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3/3

終わりと始まり

 三回戦は昼休みを挟んでから行われた。

 一時半に、両チームがグランドに整列して挨拶をした。

 じゃんけんで先攻後攻が決められて、二年三組は守備から始まることとなった。

 あの例のヤンキーは、四番バッターをやるようだった。目立ちたがりが考えそうなことで、おそらく誰も反対することはできなかったのだろう。

 一番バッターは、大人しそうな男だった。一球目はファールを出したが、あとは空振りで、バッターチェンジ。おどおどとベンチに帰る男に、例のヤンキーは、なんで打たねえんだよ、とドスを聞かせて責めていた。

 うわぁ、と守備についていた二年三組の生徒達は、嫌な顔をした。

二年二組の応援の中に木村サヤカの姿があった。いいところを見せるために勝利したいのだろうが、そんなやり方では逆効果でしかないだろう。しかしそれ以上に心配していたのは、怒りの矛先が直接二年三組に向けられることだった。

 二番バッターは見事に出塁を果たした。塁に出れて、彼がほっとしているのは明らかだった。

 三番バッターは、見るからに例のヤンキーと同類と思われる柄の悪い男だった。やや髪の色が茶色に染まっており、左右に分けられた髪の毛は肩まで垂れさがっている。投手を睨みつけるように打席に立つ。二回ほどバットを振って、空振りをすると、もうやめたとばかりに三球目はバットを振るのをあきらめた。打席を去る前に、舌打ちをしてベンチに帰って行った。やはり、例のヤンキーとつるんでいる仲間らしく、この男が三振をしても、ヤンキーは文句を言うことは無かった。

 そして、ツーアウト一塁。

 四番バッターの、例のヤンキーの出番だった。意気揚々と出てきた割には、フライを打ち上げて簡単にアウトになった。運動神経は良い方なのだろうが、バッティングに関しては、下手ではないが、上手いというほどではないレベルだった。クソ、と叫んでバットを地面に叩き付ける。

 二年三組の男子たちは、面倒なことにならなければいいが、と気が気ではなくなっていた。

 投手と捕手は、ヤンキーとその仲間だった。

 これほど、嫌なバッテリーもそうお目にかかれないだろうと思われた。

 マウンドに立つ前に、二人は互いに唇をゆがめて笑いあった。

「あいつらが調子に乗らないように、予定通りやるぜ?」

「へへ、了解了解」

 全員が守備位置について、試合は再開された。

 最初の二人のバッターは、委縮してしまってボール球を引っかけて、アウトになった。

悪い流れだったが、それを断ち切るように三番バッターは思い切りよく絶好の球を振り抜いて出塁する。

 例のヤンキーは、キャッチャーに目くばせをする。キャッチャーは、うなずいた。

 四番を打つのは、米村だ。月舘は五番に控えており、軽く素振りをしながら米村の様子を感情の起伏がまるで無い目で見ていた。

無理矢理四番になった以上、ここで活躍するしなければ意味がないだろう。

 木村サヤカも、米村を見ていた。

ピッチャーは全力でボールを投げた。四番バッターに当てても構わないというつもりで豪快に、いや、バッターに当てるつもりでそのボールを投げていた。

鈍い音が響き、ボールが地面に落ち、そして、米村は倒れた。

声にならない呻き声を上げて地面に蹲る米村がいた。左の太ももの外側部にボールは当たったのだった。

「あっ!」

 ベンチにいる二年三組の男子達は立ち上がった。

ピッチャーは、すいません、と心配そうな顔を作って駆け寄った。

米村は試合を続行するのは無理ということで、そのまま応援に来ていた二年三組の者の肩を借りて、足を引きずりながら保健室へと向かった。

見学している生徒達がざわめく中、月舘はいぶかしんだ。米村の表情は、無念とか怒りとかそういったものでは無かったのが月舘にはわかったからだ。

「さっきの試合でもあいつ危ない球を投げてたよな」「いつかやると思ってた」「それまじ」

 そんなざわめきの中で、月舘はどうしてこの二年二組のチームが勝ちあがってこれたのか、把握した。

そして、そのうえで米村の行動を理解した。

「米村くん……」

 月舘は、米村のために彼なりに準備を全力で手伝った。三回戦までに負けないように全力を出したし、肝心の木村サヤカが米村の雄姿を見逃すことが無いように三回戦を見にくるようにと木村サヤカに念押しをした。

