ロンリークリスマス
ピンポーン。
午後八時、僕は大学の先輩である古谷啓介さんのアパートを訪れていた。
クリスマスパーティーだなんて正直あまり気が進まない。
メンツも内容も何ひとつ知らされていないし、それに古谷先輩が主催するイベントはいつも不人気なうえ会費が高いのだ。
「おっす、よく来たな。まあ、あがれよ」
先輩が出迎える。どうも、お邪魔します。
わあ、すごいですねこれは。僕は思わず声をあげた。
テーブルのうえには色鮮やかなお酒がずらりと並びスナック菓子、ケンタッキー、ピザ、惣菜など、ざっと見ても十人分はあると思われる食事の準備がされている。
「そこ座れよ」先輩に促されるまま、茶色のソファに腰をおろした。
「この部屋の飾り付けも全部先輩ひとりでやったんですか?」
僕が質問をすると、先輩はにやにやと不敵な笑みを浮かべ得意げに、まあなッ、と答えた。
僕は素直に関心した。
あの古谷先輩にも、こんな器用な一面があるなんて……。
「先輩、今日は誰が来るんですか?」
どんな女性を誘ったのか、それが一番気になる。
「やっぱり気になるか?」はい、と僕は頷いた。
先輩はポケットからスマートフォンを取り出し、
「ええっと、アケミちゃん、マリちゃん、ミサちゃん、ユリナちゃん、マユカちゃん、それとシズカちゃん。全部で六人だね」
と、今夜のメンツを早口に紹介した。
「っえ、そんなに呼んだんですか?」
僕は真顔で先輩に問いかけた。
「そうだよ、女が六で男が二。ハーレムだぜ、ハーレムぅ」
と先輩は携帯を操作しながら嬉しそうにこたえる。
そんな馬鹿な……。
先輩は、手当り次第に声をかけたのか。
名前のあがった六人は、僕達と同じ三年で同じ経済学部である。が、グループも違うし第一タイプというか系統がまったくことなる。
それにユリナちゃんとシズカちゃんは恐らくお互いに面識がない……。
「俺さ、前からシズカちゃんのこと狙ってたんだよねぇ」突然、先輩が口をひらいた。
そうだったんですか、と僕。
「あーゆーいかにもギャルってタイプの子、俺けっこう好きなんだよ」
中途半端に伸びた顎鬚をいじりながら先輩はそう言った。
はあ、そうですか……。
「こうへい、今夜はたぶん朝までコースになるから覚悟しとけよッ」
「朝まで? 明日、朝からバイトなんすけど」
僕はトリスハイボールに描かれた髪の無いおやじを見つめながら応えた。
先輩は画面の割れたスマートフォンいじりに余念が無い。
「それにしてもおっせーなー」と先輩。
何時に来る予定なんですか、と僕が訊くと八時だよ、とかえってきた。
顔をあげる。
掛け時計は無言のまま九時前を告げている。
今夜は誰もこないだろう。僕は悟った。
その瞬間、途方もない虚しさに襲われた。僕はここで何をやっているのだろう。
失望めいた感情がもやもやと頭のなか一面に立ちこめる。
「さみいな、暖房つけるか」古谷先輩が呟いた。
トリスのおやじが僕たちを嗤っている。