橋崎真也 1
祐樹は駆け足で体育館の角を曲がると走り抜ける。すると祐樹の足を絡め取り、それはまたやってきた。そして風が「振れた」。
次の場所は祐樹には見覚えのある住宅街の通りだった。祐樹はふらふらとおぼつかない足取りで歩き出す。祐樹はこの場所をしっかりと覚えていた。
そこは何度か足を運んだことのある場所だ。そこは祐樹のクラスメート。失踪した橋崎真也の家の前だった。
橋崎真也。祐樹と梨奈がタイムワープする数週間前に行方不明になり、梨奈に好意を寄せていた子だ。
祐樹の頭の中で少しずつパズルのピースが当てはまりだす。祐樹は言葉もなく、その場所に立ち尽くしていた。
すると橋崎真也、その当の本人がトランクを片手に、家の扉を開けて出てきた。彼は失踪後だろうか。それとも失踪前だろうか。
祐樹は混乱した。トランクに荷物を入れているところから見ると、多分失踪直前だろうか。祐樹は思うより早く真也に話し掛けていた。
「真也、どこへ行く? そんな大荷物抱えて」
真也の目の周りは黒ずんでいる。
「祐樹、何だ。お前には関係ない。俺に関わるな」
祐樹は問い質す。
「何言ってる。真也。……今日は何月何日だ」
真也は反発する。
「俺はお前のカレンダーじゃない。」
「教えてくれ。今日は何月! 何日だ!」
祐樹の叫びにも似た問い掛けを前にして、真也は疎ましげに日付を教える。その口振り、顔つきは少し異様だった。
「今日は、六月十七日。俺にとって最高の記念日だ」
祐樹は記憶を辿った。そう、この日は真也が失踪したその日だった。祐樹は懸命に真也を止める。
「真也、行くな。お前はこれから失踪する。騒ぎが起こるぞ」
真也は動じる気配がない。祐樹は念を押す。
「学校も、両親も、クラスメートも、お前を探すことになる!」
祐樹の言葉を最後まで聴いて真也の表情が変わる。
「どこまで……、知ってる。また、俺を邪魔するつもりか。祐樹!」
その表情は神経を病んでいるようにも見えた。やはり……真也には何かある。これはただの失踪事件ではない。祐樹はカマを掛けてみる。
「俺はお前の計画を止めるつもりなんてない。ただ理由だけでも教えてくれないか」
真也は祐樹の話を聞いて考えている。気持ちを整理しているようだった。真也は確かめるように話し始める。