 ここ数日米村に避けられていた理由が、月舘には今だにわからなかったが、しかし、一連の米村の行動の理由を把握した。

 四番バッターが狙われるということが分かっていたのだろう。だから、自分の代わりに米村は四番になったのだ。これは、自惚れだろうか。米村が傷ついたことは嫌なことだったが、少し、うれしく思った。

「米村くん、かたきは取るよ」

 相手チームの不運は、四番バッターしか得点力がいないという情報が三回戦では間違っていたことだろう。三回戦ではその男は五番バッターになっていたのだ。

 カキーン

 と、あっけなくホームランを打つ月舘を止める方法はもうなかった。彼らも二度も同じ試合でデッドボールを放つことは無理だった。




保健室に着いた米村は、足を出して保健室の先生に湿布を貼ってもらった。

「軽い打撲ね。しばらく、大人しくしてなさい」

 それだけ言うと、また、どこかへ行ってしまった。

「ふぅ、今日は散々だ」

 誰もいなくなった保健室で、米村は呟いた。

 保健室のベッドが空いていた。軽い疲労感を覚えていたので、上履きを脱いでそのうえに寝転がった。

「結局サヤカさんに、かっこいいところは見せずじまいで終了っつーのは情けないよなぁ……」

 ぼんやりと、今日の試合を脳裏に振り返りながら、米村はぼんやりと心地よい眠気に身を委ねた。




 見上げると、白い天井が見下ろしている。

 夢は見なかった、いや、脳科学者がいうところの、夢は見ていたが起きた時にそのことを覚えていないだけのことなのだろう。

米村は、一瞬、ここはどこだろう、と疑問に思い、すぐに保健室でうたたねをしたことを思い出した。

 カーテンがたなびいて、なだらかな曲線を描いている。三角関数で簡単に表現できそうな、綺麗で連続な波を作って風に揺れている。

 枕元に、見知らぬ人間が微動だにせず屹立していた。黒いスーツを着た人間が二人。女と男だ。

「目が覚めたみたいね」

 女が一歩前に出て、話しかけてくる。

 米村は、まだ少し頭がぼんやりとしていて、すぐには返事をしなかった。

 後ろに控えていた男が、女に向かって顔をしかめる。

「三木さん、やっちゃわないんですか?」

「物騒なこと言わないで、それは早計というものよ」

 何を話しているのか米村にはわからなかったが、穏やかではないという状況に視界がはっきりとしてくる。

「判断の先送りに過ぎないでしょう。手遅れになってしまう前に、ですよ。これが失敗してしまったら僕達に明日はありません」

 三木、と呼ばれた女は振り返って、男に感情の無い声で告げる。

「あなた少し外で待ってなさい」

 男は何か言いたげな目で一度三木を見たが、反論はせず大人しく保健室から出て行った。男が出て行くと三木は、丸いクッションに足を三本付けた簡素な椅子を、米村のベッドの脇に置いて座った。

「ふー。米村くんだったよね、はじめまして、といっても。これが最初で最後の対面になるかもしれないけどね」

 髪をかきあげて、ため息をつく三木は、二十後半から三十前半の年に見えた。

「はぁ……、あれ今何時ですか? 球技大会は終わったんですか?」

「ふふ、今は四時十五分。球技大会は終わったわ」

「そうですか」

「そうよ、終わったの。あの試合は結局勝ったかどうか、とか聞かないの? 気にならない?」

「ええ、勝敗は別にどっちでもいいですから」

 二人とも口を閉じた。米村は、三木がどういった人間でどうしてここにいるのかわからなかったし、特に話しかけることも思いつかなかった。風の音とそれに乗ってくるわずかな球技大会が終わったという余韻の声以外には、この部屋では音を立てる者が一切無かった。

