さまは慈悲深いお方。そして、あなたさまはこの国の次期王になられる大切な第一王子さまです。その王子さまに、しなくてもいい討伐を命じ、その上、戻るな、などと」

「第1部隊は、いつもそんなものだ。過酷な任務を言い渡され、おとりのような役目を命じられることなど数知れず、だ。それが第1部隊の役目というわけだ。死んでも構わない、そんなどうでもいい連中を集めたのが第1部隊だからだ。そして、俺をそんな部隊の隊長にしたのは父上だ」

「セ、セドリックさま、あの、仰っている意味が判りません」

 ケイトリンは思わず頭を抱えた。セドリックの話しは自分が思い描いていた国王のイメージとあまりに異なっていたからだ。混乱しつつ、ケイトリンは言った。

「どうしてあなたさまが死んでもいいなどと。いいえ、あなたさまだけではありません。この世界に死んでもいい者など存在しません」

「お前はやはり世間知らずの貴族のお嬢さまだな。いくら落ちぶれてもそこは変わらんというわけだ」

「セドリックさま……?」

「構わん。その方が幸せに生きられる。現実など見ない方がいい。大抵、醜いからな」


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