飛ぶ 1
気が付けば祐樹達はウィルの寝室へと戻っていた。深い沈黙が皆を覆う。祐樹達に与えられた猶予は三日間。それは未来の歴史を決めるには余りにも短い時間だった。
祐樹達はただ静かに考え込んだ。それは暗い未来社会に思いを馳せるには充分な時間だった。だが、やがてオービルが重々しい口を開く。
「結論は一つだ。俺達は三日後、予定通りセルフリッジ中尉を乗せた飛行訓練を行う」
ウィルも同意する。
「僕も同じ事を考えていた。僕達の選択が未来にどう影響を与えようと、自分達の役割を果たすだけだ」
そしてウィルはその場にいる全員を見渡す。
「『最終戦争』? 『アゼテリ』が創られる? 例えそうだとしても、僕達に未来を変える権利があるだろうか」
ウィルは本心を告げる。
「僕にはそう思えない。彼らの見せてくれた未来社会が悲しむべきものであったとしても、それは一時的なものでしかないかもしれない」
ウィルの指摘は冷静で的を射ていた。ウィルは続ける。
「時が経てば、やがて穏やかな政治が始まるかもしれない。僕達に与えられた情報は切れ切れで偏っている。急いで方針を変えてはいけない」
オービルも梨奈も、そして祐樹もウィルの意見に深く納得した。そしてウィルは意思表示を明確にした。それは詩的だった。
「僕達は歴史の中で風に流される小さな砂粒の一つでしかない。神がもし本当にいるのなら、彼は歴史を変えるのを望まないだろう」
オービルも頷く。ウィルは話を締めくくる。
「飛ぼう。それが僕達に与えられた、ささやかな使命だ。例えそれが僕達の命を危険に晒すものであっても」
オービルは兄の勇敢さを前にして拳を握り締めている。オービルはウィルの意見を深く噛みしめていた。ウィルはもう一度確かめるようにこう呟いた。
「飛ぼう」




