バッティングセンター
「よっしゃ! バッティングセンターに行くぞ」
米村は、自転車置き場で自転車の鍵を捻った。スマホの時計は、午後四時四十六分を示していた。
米村と月舘は、自転車の前かごに荷物を載せて、走り出した。月舘が先頭を走り、米村がその後をついていくように走った。
川沿いの景色が目まぐるしく変わる。ボートの発着場の建物の近くでは、何人かが細身のウェアを着て、ストレッチで体をほぐしている。そして、役場の前の緩い下り坂を過ぎる。その先には、街の名前を冠した川鷹橋。川鷹橋は作られたのが意外と古く歴史があり、道幅が狭く、車がすれ違うのは難しい。夏祭りの花火大会のころになるとこの橋の上も人がごった返す。そして、川鷹神社。これは川の中州の島に作られた神社で、岸から橋が伸びている。
その横をアスファルトで舗装された道で、あっという間に走り抜けていく。
二人は自転車の速度を落とす。カラカラカラ、と車輪の回る音が規則的に聞こえる。そして、軒先にもうすでに置いてある自転車の後ろに、自転車を止め、スタンドを立てて、鍵をかける。
月舘はその自転車の後ろの泥除けに貼ってあるステッカーを見た、それは川鷹中学で配られて貼らなければいけないもので色は緑色だった。ステッカーは、緑、青、赤の三つがあり、学年ごとに色が違う。そして、緑色は二年生のものだ。
「先客がいるみたいだね」
「そうみたいだな」
二人はそれぞれのかごから、自分の鞄を持ちあげてバッティングセンターの自動ドアをくぐる。
網の向こうで女の子が豪快にバットをスイングしているのが、入り口からでも見えた。
月舘は首をゆっくりと巡らせた。
「僕ここ、中に入ったのは初めてなんだよね」
「俺は親父に連れられて二、三回あったかぐらいだな」
お金をコインに変えて、さてまず何キロの球で練習しようかと、打っている人の様子を見に行く二人だった。
あいにく、今打っている人は一人しかいなかった。百二十キロの球が出るところで、女の子が一人でバットを振るっていた。米村は、バットを一人で振っている女子中学生が誰か思い当たって、まずい、とその場を離れようとしたが、ちょうどその女の子は一区切りついて打ち終わり出てくるところだった。
「あ、米村じゃん!! バッティングセンターに来るんならそう言えばついていったのに」
「……はぁ」
月舘はため息をついた。隣にいる月舘については、まるで空気のような扱いだ。
「有宮、いい加減それやめようや」
「なに? 女の子がバットを振るっちゃダメって?」
「馬鹿、わざと話を逸らすな。月舘のことをそんなふうに無視すんなってことだよ」
米村が声には怒りの感情がこもっていた。
「だってさ、月舘くん。米村が守ってくれてうれしいですか~」
有宮は、人をおちょくった調子で月舘の方へと話を振った。米村は、今の有宮の態度で完全にキレてしまったようだ、米村のくせで眉のあたりが震えている。それを制するように月舘が喋った。
「有宮さん、僕と男のゲームをしませんか」
「え、何急に」
「バッティングセンターだから、バッティングの勝負。単純に一回分の二十球に対して、打てた球数の多いほうが勝ち」
「はっ、あんた私に勝てると思ってんの? なに、月舘は野球かソフトの経験者?」
「いいえ、全く」
「バッティングセンターで打ち込んでたとか?」
「全く」
「そんなのでよく勝負を挑む気になったわね! 舐めてるわ!! 何もわかってないから、あんたのこと頭に来るの、お話にならないわ」
そのまま身を翻そうとする有宮に月舘は囁いた。
「逃げるんですか?」
有宮は野生の動物のような鋭さでキッと月舘を睨んだ。
「格の違いを見せてやるわ!!」
この居丈高な物言いを聞いて月舘は、目論見通りいったな、とほくそえんだ。
勝ち気でまさしく男勝りな性格だから、少し誘導すれば有宮さんと勝負する流れにもっていける。そして、そのまま僕が勝利すれば、その性格からもう有宮は僕を格下と見るような乱暴な態度はしなくなるだろう。そうすれば、米村くんが有宮さんと余計ないざこざを起こさないで済むだろう。ただ、問題は勝てるかどうか……一回も打ったことなくても大丈夫だろうか。
「ここの百二十キロでやったら面白くないわね、どうせ私は全部打ててしまうし。どれだけ違いがあるかを見せたいから、一番難しいあそこでやろうよ」
