よし、じゃあちょっと足掻いてみるとこから始めようか
書きました。目指す世界観があったはずなのに書き終えたら全部忘れました。
財布の中身が尽きた頃、テレビでは世界滅亡やら創世の歴史が再び始まろうとしているやらで全チャンネルジャックされてて、「あーやっぱ世界滅亡すんのか今日」って再確認しちゃって。
窓の外、空を見上げてみればうっすらと見える隕石。空を覆う岩面は少しぼやけているものの、数日前からヴォオオオ……と重低音を齎している。
皮肉にも世界週末に向けて金の回りが全国どこも良くなったようで。そうだろうね、俺だってもう金欠だ。今までの世界滅亡説は結局前触れもクソも無いただの絵空事だったけれど、ここまで如実に「滅亡!」って感じの脅威が来ちゃったら、予言もびっくりだわな。
専門の人が言うに、この隕石は地球の数百倍の大きさがあるらしく、逸れることはないそうだ。地球粉砕エンドが着実に近づいている。そんな混沌の中で俺が最後に金をつぎ込んだ物。
「ま、滅亡の直前に運試しってのも変な話だわな」
スマホゲームへの課金だ。
『ドラグーンサイクル』というマイナーゲーム。一匹のドラゴンを育成し転生させてどんどん強くさせていくゲームなのだが、マイナーのわりに奥が深い。むしろマイナーだからか運営が余裕もってニーズに応えてくれているところはある。
その『ドラグーンサイクル』の中に、龍の卵ガチャと言うものがあり、これを引くと新たな龍を手に入れることが出来る。俺はまあまあ古参なのでパーティーに困ってはいないが、先日新たなドラゴンが追加され、それをまだ取得していないのだ。だからいっそ、俺も死んでこの世界も滅んでこのゲームすら消えるのなら。ちょっとは無駄なことをしてみようと、今に至る。
「……ワールドエンドドラゴン」
まるで世界滅亡に合わせて作られたかのようなドラゴン。刺々しい鎧のような灰色の体表。赤く燃えるような目に鋼鉄のような翼。そして力強い鉤爪。まさにドラゴン。まさかここに来て運営は悪ふざけをしているのだろうか?っていうか運営世界滅亡の危機なのにまだ会社に居るのか。ごくろうさま。
状況が状況なら不謹慎だとか言われるであろうネーミングだが、幸いこのゲームはマイナーで、周囲にやってる人間が一人も居ない。だから「ドラサイでワールドエンドドラゴンとかタイミングやべぇな」って言える友人も居ない。やべぇのが俺になるだけ。
「じゃ、いっちょこの世界終わらせてやりますか」
何の因果か世界滅亡にワールドエンド。これはちょっと神の気分に浸っても悪くない。俺はノリノリで尊い課金をガチャで使った。
・リバースドラゴン【炎】
・アイスキッドドラゴン
・プロメテウスドラゴン
・マジカルドラゴニクス【☆5進化素材】
・アイスキッドドラゴン
・ニューグランドドラゴン
・プリンスドラゴン
・リバースドラゴン【光】
・リバースドラゴン【氷】
・カオスドラゴン
よくある十連ガチャ。大外れした。よく見れば今ガチャのイベントなどは起こっておらず、ただワールドエンドドラゴンが追加されただけだった。それにワールドエンドドラゴンの確立は1%にも満たない。嘘だろ。
俺は途端に馬鹿馬鹿しくなってしまった。もう一回ガチャを回す金があるが、それで当たるほどワールドエンドドラゴンは安売りされてない。あー、下手こいた。
この間にも隕石は予想もできない速度で迫ってきていて。っていうか月とかどうなったんだ?隕石に潰されたのかな。破片とか落ちてきたら嫌だな。せめて一思いに消してほしい。日常に不満があるとかじゃないけどさ。
ベッドに身を投げてテレビを点ける。やっぱりやってる特番。運営といいテレビといい、世界滅亡が近づいてるのに仕事か。日本ってホントブラック。俺が大人になる前に滅亡してくれてよかったかもしれない。頑張れ来世、あ来世ないか地球ないし。
とりあえずあれだ、唐突に怒りたくなってきた。だって画面の向こう側で得意げに喋ってる人らにも家族は居るんだろ?なんで家族差し置いてテレビ出てるんだよ。家族より仕事なのかよ。出来ることなら今ここでテレビ局に電話でも一本入れて喝の嵐巻き起こしてやりたい。あームカつく。テレビ消そ。
さて、と。どうしたもんかな。重低音に耳が慣れちゃって、頭がイカれそうだ。
……ん、待って。いろいろおかしい。あれ?宇宙空間だよな?隕石って、宇宙だよな?なんで音が伝わるんだ?
