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橋崎真也 2

「俺は遥か未来、地球が終わりに近づく世界を見た。それは虚無そのものだった。これは俺にとって興奮だ。んっ……そうだ」

 真也の話は途切れがちになる。彼は手に入れた知識を纏めきれていない。そんな印象だった。真也は上気して叫ぶ。

「人間の存在意義など何もない世界! そんな世界に何の意味がある? だから俺が意味を与えてやるんだよ。ん……。うう」

 真也は混乱している。何度もつっかえるように話し出す。

「うっ。だから……、俺が世界を支配し、人間が生きる意味を、人々に与えてやるんだ! それこそが、俺の使命だ!」

 祐樹は真也の心が狂い始めているのを感じた。そして同時に一つの推理が祐樹の心に浮かぶ。

 「遥か未来」。真也は今確かにそう言った。そうすると真也もタイムワープの能力を手に入れたと言えるかもしれない。祐樹は真也に尋ねる。

「橋崎真也、お前は一体何をするつもりだ」

 真也は右手を振りかざし、祐樹を跳ねつける。

「答える必要はない。それに、その名前は今日を最後に消えてなくなる」

 真矢の瞳は執念めいている。

「俺は新しい生命体へと進化するんだ。全てを超越し、俺は地の果てにまで君臨する」

 そして真也は祐樹を払いのけるように言ってのける。

「祐樹、お前と無駄なお喋りをしている暇はない。俺の旅の道標はこのトランクと小さなコンピューターチップだけだ」

 真也は左指にコンピューターチップを掲げて見せた。真也の左手の甲にはどこで傷をつけたのか、深い傷跡が残っていた。

 祐樹は真也にもう一度呼び掛ける。

「真也」

 真也は応える。

「これでお前のイヤな顔も見なくてすむ。お別れだ。今の俺にとって21世紀日本の時間なんて無価値なものだ。もう、お前と話すことも、ないだろう」

 次の瞬間、激しい光が迸り風が「振れた」。そして真也の姿は跡形もなく消えていた。祐樹は言葉を無くす。

「真也……」

 祐樹は茫然とした。真也はやはりタイムワープをしたのだろうか? 祐樹は戸惑う。「最高の記念日」。真也はそう言った。そして不意に祐樹はイズーの言葉を思い出してもいた。

「私の生涯を決める判断を下した日にも、お前は現れた」

 朧げだがパズルのピースが祐樹の胸の内で繋がろうとしていた。やがて祐樹は一つの推察をする。真也は……。イズーは……。

 そう閃きかけた瞬間、祐樹の口を塞いで強引に体をねじ伏せる男が現れた。祐樹はすぐに男の顔を見た。その男は「紫紺の羽根団」のダデュカだった。

 祐樹が息つく暇もなく、ダデュカは祐樹を連れてタイムワープをする。大きく風が「振れる」。

 次の瞬間には、祐樹は薄い膜で覆われた、透明なフロアに運ばれていた。


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