祐樹達の処遇 3
それから長い沈黙の時間が過ぎ行き、やがて祐樹達は気づく。朝が訪れようとしていることに。
壁に寄りかかり眠っていた祐樹、ウィル、オービルの三人を、ガトゥの毅然とした声が起こす。ガトゥの澄んだ声が響き渡り、昨晩の体験を少しだけ緩和してくれる。
「ウィルさん、オービルさん。起きて下さい。あなた方の安全が保障される歴史が動き出しました。環境は整い、あなた方は速やかに穏やかな日常に戻れるでしょう」
ウィルはすぐに目を覚まし、ガトゥの話を理解する。だがオービルは寝起きが悪いらしく、握り拳を開いたり、閉じたりしている。
ウィルはガトゥの、アゼテリの意図を素早く把握する。
「元々、あなた方は歴史を守るのが目的。最初から僕たちに利用価値などなかったというわけか」
ガトゥは少し不本意そうに首を横に振る。
「それは少し語弊があります。あなた方を不快にさせたのならば謝ります。ただ無闇にお二人を翻弄するつもりではなかったのをご理解いただききたい」
オービルが鋭い目つきでガトゥを見据える。
「で、俺達は帰れるというわけだ。悲痛な未来の面影を手土産にして。」
ガトゥは濁りのない顔で頷く。オービルはトゲのある声で問い質す。
「俺とウィル。俺達兄弟はいい。問題は祐樹だ。こんな少年を巻き込んでどうする?」
ガトゥは澄ました顔で聴いている。オービルは首の凝りを何度かほぐす。
「それに加えてあの男、イズーとやらは梨奈に、どうも偏った愛情を抱いている様子だ。どういうつもりだ」
そしてオービルは立て続けにガトゥに訊く。
「あんた達は祐樹を拘束し続けるのか? そしてアゼテリの方針を無視してまで、梨奈一人を未来社会に住まわせるつもりか?」
ガトゥはしばらく考えている。イズーの振る舞いはガトゥにとっても予想外だったらしい。
「私に説得のアイデアがあります。議長は私欲にこだわる方ではありません」
ガトゥは自信あり気に右掌を広げる。
「ルールを犯す行為は早々と差し控えるはずです。ご安心を。相模祐樹、高橋梨奈。両二名を21世紀日本へ、無事帰還させるのをお約束しましょう」
オービルはガトゥの取り澄ました対応に不服げだ。
「ならいいが」
ガトゥはオービルの感情の起伏にまるで無関心な様子だった。ガトゥはライト兄弟に近づき、タイムワープの準備を始める。
ウィルとオービルはガトゥに一言断ると、祐樹に歩み寄り代わる代わる握手を求めた。ウィルは口にする。
「祐樹。これでしばらくのお別れだ。また、いつ、どこで、どんな状況で再会出来るか、再会出来るのかも分からないが、また会えるのを楽しみにしているよ」
オービルが悪戯っぽく笑う。
「梨奈とくれぐれも仲良くしろよ。大事に、大切にしてやれ」
ウィルとオービルがガトゥの体に触れる。ガトゥ自身もウィルとオービルの腕をしっかりと握った。そして、風が激しく「振れた」。
三人の姿は瞬く間に消え、彼らはタイムワープをした。後には淡い感傷だけが残った。
祐樹が少し俯いてその余韻に浸っていると、ものの数秒もしないうちにガトゥが戻ってきた。彼の顔つきは晴れやかで確信に満ちている。
「さぁ祐樹、梨奈を連れて帰ろう。議長には考えを改めてもらう」
ガトゥは自信に満ちている。
「模範であるべき人間がルールを破るわけにはいかないのだから。モニターで見ていてくれ。問題は速やかに解決されるだろう」
ガトゥの言葉を聞いて、祐樹の顔はみるみるうちに晴れやかになって行く。その祐樹の表情を確かめて、ガトゥはイズーのフロアにタイムワープをした。




