覚醒 1
祐樹は覚醒した能力をすぐにはコントロール出来なかった。祐樹のタイムワープの能力は暴れまわり、祐樹の思い通りにはならなかったのだ。
祐樹の意識と体は幾つもの時間と場所を飛び越え、彼自身の記憶に強く印象づけられている時代に祐樹を飛び石のように運んでいった。
それは歴史に残る事件の現場だった。まず最初の場所。熱狂した人々が大声をあげて大使館になだれ込んでいく。
膝を落とし、混乱した祐樹は人の波に飲み込まれ、慌てて立ち上がる。
祐樹は周りを見渡し、記憶を辿る。この光景、いつか祐樹は映像講習で見たことがあった。
祐樹には明確に分からなかったが、ここはサイゴン、ベトナムのサイゴンだった。祐樹は1975年、「サイゴン陥落」の瞬間にタイムワープしたのだ。
人々は歓喜してサイゴンの街並みを歩いていく。祐樹はパニックに陥った気持ちを落ち着けようとした。
だが無軌道に暴れ回るタイムワープの能力がそれを許してくれなかった。祐樹はまたすぐにタイムワープをした。次の時間と場所は……、どこだろう。祐樹は呟く。
「ここは……、どこだ」
人々が抱き合い、喜びを分かち合っている。彼らは長い壁によじ登り、喜びの声を挙げている。
祐樹はこの光景にも、どことなく見覚えがあった。これもTVか何かで見た記憶があったのだ。
ここは、ベルリン。1989年、ベルリンの壁が崩壊した時代に祐樹はタイムワープしたのだ。
映像講習やTVで見た場所。それが祐樹の記憶に強く残っていたのだろう。その強烈なイメージが祐樹をこの時代に誘い込んだのだろうか。
だがベルリンの壁崩壊の歓喜の声は瞬く間にかき消され、祐樹のタイムワープがまたも起こる。
次の時代、轟音と泣き叫ぶ声。人々はパニックに陥り逃げ回っている。砂煙で視界はさえぎられ、祐樹は息をするのでさえ苦しかった。
祐樹の意識は朦朧として立っているのがやっとだ。
祐樹の遠方で高層ビルがたちまちの内に崩れていく。追い打ちを掛けるようにジェット機がビルに追突する。
祐樹はわけが分からなかった。静寂。徐々に祐樹の意識は鮮明になっていく。
ここは、アメリカだ。2001年、ニューヨーク。9・11同時多発テロの現場。グラウンド・ゼロに祐樹はタイムワープしていたのだ。
祐樹は崩れ落ちるビルを言葉もなく見つめていた。この大事件を前にして祐樹は自分の非力さを痛感するしかなかった。するとすかさずもう一度タイムワープが祐樹の身に起こった。
次の場所は……。そこはこれまでと違ってのどかな風景が広がっていた。それは憔悴しきった祐樹を安心させるに充分だった。
そこは田舎道で牧歌的な風景が広がっていた。