そう言って有宮が指をさしたのは、このバッティングセンターで一番速い百五十キロの球が出るレーンだった。
「今さらやめようったって、遅いから。一本も打てなくたってちゃんと最後までやるのよ」
そう冷たく言い放つと有宮は先頭をきって、歩き出した。
その有宮の後ろについて、月舘と米村が歩いていた。米村は、眉根をよせて月舘に耳打ちする。
「お前、本当に大丈夫か……あの有宮だぞ」
「なにをこそこそ話してるの?」
有宮は振り向かずに声だけで威嚇した。
月舘は肩を軽くすくめただけで、何も言わなかった。米村は本格的に心配になった。
月舘の考えている道筋っていうのは、大体だがわかる。間違いなく、月舘は有宮に勝つ前提でこの先の結末を考えている。勝てるのか? 勝てる自信があるというのか? 有宮に? 勝つつもりなのか? なに考えてんだ、月舘。やはりこういうとき月舘のことがわからなくなる……、負けたらどういうめにあうかわからんぞ……。
有宮が打席に立つ。その姿は、堂に入っている。
息を少し深く吐いて、そして、バットを強く握る。視線は十八メートル先に集中して向ける。
第一球。有宮が振ったバットは、球の5センチほど下を空ぶっていた。
米村は、有宮を流石だ、と思った。空振りだったものの、タイミングは正確。流石にプロ野球選手の娘のことだけはある。小学校のころには男子と混じって野球をやっていたという噂は、学校での有宮からだとにわかに想像しがたかったが、今のスイングを見るとその噂も納得だ。米村は大丈夫だろうかと、月舘を見て唸った。
有宮が有名なのは、父親がプロ野球選手だったというのが大きかった。有宮が巨人の有宮選手の娘というのは周知の事実で、川鷹中学で、まして、その事実を同じクラスで知らないなんてことはよほどの人づきあいの悪い人間でないとありえないだろう。
月舘は、有宮が空ぶったのを見て、豪語していたわりには大したことないな、と思った。
月舘は、有宮がプロ野球選手の娘だということは知らなかった。そして、百五十キロの球は、野球のうまい人間でも、最初の二、三球は空ぶってしまうものだということも知らなかった。
第二球。今度は、タイミングは正確のまま、さらにバットを球に寄せた。バットは球を擦るが、球はほとんど軌道を変えずに後ろに落ちる。
有宮は首を横に振る。
第三球。さらにバットは球の芯に近づく。球は後ろに飛ぶ。ファールだ。米村は、もうそろそろ有宮は前に飛ばす、と感じた。
結果、有宮は二十球中十七球打った。最初の三球を除いて全て打ったということだ。
「ふう、じゃあ、次はあなたの番よ」
有宮は、月舘をじっとりと睨んだ。どう見ても、月舘は細身の体つきで、色白であることもあいまってもやしのようだった。月舘は、バットを入れてあるところで迷っていた。
「えーと、バットってこの中からどれを選んでも一緒?」
「ええ、そりゃ」
早くしなさいよ、と思いながら有宮は言い返した。
「5番アイアンとかって良く飛ぶとか聞いたんだけど、これはそういう類の奴?」
「はっ、それはゴルフでしょ」
「あ、なるほど。覚えておくよ」
常識を欠如しているとも言えるまでにあまりに何も知らない月舘に、有宮は呆れた。
打席に立つ月舘の後ろ姿は、一言でいうと頼りない。
有宮は、月舘が初めから勝つつもりはないのだろう、と見当をつけていた。
私と勝負をすること自体が目的なのだ。多分、そうだ。私と仲良くするために、私の趣味に無理やり合わせて来るという人たちはたくさんいた。そして、月舘の今やろうとしていることもそうだろう。一緒に勝負をすることでとりあえず親睦を深めようとしているのだろう。甘い。そんなことで私がもやし男に対する態度を軟化させるわけがない。むしろ、一層嫌悪するだけだ。
そして、月舘の第一球。
月舘は、明後日の方向へバットをぶん、と振り回した。
思いの外、バットのスピードはあったが、しかし、それは間違いなく素人の振り方だった。有宮は、お話にならないといったように鼻で笑い、そして、もう興味を失ったかのように携帯をもてあそび始めた。
月舘の第二球。またしても、バットは空振りをする。米村は、頭を抱えた。無理だ。事態が悪化するだけか!