 沈黙を破ったのは再び三木だった。

「私も昔、球技大会やったわ。中学生のころのことね」

 カーテンがバタバタと相槌を打つ。

「懐かしいわ。あの頃は毎日がただ楽しかったわ」

「それはいいすね」

「漠然と、あの時期が永遠に続くと思っていたわ」

「少年老い易くうんぬん」

「私は少女だったけどね」

「少年という言葉は男女の別なく歳の若い人を指す言葉すから、少年で間違ってはいないすよ」

「あら、あなたも物知りね」

「誰かさんと比べると霞んで見えなくなる程度にしか、ものは知りませんすよ」

「あの子一回聞いただけで大体覚えてしまうものね、比べるのは酷というものな気がするわ、ふふ、まぁでも常識が多少欠けてしまっているけど」

 米村は拍子抜けした。なんとなく月舘の関係者だろうと踏んでわずかに踏み込んで聞いたところ、あっさり明かしたからだった。

「俺に用があるんすか、それとも月舘に用が?」

「あなたに」

「何しに?」

「殺しに」

「こんなところで堂々と俺を殺す? 冗談でしょう」

 米村は、ハハハ、と乾いた笑い声を上げた。

「冗談? 死因不明で他殺かどうか判別できない殺し方なんてざらにあるわ」

 女は冗談を言ってるような顔つきではなく、何でもないことを言うように述べた。米村ははっとなって、口をつぐんだ。

「でも、やめることにしたわ」

「どうして?」

「さあね」

 三木は悩まし気に米村にウインクをすると、立ち上がった。

 ガラガラと、保健室の戸を開けて三木は出て行き、二人分の足音が遠ざかった。

「何だったんだ、今の……」

 と、米村は呟いた。

時間的に、もうちょうど帰りの会が終わるころだから、教室に戻らなくては。

米村は保健室のベッドから降りて、上履きを履いて、まだ痛む足を引きずりながら保健室のドアを開いた。

「大丈夫? 米村くん」

 そこには、二人分の鞄を持った月舘が立っていた。米村の鞄と、月舘の鞄だ。

「一緒に帰ろう」

 月舘は、米村の脇から体を支えた。


 自転車の前のかごに、二人の鞄が詰まっている。後ろの荷台に、米村が腰かけて、月舘がこいでいる。二人を乗せた自転車は、川沿いをゆっくりと進んでいく。

「米村くんは、馬鹿だなぁ」

「何だと?」

「木村サヤカにいいところを見せるんじゃなかったの」

「うるせぇ、不可抗力だ」

 月舘は、笑った。

「ぶつけられるのわかってて、わざと僕と順番変わったくせに」

 米村は口をつぐんだ。

「米村くんをお膳立てしてたのに、当の米村くんがそれじゃ僕も浮かばれないよ。まあ、うれしかったけど」

「……お膳立て? 抜け駆けの間違いだろ」

 米村は険のある声で言った。

「え?」

 月舘は、自転車をこぎながら少し振り返った。何か誤解があるのだろう、と今ようやく月舘は気付いた。月舘は、全てを懇切丁寧に話した、いつ何をどういう意図でしたのか、そして、ちゃんと木村サヤカに三回戦に来るように取り付けたこと。

 全てを聞いた末に、米村は言った。

「お前の方が馬鹿だろ」

「え?」

「お前それ普通に抜け駆けにしか聞こえないって。それはもう告白の一歩手前だろ、馬鹿か」

「え、え? そうなの?」

「賢いくせにそういうところが、馬鹿なんだよ」

「ごめん……」

 自転車は上り坂にさしかかっていた。月舘は、懸命に立って自転車をこいでいた。

「でも米村くんのかたきは取ったよ、二年二組にはちゃんと勝ったから」

「あー、うんそうか、それはでもやはり俺には悪いニュースっぽいけどな」

「え?」

 聞き返そうとしたとき、道路を塞ぐように立っている人たちに月舘は驚きブレーキをかけた。

「今日は、舐めた真似してくれたな」

 二年二組のヤンキーが負けた腹いせとばかりに待ち伏せをしていた。

「俺の兄ちゃんは、ヤクザとつながってるんやぞ。今さら謝っても許さんからな」

 聞いてもいないのにべらべらと余計なことを話す男だが、ピンチであることに間違いはなかった。仲間達を五人ほど引き連れて囲もうとしてくる。普段の状態だったらいざ知らず、けがをしている米村と自転車に同乗している現状では逃げ切ることは出来ない。

 そして、その上、ぞろぞろとヤンキー達の後ろから、黒い服を着た大人達が現れた。

「本物のヤクザか!」

 米村がそう驚いて言った。ヤンキー達は振り返って驚いた。

「誰だ!」

 ヤンキー達も驚く中、その大人たちはヤンキー達を羽交い締めにし始めた。なんだ誰だ、とヤンキー達は戸惑っている。

「逃げるよ!」

 月舘は叫んで、方向転換してもと来た道へと自転車を走らせた。

 もと来た道をしゃーっと駆けて行った。坂道を下る。米村は自転車から落ちないように、しっかりと月舘に掴まった。ヤンキー達は見えなくなり、そして、また、段々と川鷹中学校へと近くなる。

