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転生した魔王が、この世界でもう一度出来ること  作者: 卜部
第一章 フォルトス・アーノック
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#05 - ステータス

 そこは屋敷にある一室。

 一室といっても、ろくに使われていない空き部屋だった。


 屋敷は広いが、その広さに対して住む人間の数は、給仕やらを含めてもいささか少ない。だからこういう空き部屋は結構な数がある。

 空き部屋は来客の折に使われるのだが、この屋敷のメイドたちは真面目かつ有能であり、滅多に使われないような部屋の掃除もよく行き届いていた。

 また来客用とはいっても、この部屋を使うのは上客ではなく、ふとした折の唐突な来客にあてがわれる、給仕たちが寝泊りに使うような小さな一室だ。


「ん……準備よし、と」


 大きめの羊皮紙を床に広げる。

 片方の手には、黒色の液体が入った小さな瓶だ。

 これは魔漏液(ルナタール)といって、魔石の粉末を水に溶かしたものだ。ちなみに羊皮紙も魔石も倉庫にあったものを失敬した。


 魔漏液(ルナタール)を指に取り、羊皮紙に紋様を描いていく。


「確か……こっちがこうで、こっちが――」

 もう薄れてしまった過去の記憶。必死にそれを掘り起こしながら、羊皮紙に魔法陣を描いていく。

 羊皮紙は予備も持ってきているとはいえ、失敗はしたくない。倉庫に忍びこむのは簡単だが、多少の良心が咎めもする。

 

「よし……できた」


 羊皮紙に描いたのは小さめの循環魔法陣(アーカーシャ)だ。思ったよりちゃんと描けている。

 魔法陣は書き順、図形、対比のいずれにも意味がある。だから、ちょっとでも書き間違えたりすると修正が利かない。

 一回ぐらいは失敗すると思っていたが、俺の記憶力もどうやら捨てたもんじゃないようだ。


 次に、取り出したナイフで、指先を軽く切る。

 指先を伝う血の雫を、一滴、魔法陣の中央に落とした。


 すると、落とされた血は、するするとうごめいたかと思うと、魔法陣の魔漏液(ルナタール)と混ざって淡い朱光を放ち始める。


「……よし。動作は問題ないな」


 切った指を魔法陣の中央に乗せる。

 そして、俺の指先から血が蠢きだした。


『――我が名はレクナ――」


 その言葉を紡いだ瞬間、練り上げた魔力が弾かれる感触があった。

 ……失敗? あ、そうか。


『――我が名はフォルトス。盲目のラヴァターヌよ、我を盗み見るならば、汝の瞳を貸し与えよ』


 詠唱を終えると同時、体から何かが抜けていく感覚。

 魔法陣の光が止まったかと思えば、魔法陣を描いていた魔漏液(ルナタール)が変形をはじめた。

 そして、羊皮紙に文字を象っていく。


 俺が使ったのは、素養開陳(ステータスチェック)の魔法である。


 人間には、いや人間だけじゃないが、素養(ステータス)と呼ばれるものがある。

 この世界において、戦士と村人は同じ人間ではない。それは、素養(ステータス)に圧倒的な格差があるためだ。

 人が、技術や筋力で辿り着ける強さには限界がある。どれだけ鍛えようと、技を修めても、人が上級魔物に打ち勝つことは不可能だ。

 そこで、神が人に与えた「抗うための力」がステータスなのだと言われている。


 実際には、ステータスと神には何の関係もない。

 ステータスは、つまるところ人の『魔力』の形を数値化したものだ。


 魔力とは、魂にも近い。人の奥底に眠り、人を形作り、そして人の力の源奥ともなるものだ。

 一般に魔力は魔法を操るための力と思われているが、それは違う。魔力が人の肉体を変質させることで、人は、自分以上の力を発揮するのだ。剣で岩を砕き、野を馬の如く走り、炎雷を呼び覚ます力を生む。


 素養開陳(ステータスチェック)ができるのは神官だけだと言われているが、かつて教会から追われた俺は、神官に頼らずステータスを見るため、この素養開陳(ステータスチェック)の魔法を作った。

 しかし忘れてなくて良かったよ。素養開陳(ステータスチェック)なんて十年以上ぶりだしさ。


 文字の動きが止まる。素養開陳(ステータスチェック)が終わったらしい。


名前:フォルトス・アーノック(アーノック男爵家長男)

