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第二話

「お前の家族は面白いな。いろんなものが出てくる」

「そんな。面白がらないでください」

「いや、うらやましいぐらいだ。俺の家族は……つまらなくてな」

「まあ。そんなことを仰って。洗面台の写真を見ましたわ」

「写真? ああ、あれか。それがどうした?」

「口ではいろいろ仰いますけど、ご家族の写真を飾られているということは愛情があるからです。つまらないなんてこと、ありません」

「お前は何か勘違いをしているな」

 セドリックは溜息交じりに言った。

「あれしかないんだよ。捨ててもいいが、元々は母のものだったから、さすがに気が引けてな」

「あれしかない、と仰いますと?」

「あの女……グレイシアがここに来た時、昔の写真のすべて……特に母が写っている写真を焼き捨ててしまったんだ。焼かれるのを免れたあの写真は生前、母が特に気に入って寝室に飾っていたものだ。それをそのまま持って来ているだけだ」

「そうですか、グレイシア王妃が。それは……お寂しいですね」

「だから、そういうことじゃない。……そんなことより、お前のことだ。城でのパーティでは借りてきた猫のように大人しくしていたのに、街の店では大胆だったな。それはどういうことだ?」

「あの……私は、王族や貴族が集まるパーティは苦手なのです。あの仮面の顔が怖くて、体が固まってしまいます。街のお店には仮面を付けた方はいらっしゃいませんでしたから」

「仮面とは何のことだ?」

「それは……子供の頃、親友の別邸で開かれたガーデンパーティでの失敗が原因なんですけど……」

「どんな失敗だ? ぜひ、聞きたい」

「はあ」

 彼が面白がっているのは判っていたが、話さないわけにはいかないようだ。ケイトリンは仕方なく例のガーデンパーティでの出来事をかいつまんで話した。じっと黙って聞いていたセドリックは、話しが終わるとくつくつと笑い出す。

「そ、そんなにお笑いにならなくても」

 頬を膨らませるケイトリンにセドリックは手を振って言った。

「いや、なるほどと感心したのさ。確かにあんなパーティに集まる連中はみんな仮面を付けている。何を企んでいるのやらといったところだ。……それで、昨夜のパーティでお前が俺に酒をひっかけたのも、その失敗が原因なのか?」

「親友はそのガーデンパーティが私のトラウマになっていると言うのですが、よく判りません。確かにああいう席では私は異様に緊張してしまうのですが、でも、私がドジなのも事実なので……」

 セドリックは、困惑して俯くケイトリンをしばらく眺めてから言った。

「お前、確かミドルネームはスザンナ、だったな?」

「はい、そうですが」

「ふうん」

「あの、何か?」

「そのガーデンパーティに俺も出席していたかもしれない。なんとなく、その騒動の記憶がある」

「え! そうなんですか?」

 顔を真っ赤に染めて、ケイトリンは見るからに狼狽えた。

「お恥ずかしい! どうか、忘れてください!」

「そんなに恥じ入ることもないと思うが。それで、その時」

「いいえ、いいえ。もう、その話しはやめましょう」

 激しく首を横に振ると、彼女は慌ててドアノブに手を掛けた。

「わ、私はこれで失礼します。今日は、夕方から病院に出勤しなくてはいけませんし、早く帰って母と弟に朝食の用意もしませんと」

「朝食の用意? 使用人はいないのか?」

「使用人? そんな贅沢な」

「贅沢だと?」

 言って、また笑い出す。

「もう、セドリックさま……」

「判ったよ。何も無理に引き留めはしない。この時間なら使用人たちは仕事を始めているだろうが、面倒な連中と顔を合わせることはないだろう。早く行け」

「はい」

 ケイトリンはドレスの裾をつまんで良家の子女らしくお別れの挨拶をすると、ドアを開けて急いで部屋から出て行った。

 ぱたぱたと廊下を走る軽やかな足音を聞きながら、セドリックはブランケットを首まで引き上げると目を閉じた。不思議といい夢が見られそうな気がした。


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