ガトゥ登場 2
「兄さん、俺達の発明は軍事に使われるだろう。早めに政府に伝えた方がいい」
ウィルは深く考えこんでいる様子だ。
「その点について俺は慎重だ。僕たちの発明は出来るならば、平和利用した方がいい」
「平和利用? 兄さん、現実を見るんだ。イギリスもフランスもこの技術を戦争に使うのは目に見えているぞ」
梨奈はウィルとオービルのやり取りを耳にして呟く。
「緊迫してる。空を飛べば終わりじゃないのね」
祐樹は頷く。
「うん。確かに飛行技術は軍事にも使われてしまうんだ」
「何だか胸が、痛い」
そう切なげに胸に手をあてる梨奈を、祐樹は止める。
「梨奈。待って。聴こえる。ウィルが大きな声を挙げてる」
ウィルの声が響く。
「オービル、もっと大きな視野を持て! でないと僕達は近代戦争の先駆けになってしまうぞ」
祐樹は悲しげに俯く。憧れのライト兄弟にもこんな諍いがあったのだと。祐樹と梨奈が口をつぐんでいると、突然、ライト兄弟の部屋で、窓ガラスが割れる音が鳴り響く。梨奈が祐樹の肩に触れる。
「何? 何が起こったの?」
「何だろう!」
祐樹は無意識的に部屋を飛び出した。梨奈も祐樹の後を追う。祐樹はウィルとオービルの部屋に見知らぬ誰かが、不意に訪れたのだと閃いていた。
祐樹と梨奈はライト兄弟の寝室のドアをこじ開ける。二人が見ると部屋ではカーテンが靡き、激しい風が吹いている。窓際には紫のアイシャドウの女が立っている。女はウィルとオービルに告げる。
「そう。飛行技術はお前たち二人の兄弟だけでは持て余すのよ。歴史は変えなければならない。それが平和への一番の近道」
女は短銃を構えるとウィルとオービルに標準を合わせる。ウィルとオービルは余りの突然の出来事に戸惑っている。
「ウィルさん! オービルさん!」
大声をあげた祐樹と、梨奈が部屋に駆け込むと同時に、次の瞬間、もう一人の人物。黒い紳士服を纏った男が女に襲いかかった。
二人は掴みあい、倒れ込む。女は叫ぶ。
「時間の管理など自己満足だ! 人類全体の利益を考えろ!」
女におおいかぶさった男は、懐から短刀を取り出すと彼女に突き立てる。するとそれに交錯するように女は、瞬時に消えた。
部屋には動揺するライト兄弟と、祐樹、梨奈。そして紳士服の男だけが取り残された。