頭を抱えて、うずくまった米村の耳に、カーン、という小気味良い音が聞こえてきた。
「え?」
第三球は、ヒットだった。有宮は三球空振りのあと全て打っていたから、このあと月舘が全ての球を打てば月舘の勝ちだ。有宮は、その音が聞こえてもただのまぐれでしょう、とばかりに月舘の方は見なかった。しかし、スマホをいじくっている手が止まっていることが、月舘に気を取られている証拠であった。
再び、カーンと良い音とともに白球が前に飛ぶ。有宮は、我慢をしきれなくなって顔を上げた。
月舘は、いつもの飄々とした何も気負っていない表情でバットを振っていた。
女の子が三球ミスですむなら、僕は二ミスくらいでいいだろう、全部打って圧勝するのもかえって良い結果はもたらなさそうだしね、月舘はそう考えてバットを振る。
月舘が連続してヒットを放つたびに、有宮は信じられないものでも見ているようだった。しかも打つたびにフォームはみるみるうちに変わっていき、十球目あたりではほぼ理想的なスイングへと変わっていた。しかし、フォームを適当に変えて遊んでいるのとは少し違う。有宮の勘に過ぎないが、目の前で起きたスイングの変遷はまさしく練習の末に見せる上達の過程を超早送りにしたようなものに感じられるのだった。しかし、そんなでたらめなことがありえるだろうか、有宮は困惑しながらも注視し続ける。
第二十球、最後の当たりは、今日の打球で最も良い当たりだった。壁の奥のホームランの的に当たるかと思われたが、わずかに軌道は逸れた。
有宮は、いつの間にか月舘の底知れない実力に驚き委縮していた。
「あんた、実は子供のときにでも野球やってたんじゃないの、やったことないなんて言って、騙したわね?」
有宮は、精一杯の虚勢を張りながら、自分のギリギリ納得出来る考えを、月舘にぶつける。昔やっていた頃のフォームを取り戻していったのだ、とすれば、なんとか有宮の常識の範囲に収まるし、あっという間に技術で追い抜かされたなんてそんな馬鹿げてて癪にさわるようなこともない。
「いや、初めてなんだけど」
こんなもやし男が、そんなことってありえるだろうか……、私はなんなのだろうか、私の今までの練習は何だったのだろうか?
「嘘よ! 嘘よ!」
有宮は神経質にそう叫ぶと肩を怒らせてバッティングセンターの外へと出て行った。カウンターでTVを見ていた店のおじさんが何事かと身を乗り出して、じとっと睨みつける。
米村は、ため息をついた。
「あーあ、有宮切れちゃったな、ま、無理もないか」
「あれ、ちょっと僕の想定から外れたんだけど。これでうまく大団円とはいかないまでも、実力を認められた僕は一目置かれる、くらいで収まると思ってたんだけど。何が良くなかったかな」
と、月舘は首を傾げる。
「そんな簡単に負けさせられたら、有宮もトラウマもんだろ」
「え、トラウマ? そこまでショックなの?」
「そこまでのことだろそりゃ、……っておい、まさかお前有宮がプロ野球選手の娘だってこと知らない?」
「え、はあ、なるほどなるほど、へえ」
「呆れた、月舘はもうちょっと周りの人間に興味を持ったほうが良いぜ」
「いや、だからなのか。そうと知っていたら、もうちょっと勝ち方を加減したのに……。引き分けにすれば良かったな。これじゃあ、下手をするとかえって関係が悪化してしまってる気がするなぁ」
「はっ、勝ち方を加減か、今の言葉を聞いていたら有宮もっとぶちぎれてるぜ。しかし、流石に俺も驚いたな、お前がバッティングもここまでこなすとは」
「棒をタイミング良く当てるだけさ、難しいことじゃないよ」
「ホント、有宮が聞いてたらぶちぎれてたな」
米村は、またため息をついた。
そして、米村は、一流のスイングを身につけた月舘に見守られながら、バッティング練習に励むことにした。
