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謎解き 2

「最終戦争、それは永遠の平和が訪れたと思える時代に起こった」

 「議長」は指を組み合わせる。

「人類は緩やかな共同体を形作っていた」

 議長の語り口は物憂げだ。

「……始めは些細なきっかけだった。科学者の一グループから一人の科学者が除外された」

 議長は人類の歴史を懐かしむように語る。

「原因はその男の書いた論文にあった。それは『統合理論』と呼ばれるものだった」

 「統合理論」。祐樹達の聞き慣れない言葉を議長はやさしく繙く。

「『統合理論』。それは宇宙の謎を解き明かすと呼ばれていた代物だ」

 そして議長は事の成り行きを指し示していく。

「追放されたその男は、ネットワークを使って自分の論文を公表した」

 議長は物憂い表情で振り返る。

「それが人類を二つに分ける戦争を起こすとは予想さえせずに。悪意のカケラさえなく」

 ガトゥは口元に指先をあてがい、厳しい表情を浮かべている。議長は悲しげだ。人々の対応が後手に回ったのを嘆いているようだった。

「科学者のグループはその男の口封じをしなかったのを後悔した。その男の論文が、人類の宇宙観を覆してしまうのを軽視していたのだ」

 オービルが不服げに議長に詰問する。

「まさかその『統合理論』とやらのせいで戦争が起こったとでも言うのか?」

 議長は厳かな表情を浮かべる。彼のバックホーンには人類の味わった屈辱があった。

「そうだ。彼の論文にあったたった一つの記述。それがこれまでの論文とほんの僅かだけ違いがあった。それが最終戦争を決定付けた原因だ」

 ウィルとオービルは激しく反発する。

「バカげてる!」

 議長はウィルとオービルの抗議に、耳も傾けずに話を続ける。

「科学はその時代の民衆にとってただ一つの拠り所だった。彼らにとって科学は人類に『意味』を与えるものだったのだ」

 ウィルは想像さえ出来ない未来像を前にして言葉を失う。オービルは怒りを露わにしている。議長は語る。

「『人類に意味がある』。皆がそう信じていた。だが男の論文が示した事実は違った。『人類には意味などない』というものだった」

 オービルは苛立たしさを隠せずにいる。

「人類に意味があるかないか? そんなことはどうでもいい! ひょっとしてそんな……そんな下らない理由で戦争やっちまったっていうのか」

 議長はゆったりと祐樹達を諭す。

「君達に想像出来るだろうか。拠り所としていたたった一つの指標が失われた時の失望を、落胆を!」

 ウィルは息を飲む。議長は両手を広げる。

「人類は瞬く間にパニックに陥り、二つの勢力が作られた。一つは『人類に意味がある』という考えにこだわったグループと、もう一つはその逆だ」

 オービルは悔しそうに舌打ちする。

「『人類に意味などない』とするグループか」

 ウィルはシリアスな顔で議長の話を聴いていた。梨奈は震える手で祐樹の手を静かに握ってきた。議長は戦争の行き先を告げていく。


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