 生徒の群れをかき分けながら、自転車は流れに逆らうように進む。米村は、黒いスーツの人間には心当たりがあったのを思い出した。

「さっきの黒服は、月舘の知り合いだろ?」

「……そうだよ」

 自転車は慣性のまま駆けて行く。生徒の群れの中に米村は木村サヤカの姿を見つけた。木村サヤカは、月舘の姿を目で追いながら頬を赤く染めているように見えた。その姿も後ろへと流れていき、見えなくなる。

「全然関係ないけどさ、月舘、お前、あいつらに勝った時ホームラン打ったろ、どうせ」

「うん」

「最低だ、はぁ」

「え?」

「試合見に来いって言って、そこでホームランを飛ばすとかどこの主人公だよ、そんなもん最上級の告白でしかないやろ馬鹿」

「なるほど、あ」

「あっほやなぁ、……本当の本当は抜け駆けするつもりなんだろ、お前」

 米村は、月舘が抜け駆けするつもりが本当に無いのをわかってる上で、笑って言った。

「違う、違うよ」

「俺が木村サヤカのことを好きって広まってたけど、それもお前じゃない?」

「違うって」

 月舘は、心の底から反論した。

「あれ、じゃあ誰だろう?」

「米村くんのことを見てたら、誰でも多分簡単に気づくよ」

「うーん、そうか?」

 自転車は、駆けて行く。

 永遠にこの自転車は進み続ける気がした。

「しかし、何でもこなせるくせに、月舘は馬鹿だなぁ」

 と、米村は呟いた。

「米村くん、君は僕のことを買いかぶりすぎさ、そんなふうに思ってくれるのは君だけさ」

「いいや、俺の買いかぶりなんかじゃない」

「何でもできる、なんてことはないんだ。僕は昔から誰よりも苦手なことがある」

 米村は、黙って聞いていた。

「僕は、昔から人の気持ちがよくわからない。人との距離感がどうもわからなかった」

 太陽は暮れかかり、影が二人と自転車からずっと伸びる。

「だから、正直に言って、君が初めての友達だ。あのとき、君が僕に話しかけてくれたことを、本当に僕は感謝している。不思議と君とは最初から話せたな、いや、米村くんって最初なんか突っかかって話しかけてきたよね、それでなにくそって感じで僕は話してたのかな。君は僕の最初の友達だ」

「お前なんだよ、急にあらたまって、そんなこと」

 米村は、嫌な予感を振り払うように真剣な目をして話しかけた。しかし、月舘はおかまいなしに続ける。

「もう、お別れだ。無理を言って今日までここに残してもらったけど、もうこれ以上ここにはいられない」んだ

「あの黒いスーツの奴らのせいか? 別に俺は気にしない、お前がなんだろうと」

「あの人たちは、僕のおもりにすぎないよ、偉い人達がよこしたおもり役さ。……僕は、たった一つだけどんな願いもかなえることが出来る、世界を変えることが出来る。僕を見ると、それを知っている大人達は皆目の色を変えた。皆、僕の力を巡って奪い合った、そう、それは現在進行形でもある。僕はその力だけが存在意義だ。ここにいてもやはり君に迷惑をかけるだけ」

 夕焼けが、全てを橙色に染め上げる。自転車は、太陽から逃げるように走り続ける。もう西の空は青く黒くなり始めている。

「僕の力だけが存在意義だった。でも、僕の世界は君のおかげで変わった。だから、今度は僕の番だと思うんだ。僕の全てをかけて、僕が君にお返しをするときだと思う。つまり、もし願い事があれば、僕は君の願いを一つなんでも叶えよう、叶えるよ。君は僕の事情や偉い人の事情なんて気にしなくていい、願いを一つ言ってくれ」

 米村は、急に世界が急速に遠ざかったような感覚に襲われた。雲も川も鳥も木も太陽も車も自転車も何もかもがその動きを止めていた。

 動いているのは、静止した自転車の上に乗っている二人だけだった。

「米村くん、君の願いはなんだい?」

 米村は、時の止まったような周りの異様な景色には目もくれず、月舘を見つめた。

「……世の中にはさ、楽しいことがいっぱいある。俺達がまだやってないことがいっぱいある。お前は女の子に興味がないみたいな雰囲気出してるけどさ、好きな人がいるってのはいいことだぜ? ソフトボールの抜け駆けはまだ許してないけどな。夏は海に行って水着の女の子を眺めに行きたいな。冬はスキー場で狙いに行こうか。秋は果物狩りにでも行くかな、運動不足になったらバッティングセンターもまた行こうか。こういう願いってアホっぽいか? でも斜に構えるよりきっと楽しいな、これ」

