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第1話 邂逅

 

 太古の昔より永遠とわに続く神と魔神の争乱そうらん―。


 その争いはこの世界ミッドガルドにて熾烈しれつを極めた。

 空を覆う天は幾重いくえにも黒く染まり、大地は枯れ果て不毛の地と化す。清らかな水は赤く染まり、腐臭を放つ。そこに住まう創造物は創造主の争いにより、絶滅寸前にまで追い込まれた。


 ―永遠なる破壊の時代。


 最早もはや争いの種が何であったか思い出せぬ程長きに渡り、神々は戦いそして奪い合った。

 終わりの無い戦いにミッドガルドが滅びかけようとしたその時、この世界を真にうれ一柱いっちゅうの神によって案がされた。


「このままではミッドガルドは死に絶え、我らどちらも朽ち果てる。魔神共よ、我が命を代価に一つ、この箱庭で遊戯に興じてみぬか?」


 破壊の時代に狂乱していた魔神達であったが、この世界が滅びてしまってはもう楽しむこともできない。一部から強烈な反発があったものの、この世界を滅ぼす程に争えば最終的に共倒れする事は明白。魔神達は神々との間にしこりを残しつつもこの案を受け入れる。


 そして一柱の神の命を代価に世界は生まれ変わり、この不毛な争いに終止符が打たれる。神々と魔神達は、命を捧げた一柱の神が残した三つの制約を受け入れ、この箱庭で遊戯に興じる事となった。


 


 ―それから千年の時が過ぎた。




「やっと、やっと会える……」


 静寂せいじゃくが支配するおごそかな部屋の一室。赤き双眸そうぼうを持つその影は、愛おしく空に手を伸ばす。そこには何も無い。


 彼に会いたかった。運命付けられしその赤い糸。不器用ながらも少女は途切れぬ様その細い糸をただ、ただ大切にした。

 豪奢ごうしゃな寝屋に入る度、何度思い描いただろう。

 幾度いくど恋焦がれただろう。まだ見ぬ未来のあなたに。

 顔も知らない。でもあなたはきっと素敵な人。何の根拠も無いが、この胸にある確かな予感。


 あなたと会ったら上手く話せるかな?

 あなたはこんな私を気に入ってくれるかな?

 あなたは私の……。

 

 胸は高鳴り鼓動は脈打つ。彼を想えば想うほどに。


 部屋の隅。漆黒に染められしヴェール。対になるは黒薔薇くろばらとフリルをあしらったドレス。それは少女だけではなく、その一族にとっても特別な意味を持つ。


 少女は高鳴る鼓動を胸に秘め、そっとドレスを抱き締める。まだ見ぬ彼を優しく抱くように。

 ようやく明日に迫った召喚の儀。彼に思いをせながら、明日あす会えることを切に願い、少女はゆっくりと寝屋へと向かった。



「な、なんで、どうして!?」


 漆黒のヴェールとドレス。身にまとうは十代半ば程の少女。深紅に染まる赤き瞳に、くだんのヴェールとドレスよりも深い黒の髪。

 少女は禍々まがまがしく飾られた祭壇に向かい、その両の平をかざしながら、魔力を注ぎ込んでいる。だが乱れ散るその長い黒髪が事態の深刻さをうかがわせる。少女の美しい顔は焦りと悲哀の色で歪んでいた。


 魔神であるバロル神をまつる巨大な神殿の最深部。そこは神殿の中でも一番広い場所となっており、バロル神をかたどった大樹ほどもあろう像が一際目を引く。現在その最深部には、五百を超える人ならざる者が集っていた。