それにあれ?この隕石ずっと空にあるよな、朝も、夜も………………自転は?
待ってやばいえ、なにこれ凄い怖くなってきたんだけど。え、え、え?夜が来るってことはちゃんと自転してるんだよな?ってことは、この隕石は、地球に合わせて回りながらこっちに向かってきてるってことか!?
っていうより……この隕石、すでに宇宙空間からこの地球に侵入してるのか!?でないと音が伝わってくる理由がつかめない!!
嘘だろ嘘だろ嘘だろ。詳しくは知らねぇけど隕石ってめっちゃ早いんだよな?それがもう地球上にあるってことは、思ってたよりこの星の寿命って短いんじゃ!?
っていうかなんでそのことテレビがやらねぇ!?わかってんだろ衛星とか使って隕石がどこにあるのかとか!!まさか、騙してるのか?メディア総出の滅亡ドッキリか?民衆には「まだ大丈夫、もう少し時間ある」とか言っときながら不意打ち滅亡ってパターンか?
……嫌だぞ、それは納得いかない。消える時は一思いに消えたいけど覚悟を決める時間ぐらいそっちで教えてくれよ。ここで気付いてよかった。気付かなかったら、寝ながら死んでたかもしれない。畜生!
ふざけるなよ、まだ時間があると思ってたからこんなダラダラしてたんだ。時間が無いと分かった今、やるべきことは一つだ。
最後のガチャを引く。
金も使い果たしてやることすべてやったんだ。あとはできることをするのみ。そのできることってのが、ガチャだ。
俺は大急ぎで『ドラグーンサイクル』を開いてガチャの画面へと行く。
これでこの画面を見るのも最後になると思うと、まぁ感慨深い。これを回してワールドエンドドラゴンが出なくても恨みっこなしだ。俺はさっき神の気分に浸った男。そして隕石の気付きに達したんだ、神になってもおかしくない。
さぁて、最後の一発。1%未満の軌跡をここで起こしてやる。
たかがスマホゲーム、たかが課金。これに世界滅亡までの時間を費やす馬鹿は俺か、本当のバカしかいないな。
ゆっくりと近づく指。待機画面に、指が触れた。
ガチャのモーション。画面が光る。
画面が光り、その光が……部屋を包んだ。
「!!?」
「……冴えねぇ出会いだ」
光が収まり、目を開くと、妙に部屋が狭くなっている。
「……?」
「よぉ、主」
それは人間っぽい声をしていて、でも人間っぽいフォルムではなかった。
刺々しい鎧のような灰色の体表。赤く燃えるような目に鋼鉄のような翼。そして力強い鉤爪。そう、まさに……。
「ワールドエンド、ドラゴン……」
画面の中に居るはずのそれが今、この部屋に現れた。
「端的に言うぜ。俺はご存知ワールドエンドドラゴン。この世界を終わらせるために生まれた」
もう今、隕石うんぬんよりもこの不測の事態が俺の頭をショートさせた。
「だが来てみれば、俺が終わらす前にこの世界、滅亡しそうじゃねぇか」
何を言われようと、今の俺の頭には理解ができない。ドラゴンが喋ってるとかそう言う次元の話じゃなくて。
「それは……気に入らねぇなぁ。俺が!終わらせる世界だ。他の要因で終わらせちゃいけねぇ」
ドラゴンが存在している時点で、もうおかしいんだ。
「呆けちまった主には悪いが、俺に協力してもらうぜ」
はは……もうやけくそだ。
「いつもの具合でいい。俺に命令してくれよ」
「……いいんだな……俺はまだ、混乱してるぞ」
「いい。それでもあんたはもうじき落ち着きを取り戻す」
何を根拠に言いやがるんだ。生まれたばっかの癖して生意気な。とりあえずあれだろ、隕石ぶっ壊せばいいんだろ。
「……よし、じゃあちょっと足掻いてみるとこから始めようか」
「イエス、サー!」
ありがとうございました。ファンタジーです。
隕石が空から消えないのとかは全部ドラゴンの陰謀のせいだったりしますがこれは短編なので後は全部知らんです。