謎解き 1
見ると急激なタイムワープのせいでウィルとオービルはうずくまっている。祐樹と梨奈は二人に駆け寄り、気遣う。
少し距離を置いた場所にいるガトゥは冷静だった。ウィルとオービルの混乱を鎮めるように彼は皆に語り掛ける。
「この場所には紫紺の羽根団は足を踏みいれることさえ出来ない」
ガトゥは静かな口調だ。その言葉の裏には確かな自信があった。
「ここは特殊な防護膜で覆われていてね。外敵の侵入を阻む。安心していい。騒動が鎮まるまで保護させてもらうよ」
祐樹達を保護してくれたガトゥ。だがオービルはガトゥに敵愾心を剥き出しにする。
「確か、ガトゥ……。ガトゥ・パラディンとか言ったな。覚えているぞ。とある国家の諜報機関員を名乗った男だ」
オービルは次々と降りかかる厄介を払いのけるように両手を一度大きくあげると、ガトゥに噛みつく。
「状況から見てお前も現代の人間じゃないな。ここまで来たらもう全てを明かして貰うぞ」
ガトゥは期が熟したと感じたのだろう。もう身元を隠す必要も感じていないようだった。
「私はアゼテリの『時空警護局』という機関に所属している」
「『時空警護局』?」
ウィルもオービルも口を揃えて尋ねる。
「そうだ。時空警護局は、紫紺の羽根団のような組織が、歴史を変えるのを防ぐためにある」
そしてガトゥは話を一歩前に進める。
「紫紺の羽根団、そして我々。双方の対立については彼らから既に聞いているだろう。君達の動きも我々は全て把握しているのだから」
オービルは吐き捨てる。
「どう足掻こうと籠の中というわけか」
強い意志を滲ませてウィルが静かにガトゥへ訊く。
「あなた方の争いに関わるつもりはない。但し僕達は平穏に研究生活を送る権利があるはずだ」
加えてウィルはガトゥに促す。
「そして僕達は争いの原因について知る権利もあるはず。教えて欲しい。まず『最終戦争』について。これは一体何なんだ? 一体何が起こったんだ?」
ガトゥは冷静にウィルの言葉に耳を傾けている。ウィルはガトゥに念を押す。
「僕達を騒動に巻き込んだ以上、君は答える義務があるはずだ」
ガトゥはしばらく口を閉ざし、考えていた。どこまで事実を明らかにすべきか決め兼ねている様子だった。だがガトゥはやがて口を開き、真相を語ろうとした。
その瞬間だった。室内の灯が激しく明滅し、部屋の隅にある透明のスクリーンに映像が浮かんだ。
映像には薄暗がりの中、円卓にひじを降ろす男が映っている。男は年老いている。だが薄暗がりに遮られて男の表情を窺い知る事は出来ない。
男は静かにガトゥへ告げる。
「ガトゥ。私から説明しよう。君は存分に役目を果たした」
「御意志のままに。議長」
ガトゥは一礼すると、部屋の片隅に退く。「議長」と呼ばれた男は重みのある声を響かせる。そして未来の歴史を解き明かしていく。