 バロル神をあがめたてまつる上級魔族の一団。その集団は皆一様に額に汗を掻き、膝をつき倒れ込んだりしている。


「な、何が起きたのだ!?クロエ!!」


 大声を張り上げたのは禍々しい祭壇の階下かいかから、クロエを見上げる魔族の権力者、カイゼル・ハウル公。

真っ白な髭を蓄える白髪の老齢の男は、その齢には全く似合わぬ、黒く染め上げられた大鎧を着込んでいる。

 ハウル公は心配そうに祭壇を見つめてはいるが魔力消費が激しく、片膝をつき息を整えていた。

 ハウル公だけではなく、神殿の最深部に集まった五百を超える関係者たちも既に魔力の消費で疲労の色が濃く、地に伏したままである。


「わからないっ!だが父上、この光は成功してっ……、きゃあああぁっ!!」


 ドゴオォォンッ―。


 その言葉と同時に轟音ごうおんが神殿の最深部に響き渡った。

 クロエが手をかざしていた祭壇から溢れる赤黒く禍々しい光の粒子は、供物くもつとして捧げられた人型の骨と、大秘宝である『アルカディア』と呼ばれる黄金色のクリスタルを呑み込む。


 やがて渦巻く光は、宙に浮く少年とも青年とも取れる一つの男の人形ひとがたを成した。


 かと思うと、魔力の淡い光を纏ったまま最深部の天井を突き破り、地表の神殿の遥か上空の彼方へと消え去っていった。


 後に残ったのは破壊された天井の崩落。その土煙とただ呆然とするハウル公、気を失ったクロエ、ひどく混乱する一団。


 そしてそれらの集団を尻目に、神殿最深部から喜び勇んで抜け出す一つの影があった。


「やったぞ。彼をお前たちに渡してたまるものか」


 目深めぶかにローブを被り、込み上げる喜びに口元を歪めながら、魔族に偽装したその者は飛び去った光の粒子の後を追う。




☆☆☆☆☆




 深き静寂せいじゃくと闇が支配する底から意識がゆるりとよみがえってくる。


(う、うんー?)


 随分とぐっすりと眠れた。まだ覚醒しきれていない頭はぼやっとするが、心地よい眠りの余韻よいんに浸る。五分ほどだろうか、その余韻に浸ったのち目を擦りながらゆっくり体を起こす。


 その瞬間、自身の体の違和感に草薙三葉くさなぎみつばこと俺は気がつく。溢れんばかりに体に力と気力が満ちている。


 今までに全く感じたことの無い奇妙な感覚だった。だがそれと同時に異常な空腹に襲われる。とてつもない空腹。胃袋はぐるぐると獰猛どうもうな音をかき鳴らす。まるで何日も食べていないような。


 おかしい。昨日の夕食は俺の大好きな寿司で、ここぞとばかりに限界まで腹一杯食べたはずなのだが。そう疑問に感じながらも、ふと辺りを見渡す。


「……どこだ?ここは」


 見渡した瞬間、今までの眠気は一気に吹き飛び頭は覚醒へと向かった。まったくもって見知らぬ場所。目の前に広がるのは、広大で美しい大きな湖のほとり。その湖の傍で俺は目覚めた。


「なんでこんな所で俺寝てるんだ?」


 頭は急速に昨日の出来事を思い出す。大学は休日。


 父の急な言い付けで実家の道場で門下生の指導に当たる。実家は古流剣術の流れを組む道場で、俺は物心つく前からそこでしごかれた。

 地獄のような日々だったが、そのせいか中学卒業の頃には、道場で一番の実力者まで這い上がった。唯一人、父を除いて。


 それから門下生の指導に当たった後は、父が褒美ほうびなのかわからないが、寿司を買って帰ってきたので胃袋に限界まで詰め込み、苦しくて部屋のベッドでごろごろしてたら寝てしまった。


 うん、間違いない。服装は寝ていた時と同じ格好だ。長袖の無地の黒いシャツにカーキ色のゆったり目のカーゴパンツ。しかし足には焦げ茶色のブーツを履いている。履いた覚えはない。


 まさか寝てるうちに誰かに運ばれた?


