表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/86

覚醒 3

 祐樹が次に移動した場所は、祐樹の通う学校の体育館裏だった。時間は……いつだろう。そう祐樹が推し測っていると、煙の匂い。どこからか煙の匂いがする。

 煙草だ。誰かが煙草を吹かしている。祐樹は頭を二、三度振ると、その「誰か」を見た。

 その人物は、祐樹がタイムワープの能力を開花させるきっかけを作った金木だった。校内一の不良の金木。金木は焦げ色の体育館の壁に寄り掛かり、煙草を吸っていた。

 ニコチンとタールが彼を心地よくさせている。金木は祐樹が突然、目の前に現れても気が付かないほど煙草に溺れていた。

 祐樹が震える膝で立ち上がろうとすると、金木は祐樹にようやく気がついたようだった。金木の視線は冷たく、淀んでいた。彼は携帯灰皿に煙草の吸殻を仕舞うと祐樹に話し掛ける。

「お前、何してる」

 金木の声には起伏がなく、威嚇するようだ。

「いきなり消えたと思えば現れる。お前は一体何をやってる」

 祐樹は頭がフラフラでこう尋ねるのがやっとだった。

「今日は……、何月何日だ? あれから何日経った?」

 金木は怪訝な顔をした。それでいて金木の威圧的な目の動きは変わらない。

「何を言ってる。今朝会ったばかりだろう。お母さんに今日の日付を教えてもらわなかったのか?」

 その瞬間、祐樹の体に稲妻のようなものが駆け巡る。

「戻ってきたんだ。元の場所に! やっと!」

 金木は興奮する祐樹を尻目に手首を揉みほぐし始める。金木は明らかに不愉快そうだ。大きな歩幅で祐樹に近づくと問い咎める。

「どうしてこの場所に来た。俺が煙草を吸うのは知ってるだろう。教師達に告げ口するためにでもやって来たのか」

 祐樹は頭を整理して、これから何をしたらいいかを考えた。だから金木の質問も聞き流してしまった。

「違うよ。そんなんじゃない」

 この返事は金木を苛立たせるに充分だった。金木の顔が険しくなり、視線が鋭くなっていく。金木は祐樹に歩み寄り、素早く祐樹の右腕を捻りあげる。

「相手を見て話をしてくれないか。俺は小馬鹿にされるのが嫌いでね」

 祐樹の右腕は今にも千切れそうだった。痛みの余り叫ぼうとしたその時、祐樹の衝動が祐樹の体を駆け抜ける。

 梨奈を助けたい気持ちが、過去を辿ったこれまでの旅路が、祐樹の胸の奥に燻る「野性味」を奮い起こす。

 祐樹は右手を強く握り締めると、思い切り金木の腹部を殴りつけた。

 金木は……、ピクリともしなかった。祐樹のボディブローは金木の分厚い腹筋に見事に防がれた。

 もう祐樹は金木に打ちのめされるのを覚悟した。だがその次の瞬間だった。金木は手の力を緩め、祐樹の腕を解いた。金木は感心している。

「お前、何か変わったな。何か……、変わった。力とか運動神経とかそんなものじゃない。何かが変わった。今のお前は、俺の知ってるクズじゃない。お前は『今』を生きてる」

 金木は少し満足したように笑みを浮かべると祐樹に促す。

「行け」

 祐樹は訊き返す。

「えっ?」

 金木は煩わしげに繰り返す。

「行けよ。何か急用があるんだろ」

「んっ、そうだ。ありがとう」

 祐樹は金木の心変わりに少し戸惑いながらも、そう返事をして体育館裏を後にした。祐樹が振り返ると、金木はもう一度夢見心地で煙草を吹かし始めている。

 駆けだした祐樹はまたすぐに次のタイムワープが起こるのを予感していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