 月舘は、じっと米村の目を見つめた。

「願いは一つだけしか、かなえられない。一つ選んで欲しい」

「アホっぽいけど、楽しそうだろ!? 全部だ、俺がやりたいのは全部だ! 一つなんて言わねえ! まだ若いんだ、もっと欲張ったっていいんだ。お前だって、まだ、ただの中坊だ。達観してんじゃねぇ。馬鹿か!!」

 月舘は首を振る。眩しいものでも見るように目を細めた。

「一つだけ選んで欲しい」

「ああ! 馬鹿! ちょうど俺は、一つだけ願い事があるんだ。それはな、お前のそのクソみたいな願いを叶える力とやらを無くすことだよ! お前はそれで普通の中学生になって、そしたら、普通に楽しいことを全部一緒にやろうぜ、そうだ、俺とだ、楽しいこと全部一緒にやろうぜ! これからもずっと俺と一緒だ!」

 月舘は、その言葉を聞いて目を見開く。

「つーか、月舘! お前はどうしたいんだ!! 他人の願いとか、そんなことどうでもいい。お前はどうしたい、お前の願いはなんだ!!」

 月舘は、肩を震わせた。

「ぼ、くは」

 月舘の声は掠れていた。堰を切ったように、嗚咽が漏れ出る。米村が叫ぶ。

「月舘、全部一緒にやろうぜ!!」

 月舘は、答える。

「ぼぐは、きみどいっしょにいたい!」

 抑え込んでいたものが、全て動き出した。自転車は再び動き始めた。雲も川も鳥も木も太陽も車も、さっきまで止まっていたのが嘘のように、動きを取り戻す。

 何も変わったものはない、景色は全く同じだ。この世界は何も書き換えられることは無かった。しかし、月舘にとってはまるっきり違う。

 きこきこ、と自転車をこぐ音が、優しく二人を包む。

「月舘、早速海行くか」

 月舘は少し涙がこぼれた顔を腕で擦った。

「ぐす。ぼくが自転車こいでるからって、そんな無茶なこと言って。どうやって行くのさ」

「川沿いに下っていけば、必ず海に着くぜ」

「ほら、無茶苦茶だよ」

「お前には出来るさ」

「そうだね、僕に出来ないことなんてないさ」

「言ったな、このやろ」

 二人は顔を見合わせて笑い出した。そして、いつまでも笑いあっていた。





おまけ

「三木さん、月舘の力の反応が消えちまいましたよ」

「あら、そう」

「あら、じゃないですよ。力を無くさせてしまったとあったら、俺達はお先真っ暗どころか、これじゃあ殺されてしまいますよ」

「でも、これで良かったのよ、きっと。そう思わない」

「はぁ~、出世街道驀進中だったのに……」

「じゃ、早速、ほとぼりが冷めるまでずらかろうかしら、一緒に来る?」

「はぁ~、地獄までお伴しますよ」


まずは読んでいただきありがとうございました。

久しぶりに投稿という感じです。最低でも月一でなにか出すつもりがちょっと失敗。この趣味は死ぬまで止めるつもりはないですし、描き続けてはいたのですが、うまくまとまらなかったりってあるよね。

<反省>

米村が月舘をかばってデッドボールしたわけだけど、そこの理由づけが弱かった気がしますね、やっぱり。絶対負けちゃいけない試合で、勝利するためには月舘を残さなければいけないという理由でもあったらもう少しわかりやすかったかなぁ。

あと、この作品は、滝本竜彦先生のネガティブハッピー・チェーンソーエッヂという小説の面白さにあてられて作ったもので、オマージュっぽい感じが少し入ってます。元々ヘタレ学生ものというかそういうのが大好きで、四畳半神話大系だとか、夜は短し歩けよ乙女、NHKにようこそ!みたいなのを折に触れて書きたいなぁと思っていたのです。元々結構自分がそういうクズっぽい学生崩れなんで猛烈に書きたくなるジャンルです。

しかし、今回書いた作品、はっきりわかるヒロインがいないなぁ。なんというか、上記の作品はなんだかんだいってヒロインと結ばれるハッピーなエンドですが、これはなんというか友情エンドですね。うーん。ヒロインを適切に配置する力って必要なんだなぁと認識できたので、これが次への課題ですね。

<反省終了>

続きを書かなければいけない奴をほっぽってるの良くない……。あぁ。最近鬱っぽくなったら幕末志士さんのゲーム実況をループして観ています。あれ凄い。

っというわけでどうもありがとうございました


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