 いやありえない。そんなことされたら寝ていても間違いなく目覚める。これでも幼少の頃から厳格過ぎる父によって、実家の剣術道場で地獄のような英才教育を受けてきた。おかげでとてつもない父親恐怖症だが、人の気配を読む事には敏感だ。



 それにおかしな事がある。


 今いる湖はありえないほど非現実的で美しすぎる。人口的な手入れが全くされていない。人が近代文明を築くにあたって犠牲にしてきた太古の自然。空気、色、匂い、全てが別次元であるかのように新鮮そのもの。


 今、目の前に存在する景色はその太古の自然だと直感的に感じた。それにところどころの咲いている花が、まるでお伽話とぎばなしや物語にでも出てくるほど幻想的。淡い光を放ち、そよぐ風で仄かに揺らめく。


 こんな場所日本には存在しない、いや世界にもないような気がする。


 ふと湖を覗き込んでみる。

 水は透明で一切の淀みや濁りがなく、青色に染まる底すら見えている。その透明感は山の湧水のように今すぐにでも飲めそうだ。


 それと同時に自分の姿が湖に映った。


「なっ!?なんだこれ!」


 自分の姿を見て驚愕する。目の瞳の色が黄金色に輝いているのだ。

 その瞳はまるでツクリモノのように妖しく不気味な光を放ち、自分さえも吸い込みそうなほど美しい。俺は言うまでも無く、生粋きっすいの日本人だ。黒髪黒目のはずが今は黒髪金眼になっている。


「どうなってるんだ。まったく」


 しばらく水面に映った顔を見ながら、ぱちりと瞬きしてみるが違和感は無い。むしろ以前よりハッキリと遥か遠くまで見える。

 

まるで自分が鷹の様な目を持ったような感じだ。異常は無さそうだが、遠くまで見渡せるようになって少し気持ちが悪い。


 とにかく異常が無いのなら今の状況を把握しなければ。辺りを見回してもそこには誰もいない。誰か人を探すなり場所の特定ができる物を探す事にした。


 とりあえず俺は湖に沿って、一周するように歩いてみる。湖は開けた場所にあるが、周りは草木が鬱葱うっそうと生い茂っている。下手に入ると迷いそうだ。


 しばらく歩いて行くと道のようなものを見つけた。誰かに整備されているのか、道には草木が生えていない。土色の地面が道を作っている。


「ここから進めば森から抜けられるか?」


 俺はその道を進もうと歩き出す。だがその途中でまたしても耐え難いほどの空腹が襲ってくる。


「なんだこれ?腹が減って死にそう……」


 急いで状況把握して何でもいいから飯を食べよう。ふらつきながらも、必死に足を動かした。


 道は一本の道になっており周りは草木ばかりだ。道自体は整備されているのか、歩きやすかったが変な違和感を感じる。森の中から何かに見られているような気がする。それも複数の気配。だが何かに怯えているようにも感じる。


 多分、野生の生物か何かだろう。一応使えそうな太めの棒を拾って手に持った。木刀に少し似ているが、強度はかなり落ちるだろう。襲って来たらこれで迎撃するつもりだ。



 しばらく進んでいると、道が二手に分かれていた。直進できる道と左にれる道。立ち止まって辺りを見渡しても看板などはなかった。


(どっちならこの森を抜けられるのだろうか?)


「~~~~ッッ!?」


 と、その時左側の道の奥から何やら叫び声が聞こえてきた。あまりはっきりとは聞き取れないが、それほど遠くない。左側の道からなんとなくだが、嫌な雰囲気を感じる。だが人の声がしたのだ。行った方がこの森の突破口が開けるかもしれない。


 俺はなるべく足音をたてぬよう周りを注視しながら慎重に、だが速足で駆けていく。

 数分後には開けた場所が視界に入る。開けた場所に直接出ず近くの木々に隠れ、開けた場所の様子を伺う。


 その先で見たものに俺は声を失ったー。


 身の丈およそ三メートル、体長は六メートルを悠に越える。

 凶悪な牙と爪を剥き出し、真っ黒な体毛に覆われている。目は赤く輝き、頭からは一本の角がはえている四足歩行の化け物。その姿から狼を連想させるが大きさが桁違いだ。


 その狼のような化け物と開けた場所で、対峙たいじするかのように剣を身構える一人の女騎士。美しく長い銀髪。特徴的な涼しげで切れ長な青い瞳は、狼の化け物を捉えて離さない。


