祐樹達の処遇 2
モニターは祐樹にとって、最早梨奈との唯一の接点になってしまった。祐樹は梨奈が気になって仕方がなかった。多分ガトゥが送ってくれるであろう映像を祐樹は待ち侘びていた。
長い沈黙の後、モニターに微かだが映像が映し出された。イズーと梨奈の話し声も僅かに聴こえる。
祐樹は身を乗り出してモニターを覗き込む。オービルも反射的に祐樹に近づこうとしたが、ウィルが彼を止めた。ウィルはこれが祐樹のプライベートな問題だと判断したのだろう。
モニターにはソファに腰掛ける梨奈の後ろ姿が映し出されている。イズーの声は聞こえるが、どこにいるのか映像からは分からない。祐樹は二人の会話に耳をそばだてる。
イズー。彼は一体誰なのか。彼は祐樹だけでなく梨奈も知っていた。イズーは祐樹達とどんな繋がりがあるのか。祐樹はそれを見極めようとしていた。
梨奈は毅然としてイズーと向かい合っている。怯えた様子は一切ない。梨奈はリラックスしていて落ち着いていた。梨奈は生まれ持った芯の強さを見せている。梨奈は大らかに構えていた。梨奈はイズーに尋ねる。
「イズー、あなたは一体誰? 私達のことを、私と祐樹の事を特別に知っているの? それとも私達がキーパーソンになったから調べただけ?」
イズーの穏やかな声が響く。
「いいや」
「そうよね。だってあなたは私と再会出来たと言ったんだもの。だからあなたは前から私を知っている。違う?」
そして梨奈は推し量る。
「あなたは私と祐樹にとっての現代、21世紀日本で私達と会っている。そうよね? あなたは誰? アゼテリが知識を秘密にするようにあなたも何もかも秘密にするつもり?」
イズーは感慨深げに口にする。
「相変わらず……相変わらずだ。幾歳月を経ても変わらない。君は物怖じしない。賢くて、美しい」
梨奈は行儀よく返事をする。
「ありがとう。イズー。あなたは私に心を開かないの?あなたは私を『知っていた』んでしょう?」
イズーは慎重に言葉を選ぶ。全てを明らかにするつもりはなさそうだった。
「そうだ。私は君を『知っていた』。君は少年時代から私の憧れだった。私は君に恋をしていた」
梨奈の瞳は悲しげだ。
「恋を……」
イズーは告白する。
「君は私の希望だった。君と再会出来たのは正に神の恩寵だ。私と君は、人生の終わりで巡り逢うべく、約束されていたんだ。そう信じたくもなる」
梨奈は物憂げな声を出す。彼女の声の抑揚には深い悲しみがあった
「あなたは……一体誰なの? どこから来て、今、どこに心があるの? 教えて」
イズーは答えるのを拒む。
「今答える必要はない。いずれ明らかになるだろうから」
イズーは頑なだった。それは彼の弱さの一つを露呈しているようでもあった。
「私は、君がこの未来社会に留まるように勧めるつもりだ。紫紺の羽根団から君を守る意味合いもある。君がよく考えて、最善の選択をするのを期待している」
イズーは最後、語気に力を込める。
「君は私の傍にいるべきだ」
梨奈は動揺する素振りさえ見せない。
「あなたは、孤独なのね」
イズーはそれを否定も肯定もしない。
「崇高な使命のためだ」
梨奈は、深くイズーを憐れむ。
「可哀相な……人」
梨奈のその憐れみの言葉を最後に、映像は途絶えた。祐樹は掌大のモニターを強く抱きしめると顔を膝にうずめた。祐樹は梨奈を助けられない無力感に打ちひしがれていた。
ウィルもオービルも祐樹の気持ちを察してそっとしておいてくれた。




