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ガトゥの説得 2

「梨奈嬢、あなたは未来社会へ留まるのを望みますか。それとも21世紀日本へ戻るのを望みますか」

 梨奈の声には起伏がなく、感情がない。梨奈は応える。

「私は……、私は、イズー。イズー・マドクルウァと未来に留まるのを望みます」

 瞬時、ガトゥの表情が強張った。ガトゥはイズーの取った手段に嫌悪を感じたようだった。そしてそれは、イズーへ疑念を抱く祐樹も同じだった。ガトゥは両手を大きく広げて議長に問う。

「議長、これは何の冗談です? 彼女が催眠状態にあるのは一目瞭然だ。彼女は自我を失っている」

 ガトゥの声質が変わる。

「私はこんな小手先のトリックで欺かれるような人間ではありません。……いち早く彼女の脳機能を回復させ、本心を聞きましょう」

 イズーの口調が徐々に威圧的になる。イズーは冷静さを失っている。

「ガトゥ。私はお前を欺くつもりも、騙すつもりもない。未来へ留まる。それが彼女の意志だ」

 ガトゥとイズー。二人の会話が緊迫するにつれて、祐樹の心に現実への嫌悪感が芽生えた。祐樹のこめかみに痛みが走り出す。祐樹に、いや祐樹の潜在能力に何らかの変化が起きているのは間違いない。

 祐樹は頭が痛みふらついた。ガトゥは厳しい口調でイズーに語り掛ける。

「高橋梨奈が未来に留まれば、彼女の心へ大きな負担を及ぼします。それ以前に我々のルールに反する行為でしょう」

 ガトゥは批判めいた口振りで指摘する。

「何より相模祐樹、高橋梨奈両二名がタイムパラドックスを生じさせる存在になりかねません。それは存分に我々へ協力してくれた二人への裏切りとなります」

 今のイズーには中枢審議会のルールなど眼中にない。イズーは梨奈へ盲目的に拘っていた。イズーは事もなげに言う。

「相模祐樹。彼一人など排除してしまえば済むことだ。元来歴史に存在しなかった人間として抹殺すれば問題は解決する」

 「排除」。その痛烈な言葉に祐樹の胸は切り裂かれた。祐樹は怒りと、梨奈を助けたい気持ちで一杯になった。

 激しい目眩が祐樹を揺さぶり、祐樹は頭を抱えてうずくまる。

 幻覚と妄想が交互に祐樹の意識に押し寄せ、祐樹は感情をコントロール出来なくなっていった。

 祐樹の耳からガトゥとイズーの会話が遠く離れていく。祐樹は目頭を抑え、大声で叫ぶ。

 すると祐樹の瞳の奥で激しい光が明滅する。今すぐ梨奈を助け出したい。祐樹はそう心の底から願った。

 その瞬間、祐樹の心の「何か」が壊れた。次の瞬間、祐樹の意識と体は割れるようになり、風が激しく「振れた」。

 それは祐樹のタイムワープの能力がついに覚醒した瞬間だった。


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