ガトゥ・バラディンという男 1
半透明の薄い膜、プロテクトの一つが、祐樹達の体重を受けて大きく窪む。光が迸り、祐樹達は体が熱を帯びるような強い痛みを感じた。
その時、レリュの天使の羽根のタトゥーから翼が大きく広がっていく。翼は祐樹とダデュカを包み込む。レリュは広げた翼で、プロテクトを麻痺させようとしていた。
レリュは痛みに耐えながらプロテクトを突破しようとする。彼女の「翼」とプロテクトのエネルギーが緩和しあう。
「つっ!」
レリュがそう声をあげるとプロテクトの一部が引き裂かれる。ダデュカは躊躇わずに、引き裂かれたプロテクトの間から、イズーの待つタワーのフロアに飛び込む。祐樹が迷っているとレリュが叫ぶ。
「祐樹! 早く!」
祐樹が振り返り、目にしたレリュの顔は優しげだった。祐樹は覚悟を決めてフロアに飛び込む。祐樹がフロアに転がり落ちると同時に、プロテクトは、レリュを包むように飲み込むと消えて行った。
あとには澄み切った静寂だけが残った。呆然としている祐樹の両脇をダデュカは無言で抱えあげる。祐樹は呟く。
「ダデュカさん。レリュさんは……?」
ダデュカは感情を完璧にコントロールしていた。あらゆるシチュエーションに彼は対応出来るのだろう。
「レリュは、大丈夫だ。心身ともに強い衝撃を受けて、特定出来ない場所に移動させられたはずだ」
ダデュカは続けざま祐樹を奮い立たせる。
「但し彼女は特殊な訓練を受けている。必ず回復して自分のあるべき場所に戻るだろう」
足早に歩きだすダデュカの目は彼女を思いやる優しさで溢れていた。




