埋葬 2
「任務に忠実でなければならなかった。一瞬の迷いが破綻につながる。すぐに決断しなければ、君は紫紺の羽根団に連れ行かれていたはずだ」
祐樹は唇を震わせてガトゥに訊く。
「人の死は、何でもない? 軽く……見てるんですかか?」
祐樹の問い掛けにも全く動じずにガトゥは答える。
「アゼテリは命を尊重している。もしアゼテリが人命を軽んじるならば、紫紺の羽根団を殲滅するのもたやすいはずだ」
祐樹は両手を激しい勢いで差し出して、ガトゥの本心を探る。
「マウリカが言った……アゼテリの目論見って?」
ガトゥは即座に祐樹の物言いを訂正する。
「彼の言い方には語弊がある。アゼテリの目的は歴史の一貫性を保つ事だ。市民を管理しているのでもない。アゼテリは緩やかな連合体だ」
祐樹は畳みかけるように訊く。
「紫紺の羽根団だけではないんでしょう? 反発する人達は。何かアゼテリにも問題があるとしか思えない」
祐樹の口振りを前にして、ガトゥの口調に更に冷たさが増す。
「中々想像力がたくましいな。レジスタンス気取りで権威に歯向かうのは楽しいことだ。軽いヒロイズムにも溺れる事も出来る」
ガトゥの表情に真剣みが滲む。
「問題は……君がどちらを信じるかだ。歴史をたやすく変えてしまう組織と、それを修正するアゼテリ。どちらに君が与するかで、まさしく歴史は変わる」
そしてガトゥは祐樹のプライドを刺激する。
「君次第で歴史は幾つにも枝分かれするだろう。君には大きな権限が与えられているのだ。人々の命運を左右するほどの」
祐樹は息を飲む。ガトゥは話を締めにかかる。
「そう聞けばより冷静な判断も出来るだろう。どうする? 君は自由だ。選ぶといい」
祐樹は低く、澄んだ声を出す。そこには強い意思があった。
「俺が自由じゃないことくらい知ってる。梨奈も俺も、紫紺の羽根団とアゼテリに監視されてる」
ガトゥは静かに聞いている。祐樹は口にする。
「もしあなたが、俺と梨奈を無事21世紀日本に帰してくれたとしても、紫紺の羽根団は俺達に手を出してくるでしょう」
少しガトゥは顎を上げて、祐樹の分析に感心している。祐樹は過酷な現実を自分自身に突き付ける。
「それがタイムワープの力が現れた人間の運命だ」
そして祐樹は掌を軽く挙げる。
「実際そうでしょう。俺の周りで二人も人が死んでしまった。後戻りはもう出来ない。俺にも逃げるつもりはもうない」
祐樹の決意、覚悟を前にしてガトゥは満足げだ。
「賢明だ。ではもう一度指示を出す。君はライト兄弟と親しい関係を持ちながら、私からのコンタクトを待つんだ。君と、高橋梨奈の安全は保障される」
祐樹の口から本心が零れる。それは事実を言い当てていた。
「安全を保障。信じていませんよ。そんな口約束なんて」
それをガトゥは無言で聴いていた。そして祐樹の肩に触れると「風が振れた」。
祐樹は、表向きはライト兄弟の助手だったマウリカの殺された現場へと舞い戻る。祐樹は、暗いイメージが胸の奥で波うつのを感じていた。