 上半身にはハーフプレートアーマー、下半身は黒いショートスカートに膝上ひざうえまで覆う金属製のレギンス。手には細身ではあるが美しい剣を構えている。だが凛とした顔とは裏腹に、体は小刻みに震えていた。


 彼女の後方には三人の男女が倒れている。全身鎧を着込んでいる体格の良い男二人は、鎧を無残にも切り裂かれ身体中から血が溢れるように流れていた。


 もう一人の白地のローブを被った少女らしき人物は、肩で大きく息をしながら、突っ伏してかろうじて顔をあげているが、かなり疲労の色が濃い。


 一体この状況は何なのだ?俺は呆然としてみていた。


 夢か?いやさっき目覚めたばかりだろう!


 なぜこんなファンタジー物語に出てきそうな一片を垣間かいま見ているのだろうか?頭はひどく混乱する。


「はああああっー!」


 その時、女騎士が大狼の化け物へとまっすぐに剣を構え仕掛ける。どう見てもあんな化け物相手に無謀だ。


 大狼は前足の凶器の爪で女騎士の剣撃を強引に払いのける。


「……くはっ!?」


 女騎士は大きく吹き飛ばされ、体制を崩し倒れこんだ。しかし倒れこむと同時に、大狼に向かってその左手をかざした。


「ファ、ファイアボール!」


 その瞬間女騎士の手のひらから、直径三十センチ程の大きな火の玉が飛び出し相手の顔面へと直撃する。


 しかし大狼は顔をブルブルと振り何事もなかったかのように、ゆるりと女騎士へと向かっていく。女騎士は急いで立ち上がろうとしたがガクンと膝を落とす。


(まさか足を傷めたのか?やばいぞ……。)


 というかさっきの魔法だよな?一体何なんだ、ここは。

 いやだが今はそれどころじゃない。このまま行けば間違いなく女騎士は殺される。


 どうする?助ける?

 だがあんな化け物相手に俺に何ができる?

 思考回路は目まぐるしく打開策を探そうとぐるぐるとフル回転する。


 だが答えは最初から出ていた。

 剣術を始めて数年たった小学生の頃、日々厳しさを増す親父の剣撃で、何度も吹き飛ばされては泣きじゃくっていた時、父に言われた言葉が脳裏によぎる。


「三葉。私がお前に厳しく剣術を教えるのはいざという時、理不尽な暴力からお前を守るためだ。だが、お前の才覚はいずれ私を超えるだろう。その時はお前自身だけではなく誰かを、何かを守れる漢になれ」


 いつもは寡黙かもくで厳しい父が優しく俺を抱きしめ、耳元でつぶやいた言葉。あの時ほど父の気持ちのこもった言葉は聞いたことは無い。


 だからあの時の言葉は俺の目標。父を超え、誰かを、何かを守れる漢になる。今はまだ力不足かもしれない。だが目の前で女が戦っているのに男の自分が戦わない、なんてことは絶対にあり得ない選択肢だ。



 俺は意を決して高鳴る鼓動そのままに、木々の影から女騎士まで一気に駆け抜ける。


「助けるっ!」


 女騎士に自身が敵ではないと悟らせる為に叫び走る。突然現れた俺に、大狼はギョロリと視線を向けてくる。


 その大狼に向けて持っていた棒を思い切り投げつけ、注意を反らす。女騎士は俺の出現に、ビクッと体を震わせたがこちらの意図は恐らく伝わった。


 女騎士の側まで来るとお姫様抱っこの要領で一気に持ち上げる。


(……あれ?ずいぶん軽いな)


 鎧やら何やら身に付けているので、それ相応の覚悟を決めて持ち上げたがすんなりと持ち上がる。片手でも十分いけそうな程に。それから素早く女騎士を後方で倒れているローブの少女の場所まで運ぶ。


「あ、ありがっー」


 急にお姫様抱っこをされた女騎士がやや頬を紅く染め感謝を述べてくるが、それどころでは無い。その言葉も聞かず、俺は一目散に地面に落ちている鎧の男のロングソードを取る。


 と同時に大狼に向かって駆け抜ける。普通なら恐怖心から逃げることを選ぶのだろうが、俺の選択肢にはそれは無かった。


「はああぁぁぁ!」


 一足飛びで狼へと下段の構えから切り上げる。大狼は打ち払おうと凶器の爪を振るう。


 ガキィィンッ!


