イズー・マドクルウァ 1
祐樹達が、アルカノから逃れてタイムワープをした場所。それは地下鉄の中だった。ライトに照らされて車両は走っている。車内に人影はなく、ダデュカは咄嗟の判断でも最適な場所を選んだようだった。
ダデュカ、レリュ、祐樹の三人は膝をつき、ポールに寄り掛かると呼吸を整える。ダデュカはたった今起こった出来事、耳にした事実の全てに答えを見出そうとしていた。ダデュカは祐樹に訊く。
「祐樹、アルカノは……一体?」
レリュはレーザー・ガンを取り出し、メンテナンスを始める。彼女は来るべき最後の闘いに備えているようだった。
祐樹は渇いた喉元に手をあてて、車両の天井を仰ぎ見る。それは全ての謎解きの始まりだった。
「彼は……、俺と同じ21世紀の人間です。名前は、橋崎真也。俺の同級生です」
走り抜ける車両の窓に、セピア色の灯が伸びていく。ダデュカは自分の推理を進めているようだった。彼は何度か瞬きをしている。祐樹は全てをダデュカとレリュに伝える。祐樹の息は乱れていた。
「まず真也は俺よりいち早くタイムワープの能力を身につけていた。おかしな言動が目立ち始めたのもその時期です」
地下鉄は夜闇の線路を駆け抜けて行く。祐樹は続ける。
「多分、タイムワープを繰り返すうちに、真也の何かが狂ってしまったんでしょう」
レリュはレーザー・ガンの手入れをしながら、祐樹の話に聴き入っている。真相がどうであれ、レリュは自分の役目を自覚しているようだった。
ダデュカはシャツの襟元をほどき、息を吐き出す。その間も地下鉄は音もなく速度を上げて行く。祐樹は口にする。
「真也は『歴史の終わり』と言った。真也は人類最後の文明を見たのでしょう。結果、独自の思想を持ってしまった」
祐樹は両腕を軽く振り下ろす。
「真也は21世紀日本で俺と別れる時、『地の果てにまで君臨する』とも言った」
ダデュカは目を見開いて聴いている。祐樹はダデュカとレリュの二人を見据える。
「真也はその言葉を現実にするために動いてきたはずです。二十年を超える長い年月をかけて。科学者……、アルカノ・デレトゥに姿を変えて」
ダデュカはにわかには信じられない様子だった。ダデュカは、一人の人間がそれほどの長い期間、歴史に干渉出来るとは信じられなかったのだ。
「彼は、アルカノは、いや、橋崎真也という男はどんな手段を使ったんだ」
ダデュカは訝しげに続ける。
「タイムワープの痕跡を無くし、未来社会に一市民として潜伏する。一つや二つの書類操作だけでは不可能なはずだ」
祐樹はそれに言葉を返す。
「真也は、多分俺達には想像さえ出来ない方法で障害を取り除いたんでしょう」
レリュは橋崎真也が、アルカノ・デレトゥが「何を起こしたのか」を、そして「誰なのか」を、ダデュカよりも先に理解したようだった。
レリュの推理は素晴らしかった。彼女はレーザー・ガンを懐に仕舞う。
「さぁ、それじゃあ私達の目的地は一つね。行きましょう。全てを終わらせるために」
ダデュカはレリュに訊く。
「行く? ……どこへ」
祐樹は頷く。
「俺達のターゲットは一つです。俺達が狙うべきは、中枢審議会議長。イズー・マドクルウァただ一人」
ダデュカは目を見開いて訊く。
「祐樹。イズーは……」
ダデュカは口元を覆い、深く俯くとようやく全てを理解したようだった。それを確かめた祐樹は、レリュに歩み寄ると一つこう頼みごとをした。




