終焉 3
「祐樹? 彼は。イズーは……」
顔を両手で覆い、問い掛ける梨奈に祐樹は寂しげに答える。
「真也の夢が、理想が、今終わったんだ」
梨奈は切なげに祐樹の肩に額をあてる。ガトゥが祐樹達二人に、そして灰になった真也に近づく。
「議長の夢と幻想は今ここについえた。私には彼の過ちを支えた責任がある」
ガトゥは静かに、だが力強く口にする。
「彼の思い出も、思想も、この議長室とともに、封印される。私の存在も消え失せ、歴史の彼方に去りゆく」
ガトゥは寂しげに口にする。その瞳は優しげだ。
「それは、私が議長の共犯者だったのだから、仕方がない」
ガトゥはそう言って祐樹に手を差し伸べる。
「祐樹。ここでお別れだ。短い間だったが、ありがとう」
ガトゥは祐樹と握手を交わすと、一人、議長室の銀白色に染まる奥の扉を開けた。祐樹はガトゥに呼び掛ける。
「ガトゥさん。生きて、生き抜いてください。決して、死なないで」
扉の向こうに消えるガトゥの口元からは微かな笑みが零れていた。祐樹はその意味を朧げに理解していた。祐樹は梨奈の手を強く握り締める。
「梨奈。帰ろう。俺達の時間、俺達の場所。21世紀日本へ」
「うん」
梨奈は頷く。二人は足元を踏みしめて、議長室を後にする。祐樹達はエレベーターと移送装置を経て、ダデュカのいるフロアに戻った。
そこではダデュカが憔悴しきって、腰をおろしていた。警護用のメカは全て破壊され、煙をあげている。
放心していたダデュカは祐樹と梨奈の姿を目にすると立ちあがる。ダデュカの服はあちこちが焼け焦げている。ダデュカは落ち着いた口調で祐樹と梨奈に訊く。
「もう、終わったのか?」
「はい。なにもかも。全て」
祐樹の答えに全てを理解したかのようにダデュカは返答する。
「なら、良かった」
ダデュカは祐樹と梨奈をタワーの出口へと連れていく。祐樹はタワーの出入り口を跨ぐ瞬間、後ろを振り向いた。
そこには沈黙があるだけだった。静寂と、孤独と、寂寥があるだけだった。
祐樹達三人が中枢審議会タワーから出ると、耳をつんざく高い音が鳴り響く。
祐樹が仰ぎ見ると、それはタワーの最上階からの音だった。そこは議長室があった場所だ。
議長室、球形をしたそのフロアは様々な形に変化していく。
棘を出した球体、正多面体、ドーナッツ状のリングなどに。そして最後に議長室は小さな球体の集まりになると一点に集まり消えた。
祐樹の胸にガトゥの最後の微笑みが蘇る。ダデュカは呟く。
「『中枢審議会』の終わりだ」
ダデュカは照りつける陽差しを浴びて、服についた砂埃を払う。
「俺は『アゼテリ』後の政治を見守るつもりだ。『紫紺の羽根団』が権力を持ちすぎないようにコントロールしようとも思っている」
ダデュカは晴れやかな表情を浮かべる。
「二人はどうする? もう、帰るのか?」
祐樹と梨奈は頷く。ダデュカは笑う。
「そうか」
ダデュカは青く澄みきった空を見上げた。するとそこには白い羽根が風に舞っている。
「見ろ。羽根だ。レリュもじき戻る。彼女の時間はどれくらい経ったのだろう。とにかく、久し振りの……、再会だ」
そのダデュカの言葉はレリュと再会出来る喜びで溢れていた。祐樹の掌に羽根が舞い落ちて、色とりどりの色に染まり、最後黄金色に輝く。祐樹は羽根を両掌に強く握り締めた。
「羽根」。祐樹の心にウィルの、オービルの顔が浮かんでは消えた。そしてガトゥと、イズーならぬ真也の顔も。しばらく俯く祐樹の手を梨奈が握る。
「行こう? 祐樹」
「うん。梨奈」
ダデュカは口元にうっすらと笑みを浮かべている。
「じゃあ。祐樹。元気で。梨奈も」
祐樹と梨奈は口を揃える。
「ダデュカさんも。ありがとう」
祐樹と梨奈は握り締めた両手に力を込める。するとダデュカの姿が薄れていく。二人は小さな声でダデュカに、そして未来都市に別れを告げる。
「さようなら」
そして次の瞬間、二人を取り巻く風が大きく「振れた」。




