8:満月の秋 存在の価値
8:満月の秋 存在の価値
満月の秋。ちび神様と狐は、いつものように二人並んで、村の景色を見ていた。村では、葬儀が行われていて、月にうっすらと煙がかかった。
「諸行無常。万物に永遠はなく、常に移り変わる。」ちび神様がぼそっと言った。
「まあ、いつかは全部なくなるっていうやつですよね。なんか、考えたら悲しい世界ですね。」
狐は答えた。
ちび神様は月を見ながら狐に言った。「君は、月がなくなったら、悲しいかい?」
「そりゃあ、残念ですよ。」狐はいった。
「でも、それで困るかな。何年かしたら、きっと当たり前になるよ。だれも理不尽だなんて思わなくなる。」
「そりゃ、そうですけど。」
「それに、君は道端で蟻がなくなってたら、悲しんで葬式をあげるかい。神様になんて理不尽なんだって怒るかい?」
「うーん。しないですね。正直。」
「僕達を見守ってる大神様にとって、人間って、きっとそれくらいなんだよね。僕みたいな神様もそうだろうけど。」
「そんなもんですかね。」
「僕がいなくなっても、誰も困らない。いや、もしかしたら、誰かが困ったり悲しんだりしてはくれるだろうけど、いつか忘れる。もちろん、僕に限らず、この世界の誰もが、地球も、宇宙も、きっとそうなんだと思う。諸行無常。」
「でも、少なくとも、私はちび神様がいてほしいし、単純ですけどいなくなったら悲しいですよ。そしてずっと心に残ります。ちび神様が教師だった頃を覚えているみたいに。」
「変わり者だね。」ちび神様は笑った。
「でもさ、誰の役にも立たない神様は、きっといなくてもいいんだよ。」
そして、古いぼろぼろになった社を見た。その社は赤く染まった葉っぱに埋もれて、半分見えなくなっていた。
「神様って、人の願い、希望、欲望、色々なものを叶えるのが仕事なんだ。叶えられない神様には価値がない。神様としては、天罰を下したり、何でも願いを叶えてあげれる方がいいんだろうけど、それもできないし、したくないんだ。だめだめな神様なんだ。」
「わかんないですが、色々な神様がいていいんだと思いますよ。」
「世間話をするだけの神様でも?」
「私は安心できる居場所みたいで好きですよ。」
「それって神様の意味があるのかなあ。」
「充分。」
「うーん。」ちび神様は笑った。
「変わり者ですかね。」狐は言った。
「かなり。でもありがとう。もうちょっと、がんばってみるよ。」
狐は、少しご機嫌になった。そして次の日、古い社にかぶさった楓をそっとよけた。