ただ、米村はなかなか上達しなかった。月舘は本気で教えようとする気があったのかなかったのかはわからないが、とにかくとても教え方は下手くそだった。
球技大会というのは、各クラスから球技ごとにメンバーが選ばれて学年を問わず競い合うものだ。トーナメント戦であり、各クラスの文化委員がくじ引きでどのトーナメントの枝になるのかが決定する。
月舘と米村の二年三組は、三回勝てば決勝に進出出来る、普通のシード以外のところを引いていた。
球技大会というのは、一種のお祭り騒ぎだ。女子たちは少し化粧をしたり、髪の毛を編み込んでいる者も中にはいたが、教師達もこの日は特別に黙認していた。
校庭でのつまらない宣誓などもそこそこに、今日の球技大会は幕を開けた。二年三組のソフトボールの一試合目は、十時十分からとなっており、それまではやることが無いので、他の競技の応援に行っていた。
バレーボールの応援をしている中、月舘は米村の姿を認めると声をかけに行った。
「米村くん、勝とうね」
「……ああ」
それだけ答えると、米村は月舘から顔を背け、避けるように月舘から距離を取った。
米村は苛立つ気持ちに耐えきれずに、歯ぎしりをした。
米村は、月舘という男がもともと何を考えているのかよくわからないと思っていた。しかし、最近、月舘は本当に考えていることを隠しているだけなのではないか、と考えるようになっていた。
いつの間にか、自分の秘密が漏れている、と気づいたのはつい三日前のことだったか。
二組の友人にからかわれた、普通に、嘘だろと衝撃しかなかった。一体いつから何人にどれくらい知られてしまったのか。うあぁぁああああ。
木村サヤカのことが好きって、なんでばれてるんや。嘘だろ!? 大問題だろ。しかも、何か本人にも聞かれてるのでは、嘘やろぉぉ。酷い。酷いと言えばあまりに酷い。酷いだろう。酷過ぎる。
追い打ちをかけるように、もっと酷いことがあった。
二日前ほど、偶然聞いてしまったのだった。
そのとき、米村は、二年二組の様子をのぞきにいっているところだった。いつもなら、ちょっとした休み時間は月舘と話でもして時間を潰しているところだったが、その月舘がいなかった。月舘は大体自分の席で本を読んでいることが多いので珍しいことだったが、トイレだろう、あいつも人間だしな、と米村は思った。二組の友達に会いにいくのにかこつけて、木村サヤカを拝みにいくことに決めた。
二年二組の教室に入るところで、米村は立ち止まった。
そこで、見てしまったのだ。歓談する二人の姿を! ぐっ、何を楽しそうに話しているんだ!! ギリギリ聞こえない。
「それじゃあ、ソフトボールの試合、三回戦ぜひ来てください」
「わかった、それじゃあ」
二人が別れて、月舘が出てくる。慌てて廊下を通り抜けて、人影に隠れてやりすごした。月舘はそのまま二年三組に戻り、何事も無かったかのように自らの席に座り本を読み始めた――。
全てが繋がった。間違いない。俺を騙していたのだ。そして、俺を油断させて、そのまま木村サヤカを奪い取る算段だったのだ。そうに違いない。俺の秘密なんて初めから守る気はなかったのだ。俺の秘密を漏らして、笑うつもりだったのだろう。
とんだピエロだ、俺は。
クラスで盛り上がっている応援をしり目に、米村は離れて人気のないところを探した。
何も信じられなくなった米村は、しばらくの間一人になりたかった。今日は、どこへ行っても仲良く談笑しているグループが多い。どこに行っても、気が立って仕方がない。
「あ、米村、何してんの? 月舘はどうした」
有宮が、いつもの面子をぞろぞろと引き連れて話しかけてきた。
米村は、その言葉を無視して通り過ぎた。その態度に、なんだあいつ、とグループの男が文句を言った。一方、有宮は、心配そうに米村を見つめるだけだった。
