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転生した魔王が、この世界でもう一度出来ること  作者: 卜部
第一章 フォルトス・アーノック
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#06 - 魔法

 弟が生まれた。


 名づけ会議は打打発止に紛糾したが、結局父の「ウェイン」に決まった。

 リル姉の案が通らなくて良かったよマジで。というか、父のセンスが意外にいいことに驚いた。


 名前の意味を聞くと、なんでも異国にいた詩人の名前らしい。

 詩人ながら宮廷にあがり、やがて貴族としての地位を得るに至った人物だそうだ。父は昔、冒険者をしていたそうだから、異国の逸話にもかなり詳しい。


 その間、俺が何をしていたかというと、ただトレーニングの日々だ。

 朝のランニングや剣の素振り、あとは家で密かに魔法の訓練を繰り返す。レベルを上げることもそうだが、子供のうちはステータスが伸びやすいのだ。時間を無駄にするわけにはいかない。


 いつか、力は必要になる。確信にも似た直感があった。

 誰に言われたわけではないが、自分の人生が平穏のまま終わるとも思えなかった。強くなるために出来ることは、ひととおりやった。


 そして六歳になって、俺は従士団に入団した。

 入団というか、仮入団、まあ見習いみたいなものだけど。


 従士団は警察のような組織だ。町の見回りや警備、犯罪の調査、ときに近隣地域の魔物の討伐を行っている。

 そして有事の際には、父が治めるセダム領軍の中核として機能する、いわゆる半分軍隊のようなものだ。


 領軍は、有事の際に各町の領主が組織する従士団と徴収兵から組織されるため、常駐はしていない。

 そもそも、ひとつの街で千に及ぶ軍隊なんて維持できるわけがないからだ。


 そして今。俺は地面に転がって、呆然と空を見上げていた。

 ――模擬戦で、姉に容赦なくぶっ飛ばされて。


「……大丈夫? フォル」

「リル姉……強すぎ、でしょ……」


 リル姉もまた、従士団の一員だ。

 二年前に入団してから、メキメキと力をつけていたのは知っていた。でも、これほどだとは思っていなかった。


 子供相手だし、初めての模擬戦だ。当たり前のごとく手加減したつもりだったが、そんなもの必要ないぐらいに姉は強かった。

 技術では、俺のほうが上だろう。だが恐らくステータスという意味では、姉のほうが何倍も上だ。

 そしてそれ以上に……体を動かすセンス、剣を操るセンスがずば抜けていた。


「私、剣は結構自信ある」


 というかたぶん、大人の衛兵相手にも勝てそうなぐらいに強かった。天才、というやつだ。


「でも……フォルは、もっと強くなるね」


 手を合わせたことで感じるものがあったのだろうか。姉は、そんなことを言った。

 負けない、と握りこぶしを作る姉に、俺は小さく笑い声を上げた。

 恐らく、彼女は強くなる。そしてやがて、天才剣士として名を馳せるのは間違いない。

 元魔王として、太鼓判を押すよ、リル姉。


 その一方、時を同じくして始まったのは魔法の訓練だった。

 なんでも、六歳から始めるのが常識らしい。


 正直言って、魔法に関しては大したことがないだろうと思っていた。

 魔王とは、その名の通り最強の魔法使い(スペルキャスター)のことでもある。俺以上に魔法に詳しい人間はいないというぐらいの自負はあった。

 もっとも、魔力がほとんどない俺に、使える魔法なんてほとんどないが。


 ――しかし、最初の授業であっさり度肝を抜かれることになる。

 母の指先に浮かぶ、光で編まれた小さな魔法陣によって。


「これは虚数魔法陣(ラプラサス)って呼ばれるもので、通常の魔法は、この虚数魔法陣(ラプラサス)を経由して生み出されるの」


 手本を見せると言って、母が小さく詠唱を呟いたかと思うと、その指先に法陣が描かれ、そして静電気がほとばしった。

 雷撃といえるほど強力なものではない。人を軽く感電させる程度のものだ。しかし――


 目を見張った。

 俺が今の魔法を行使したら、きっとあれの倍かそれ以上の魔力を消費したはずだ。


 魔法には代価、代償が必要である。

 そしてこの代償とは、即ち魔力のことである。


 しかし魔法とは桁を超えた力であり、魔力だけで発動するのは困難である。そこで生み出されたのが『詠唱』だ。

 祝詞を唱え、魔力の代わりとすることで魔法を発動させる。

 もちろん、魔力だけで発動することも不可能ではない。実際、低位階の魔法なら、魔法構築のプロセス――これを魔法式というが――を最適化することで可能にした人間は何人かいた。


 しかし、詠唱以外にもうひとつ、魔力の代替をさせるものがあった。それが魔法陣である。

 魔法陣は、消耗する魔力のほとんどを肩代わりする強力な補助装置だ。ただし、その魔法の構成に応じた魔法陣を組む必要がある。大魔法になればなるほど魔法陣は複雑になり、複数の魔法陣を複雑に組み合わせる必要があった。

 当たり前だが、そんなものを戦闘中に用意できるわけがない。


 しかし虚数魔法陣(ラプラサス)は、見たところ、極小の魔力と詠唱で、光を操って幻影を生み出す魔法だ。

 その幻影で魔法陣を組み上げ、新たなる魔法の踏み台とするのだ。

 この手法なら、実際に手で魔法陣を描く必要がない。好きな魔法陣をきわめて短時間で作り上げることが出来る。


(考えた奴は間違いなく天才だ)


 掛け値なしの称賛を心中で送りながら、どうして考えつかなかったのかと悔しさもある。

 発動までにタイムラグがあるのが欠点だが――


「フォル?」

「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」


 ともかく、この虚数魔法陣(ラプラサス)は、転生して魔力が少なくなった俺にとって、まさに打ってつけのものだ。精度を高めれば速度もそれなりになるだろうし、今まで魔力不足で使えなかった様々な魔法が使えるようになるだろう。

 久々に軽い興奮を味わいながら、虚数魔法陣(ラプラサス)という新たな技術が俺の胸を熱くさせた。

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