 刃と爪の衝突。凄まじい衝撃音があたりに響く。ロングソードを握った手はびりびりと痺れる。


「……クッ!」


 何とか凌ぐが、俺は眼前に迫るものに驚愕する。


 大狼は爪を振り抜くと同時に、そのまま一回転するかの如く体を後方へと激しくひねり尻尾を鞭のように振るってきた。爪の衝撃で体勢を立て直すのが一歩遅れる。


「ぐはっ!」


 速度の乗った尻尾は強烈な一撃を三葉のあばらへと叩き込んだ。あばら骨がみしみしと悲鳴をあげる。足の踏ん張りが効かず吹き飛ばされた。


「……はッ、はッ。」


 呼吸がうまくできない、息が苦しい。

 これは一、二本は確実に逝ったと思う。脇腹から耐えがたい激痛が走っている。


 剣を杖代わりにして、激痛に耐えながら何とか体を起こす。口の中は鉄錆てつさびの様な血の味がしてきた。あばらが肺に刺さっているのかもしれない。ふらつく意識の中でせめて鎧が欲しかったな、なんて事が脳裏をかすめる。


「ウオオオオオォォンッ!!」


 大狼の一撃目は布石、爪の攻撃はこの二撃目が本命だった。大狼は僅かにニタリと笑ったかと思うと大きな勝利の咆哮をあげ、全速力で走りながら三撃目の噛みつきを放ってくる。弱って鈍った所に即死技。


(これはさすがに無理かな……。)


 大狼の獰猛な牙が目の前に迫った瞬間、俺の頭の中に衝撃が走り文字が浮かぶ。



―『暴虐ぼうぎゃく義眼ぎがん』発現―



(な、なにが起きー)


 目の前の獰猛な牙が視界に入る。


 だが遅い。明らかに遅かった。


 大狼の口を開ける動き、筋肉の収縮、飛び散る砂、すべてがひどく遅く感じられた。まるで大狼と自分の時間軸がずれている程の差。大狼の噛みつきを見ながら、わざとギリギリで右に回避する。


 何が起きたのかわからないがよく見える。大狼の顔がわずか数十センチ左だ、回避と同時に体は動き出す。前のめりになっている狼の首めがけて剣閃を走らせる。

 

 下段からの切り上げ、力を一気に込め切り上げ抜いていく。


「いっけえええええええええっ!!!!」


 大狼の野太い首筋に深く刃が食い込む。真っ赤な血飛沫をあげながら、きれいに胴体と首を切り離す。


「はあはあっ……」


 肩で大きく息をすると、大狼はゆっくりと前のめりに倒れこむ。同時にその振動が俺の足にも伝わる。胴体はびくんと痙攣けいれんをおこしながら、首から大量の血が勢い良く溢れた。


(……勝った)


 命のやり取りは初めてだった。今になって恐怖で体が震えてくる。まさか初めて命のやり取りをする相手が、こんな化け物だとは思わなかった。気が抜けたのか、全身のあらゆる箇所からするどい痛みが走ってくる。


(そうだ、女騎士達をー)


「ガフッ!?」


 振り向きざまに口からおびただしい血が吐き出された。やはりあばら骨が肺に刺さってるみたいだ。意識が遠退く先で、うっすらと女騎士達が見える。女騎士が少女の肩を抱き、へたり込んでいる。その顔は口をぽかんと開け、驚いた表情をしていた。


しかし倒れこむ俺を見て我に返り、慌ててこちらへ走ってくるー。


「~~ッ!!」


(な、なんだって?)


 閉ざされゆく意識の中でよく聞き取れず、そのまま俺は意識を失った―。




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