ガトゥ登場 1
ウィルとオービルは飛行機を収納し終えると、祐樹と梨奈の二人をテート夫妻宅へ連れていってくれた。
テート夫妻は陽気な人達で、祐樹達を喜んで出迎える。夫妻は寝室も祐樹達に貸してくれるという。夫妻は気さくで夕食もしっかりと祐樹達に持て成してくれた。
夕食が終わり、寝室に入った祐樹達は、早速相談を始めた。自分達の身に何が起こったのか、今後どうするのか整理しなければならなかった。梨奈はベッドに体を投げ出す。
「結局、何が起こったんだろう? 祐樹、あなたは一体何をしたの? ここはどう見ても過去。場所はアメリカだよ」
祐樹はしばらく考える。一体どうやって自分達はタイムワープをしたのか。それは祐樹の力なのか。梨奈の力なのか。祐樹には全く分からなかった。祐樹は素朴にいきさつを説明する。
「金木が俺に殴りかかってきて、梨奈が俺を庇ってくれた時。何か不思議な『風』が吹くのを俺は感じた」
梨奈はしっかりと耳を傾けている。祐樹は口元に手をあてる。
「そして気づいたら『ここ』にいた。もしこれが俺のせいだとしたら、梨奈も一緒に運ばれたのは、梨奈が俺の服に触れていたせいじゃないかな?」
梨奈は両手を広げて、話を整理しようとする。
「祐樹はその力を自由に出来ないの?」
祐樹にはそれは自明の理だった。祐樹は左手を軽く挙げて、足をブラブラとさせるだけだった。
「多分自由には出来ないよ。自分でも何が起こったのか分からないんだ。それに俺の力なのか。梨奈の力なのかも分からないし」
梨奈はベッドに仰向けになり、天井を仰ぎ見る。
「これはきっと祐樹の力だと思う」
祐樹は口をつぐんで聴いている。
「だって行き先が20世紀初頭のアメリカ。ライト兄弟の飛行実験の場所だったんだもの」
祐樹は唇に人差し指をあてて考え込む。梨奈は半ば呆れた様子で要点を突く。
「二人の身に危険が迫った時、あなたが逃げ場所に選んだのが、世界で一番あなたの落ち着く場所、時間だった。そういうことじゃないかな」
「それはキティホーク。ノースキャロライナの?」
祐樹は言葉を引き継いだ。梨奈は舌を少し出すと、腕を組んで考える。
「何か方法はないかしら。この時間、場所から抜け出すための」
祐樹は考えてみてもアイデアは浮かばない。何より自分の能力を自在に操れないと分かっていたからだ。
「何も思い浮かばないよ」
祐樹が困ったように眉をしかめると、梨奈はぺこりと頭を下げる。
「それはそうよね。ゴメンね。色々畳みかけちゃって」
「いいや」
そう祐樹が答えると、梨奈は不意に勢い良く体を起こした。そして壁に耳をあてる。祐樹も身を乗り出す。
「どうした?」
梨奈は壁に耳をあてたまま、左手で祐樹を制する。
「静かにして。彼らが、ライト兄弟が言い争いをしてる」
「本当?」
祐樹と梨奈は壁越しに耳を澄ます。確かに二人の激しい言葉のやりとりが聞こえる。祐樹と梨奈は息をひそめる。オービルが強い口調でウィルを説得している声が、祐樹と梨奈に響いてくる。