俺は最近、妹がよく物を隠すようになった理由を病室に行くまで知らなかった。
俺は高校生だった。
俺が学校から帰ってきた時、妹は"えー? ここにお兄ちゃんが入ってるんじゃないの? "とカーテンの膨らんだところを指差して不思議そうに呟いた。
「ずっとお菓子待ってたのに……」
そう言いながらカーテンをツンツンしていた。妹にはあまり友達がいない。だから家にこもりがちになることが多かった。俺はそんな妹の面倒を大雑把にしながら、近くのアパートを借りて高校へ通っていた。
「帰ってからやるって言ったろ……」
「だいたい俺はそんなに小さくない」
「そっかーそうだよね」
妹は嬉しそうだ。
俺たちには両親がいない。数年前に他界して以来2人暮らしをしている。俺が高校へ行っている間は親戚のおばちゃんなどに、家の周りの手伝いをしてもらったりしている。だから親戚には頭が上がらない。
妹はそう長くはない。
親戚から伝えられた。
「病院行くぞ」
「え? ……どうして?」
「どうしてもだ」
クリスマスの夜に妹を検診へ連れ出す。
「こうやってお兄ちゃんと手つないで歩くのも何年ぶり……」
「……」
そんなにまともに相手してなかったのかな……。まあいいや、この検診が終わったらまた二人でどこかへ行こう。
それくらいに思っていた。
その日の検診の結果で 余命は数ヶ月と宣告された。
「♪〜」
何もする気がおきない。
こうしている間にも妹のカラダがどんどんを蝕まれていく。でも俺は普通に当たり前に、この毎日を過ごしているだけで精一杯だった。妹に特に何かを買ってやろうとか、どこへ連れてってやろうとか、浮かんでは消えての毎日を消化するだけで、いっぱいになっている自分がいた。
その日は高校からの帰り道は雨で帰りたくない日だった。
親戚から連絡が入った。俺が病院に着いた時は、もう意識のない状態だった。
そんな中で俺は妹の意識と会う。
妹は既に三途の川を渡っている最中だった。
「 お兄ちゃんの大切なものがあるから」
妹はただそれを退かせばいいだけなのに、頑なにそれをしてくれなかった。俺が昔大切にしていた家族からもらった本を、妹は退かさない。
「 これおばちゃんに買ってもらったんだぞいいだろ」
「えー……いいなあ」
そんな古臭い本を俺はもう覚えていなくて、でもそれは妹の思い出にとってはとても大切なもので 俺は妹に何も声をかけてやることはできなかった。
妹は死んだ。今でも命日は よく墓周りに行く。会社員になり社会に出ていろんなことを知って、いろんなことを経験していく中でもこの日だけは忘れない。
なんだか忘れなかった。