普通に歩いていたら知り合いにも会って面倒なだけだと思った米村は、校舎の裏側に回り込み、鍵のかかっていなさそうな窓を探した。球技大会中は、基本的に校舎は施錠であり、昼休憩を除き、球技大会が終わるまで校舎に入ってはいけない決まりになっていた。
職員室の前の窓の一つが、運よく鍵がかけられていなかったので、周りに誰も見ている者がいないことを確認して米村は素早く開けて身をすべり込ませた。
身をかがませながら廊下を移動しきると、静かに階段を登って二階へと到達した。
「はぁ、ここもダメか」
米村がそう呟いたのは、微かに煙草の香りをかいだからだった。
どうせ球技大会かったるい、などと言いながら、煙草をふかしている輩がいるのだろう。男子トイレの方から匂ってきており、おそらくそこに何人かたむろしているのだろう。
もういっそ屋上へいこう、と思ったとき、品の悪い笑い声が男子トイレから聞こえてきた。
聞き覚えのある声だった。二組の例の、木村サヤカと出来ているのではないかという噂があるヤンキーの声だ。ここまで来て、よりによってイライラさせる声を聞かせやがって、と米村は憤ったが、静かに男子トイレに近寄って耳を澄ませた。
本当に付き合っているのかどうか、話していることを聞いて判別してやろう、というつもりだった。
米村は、しばらくじっと聞き入っていたが、段々と顔は怒りに赤らんだ。そして、その場をそっと離れた。
二年三組のソフトボールの初戦は、一年生が相手であり、そして、難なく倒すことの出来る相手であった。なんといっても相手はまだついこの間まで小学生だった者達であり、負ける相手ではなかった。
何より、月舘が本気を出していた。月舘は必ず毎打席少なくともヒットは飛ばし、ツーベースヒット、スリーベースヒットがざらだった。二年三組のメンバーは当然驚いた。月舘には誰もが一切期待していなかったのだが、今や一番の点取りであり、皆が称賛した。結果、8対1の圧勝であった。米村は、ヒットが二本だった。
月舘は一回戦は九番バッターを務めていたが、その活躍によって二回戦は四番で打つ、という運びになった。
月舘は試合中も何度か米村に話しかけていたが、米村はことごとく無視をした。
二回戦は三年生が相手であった。三年生チームの何人かがソフトボール部ということもあり、ピッチャーは当然そのソフトボール部員のものが務めていた。速いし、上手い。だが、その球が百五十キロを超えることが無い以上、月舘の打てない球ではない。月舘は初球から飛ばす。
その初球は、外野の右翼に飛んでいった。右翼手は送球にもたつき、結果先に塁に出ていた一人と月舘がベースを踏んだ。
月舘が初球から自分の打球で、右翼が穴だ、ということを示した。壮絶な点の取り合いになった接戦の末、なんとか二年三組は勝利をもぎ取った。相手チームの穴が序盤からわかっていたのが、勝利に大きく貢献したのは言うまでも無かった。もしかしたらもしかして優勝を狙えるかもしれないと沸き立つ二年三組のソフトボールチームであり、士気は上がり、三回戦を迎えるのに申し分ないベストな状況であると言えた。
三回戦の相手は、二年二組。
当初の願い通りの展開であったはずだ。米村は、二組のヤンキーに完勝することが目的であった。
沸き立っているメンバーに、米村は提案をした。
「次の試合、俺を四番で使ってくれないか」
皆、難色を示した。月舘以外に四番が務まるはずがない、という気分で皆かたまっていたからだ。
そして、米村の意図は、二組の例の木村サヤカにいいところを見せることにあるのだろう、と皆思っていた。四番でなくてもいいところは見せれるのだからどうして和を乱すようなことをするのだろうと思う者もいた。
ただ一人、米村の意見に賛成する者がいた。月舘だ。どういう意図かわからなかったが、月舘が賛成するのならばと、あとに反対する者はおらず、米村は三回戦の四番になった。
米村には、相変わらず月舘の表情が読めなかった。




