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転生した魔王が、この世界でもう一度出来ること  作者: 卜部
第一章 フォルトス・アーノック
3/30

#03 - 誕生

 最初に、あたたかな感触があった。

 暗闇にいた。暗くて深くて、けれど、どこか嫌ではない。とにかく眠たくて、寒くて、目を開けるのも億劫だった。


 だが、静寂は終わる。強い力で引きずり出されたかと思ったら、次にひどい激痛がやってきた。

 泣き声が聞こえた。

 誰のだ?誰の……俺の?


 信じがたいほどに、声が止まらない。まるで洪水のように、俺は叫び声をあげていた。


 暗い場所から、明るい場所へと引っ張りだされた。

 急転していく。引きずり出されたかと思えば運ばれて、今度は水――いやお湯に放り込まれたかと思ったら、布でごしごしと拭き取られた。


 そして、また大きな手が俺を包んだ。

 いや、いささか大きすぎはしないだろうか。


 どうにか目を開ければ、女の顔があった。

 ひどく近い。ひどく大きい。いわゆる美人、だと思うが、とにかく縮尺がおかしい。

 その顔は、どこか愛おしそうに焦げ茶色の目を細めて、嬉しそうに微笑んでいる。


 俺は、その顔をどこかで見たことがある、気がした。

 守らなくてはならないもの――だったような気もする。

 だが、眠すぎて、すぐに思考を放棄した。

 今は眠ろう。起きて、また考えればいい――。


  ◆ ◇ ◆


「奥様、おめでとうございます。立派な男子ですよ」


 侍女のエルメラにそう言われて、寝台に寝転がったまま、私は頬を緩ませた。

 出産を終えたばかりの体は疲労困憊だ。二回目で、それなりに分かってはいても、腕の一本を動かすのにも、ひどく疲れる気がした。

 でも、エルメラの手に抱かれた赤子を見て、私は手を伸ばさずにはいられなかった。


 小さな命が、両手の中におさまる。

 しっかりと、あたたかな命を、息吹を感じる。

 あまり泣かないな、と心配になったけれど、大丈夫みたいだ。甘えるように、私に体をこすりつけてきた。


 ああ――

 私の、胸の中いっぱいに、強い感情が広がった。

 今にも決壊して、あふれ出してしまいそうになる。今すぐこの子をもっと強く、ぎゅっと抱きしめたい、暴風みたいな感情が暴れ狂いそうになったけれど、どうにか自制した。


 指を顔に近づけると、ぎゅっとそれを握った。

 ああもう――可愛すぎる!!!


「トーニャ……」


 頬が緩みまくっていた私に、聞きなれた声が届く。


「あなた。ほら、この子」

「ああ……」


 ふらふらとベッドの傍まで来て、私と同じように、その指先をこの子に向ける。

 すると、また同じように、小さな手がぎゅっと指先をつかんだ。


 何か衝撃を受けたように、夫の目が大きく見開かれる。

 可愛いでしょう? そんな意味を込めた目線に、こくこくと彼が頷いた。


「エルゴ。紙と筆を」

「かしこまりました、旦那様」


 そう言って頭を下げたのは、扉の近くにいた執事のエルゴだ。


「あなた、もしかして……?」

「ああ。さっきまで悩んでたんだが、今決めた」


 そう言って彼は笑う。私の大好きな、やんちゃな少年みたいな笑顔で。


「こいつの名前は――フォルトスだ」

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