種族:人間族

称号:アーノック男爵家長男

年齢:5歳

・ステータス

レベル:1

体力:10/10

魔力:9/10

筋力:2 耐久:3

速度:4 魔法:6

器用:4 運:2

・保有スキル

【神への反逆】【精霊の祝福】


 やはりというか、レベルは1だった。体を動かす感覚で分かっていたことだったが、戦う力は失われている。

 魔法に関しても、魔力がないからほとんど使えない。ステータスは魔法適正が少し高めではあるものの、無力な子供そのものだ。


 まぁ、レベルは上げればいいし体も魔力も鍛えればいい。ただ問題なのは、この状況で神に狙われれば、俺は間違いなく死ぬということだ。

 そしてもう一つ。重要な部分があった。


「神への反逆……」


 このスキルは、いわゆる呪いのようなものだ。状態異常(バッドステータス)にも近い。

 魔王権能保有者の固有スキル【神への反逆】。これは『神の力』の影響を受けないという効果がある。

 【神への反逆】スキルを持たない存在は、神に対して無力だ。彼らは赤子の手を捻るように、その命を奪うことが出来る。


 そしてこのスキルが俺を持っているということは――


「俺の転生は、やはり神の手によるものではない……」


 【神への反逆】スキルを持つものに、神はその力を及ぼすことができない。これは神自身からも聞いたし、俺も体験している。

 これには少し安堵した。

 俺に肉親への愛情を育ませた上で、その親を殺す。そういう悪趣味な真似をするために俺を転生させた、という可能性がそれなりに高かったからだ。


 しかし、ではなぜ俺は生まれ変わったのか?


「これは考えても無駄ってやつかもしれんな……」


 ともかく、転生に神の意思は、恐らく絡んでいない。

 その情報だけでも、収穫があったと思うようにしよう。


 ◆ ◇ ◆


 俺の誕生日会が終わって、二か月が経とうとした頃。

 日課のランニングを終えて、自室へ戻ろうとしたところで、炊事場で座りこんでいる母親を見つけた。


「母さん!!」


 走り寄ると、母さんは、弱々しい顔で「大丈夫」と笑って見せた。

 外傷はない。病気なのか?

 俺は即座に【検査(スキャン)】の魔法を無詠唱で発動させた。これは、自分以外の誰か(道具も可能)のステータスを開示させる魔法だ。


 魔力が体から抜けていく疲労感を噛み殺しながら、母のステータスを覗く。手に汗が滲んだ。

 もし、重大な病気なら――今の少ない俺の魔力で治せるのか?


名前:トーニャ・アーノック(アーノック男爵家夫人)

種族:人間族

称号:魔法使い 魔導士 魔道具設計士

年齢:25歳

状態:妊娠中


(はっ?)


 状態、妊娠中。

 へなへなと座り込む。


「……フォルちゃん?」

「あっ、いえ」


 心中では、俺の心配を返せ、とちょっと思いもしたが、なんでもないと首を振った。

 しかし妊娠っていうことは……つわりなのか。

 俺は周囲を見回す。厨房だったのが幸いして、いいものを見つけた。


「母様、ここでちょっと待っててください」

「え、ええ……」


 台所であるものを取り、半分に切って、それを水に絞る。

 簡単に出来たな。ついでに、魔法で軽く水を冷やした。やべ、結構魔力使っちまった。まあいいか。


「母さん、これをどうぞ」

「これは……?」

「ロクモートを絞ったお水です」


 ロクモートというのはレモンのことだ。

 冷えたレモン水は妊婦でも飲みやすく、前世ではフリエが妊娠した時に重宝したものだ。


「冷たい……冷たくて、とってもおいしいわ」

「はい。飲みやすいかと思って」

「ありがとう……」


 両手でコップを握って、母が笑う。

 黒髪の美女が浮かべる儚げなその笑みは、やっぱり俺の母親は美人だな、と俺を少し誇らしくさせた。


「さ、すぐに神官を呼びます。まず寝室まで行きましょう」

「そうね……」


 俺はメイドを呼んで神官を呼ばせると――魔法が当たり前のこの世界では、神官が医者をやる――、母を寝室まで連れて行った。


 診察の結果、母が妊娠していると発覚すると、屋敷中に大騒ぎになった。

 一番大騒ぎしたのは父だ。父さんは母さんが何か病気になったのではと寝室の前を右往左往していたが、妊娠していると聞くと驚き、すぐに寝室に駆け込んだ。

 その大慌てに苦笑しながら、俺も姉と一緒に寝室についていった。


 しかし妊娠か。時期を考えると、俺の誕生会のあたりかね?

 人の誕生会の裏で何やっとんじゃいと思いもするが、まぁ夫婦の仲が良きことは美しきかなだ。

 ていうか……俺に妹か弟が出来るのか。どっちかな?

 そう考えると楽しみになってきた。


「なぁフォル、名前は何がいいかな?」


 父さんがそんなことを聞いてきたので、もちろん「自分で考えてください」と言っておいた。俺にネーミングセンスを期待すんな。

 姉は「一番下だから……アンダー?」と言っていた。

 リル姉、俺よりひどいな……。


ステータスに関して少し補足。本文で言った「魔力」とステータスの「魔力(MP)」なんですが、これはちょっと別のものと考えてください。魔力(MP)はいわゆる魔法用の魔力、すなわちプール値で、「これぐらいは使ってもステータスは減らないですよ」みたいな値です。単純な魔力の多さだけではなく、魔力と魔法の変換効率とかが大きく影響してます。

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