埋葬 1
マウリカがまだどこかに潜んでいるかもしれない。ならば次の手を打つ可能性もある。そう思うと祐樹は、気持ちばかりが先走った。
ガトゥのもとへ向かう祐樹が、混み入る人の波をかき分けたその瞬間、祐樹の腕を捻る男が現れた。その男は祐樹の背後で耳打ちする。
「また紫紺の羽根団に背いたな。アゼテリに協力した。お前達はいつでも俺達に監視されているのを忘れたのか」
祐樹は痛みで呻く。その男はダデュカではない。男の顔は祐樹の見知らぬ顔だった。
「あなたが……マウリカ?」
男は即座に返す。
「答えるまでもない。タイムワープをして、お前とあの娘に制裁を加える」
「あなた達は……!」
そう言って祐樹が抵抗しようとしたその瞬間、マウリカの脇腹に飛び込む人影があった。ガトゥだ。ガトゥはマウリカの脇腹にサイレンサー付きの銃突きつけると、銃を発砲した。
祐樹はその光景を前にして、ショックで体が強張るのを感じた。祐樹は呆然として動けなかった。マウリカは膝から崩れ落ちる。
「ガトゥ……アゼテリの目論見は決して歴史に貢献しない。汚点を残すだけだ。……覚えておけ」
マウリカの言葉を耳にするガトゥは、冷たい瞳で立ち尽くしている。マウリカの血が路面へと静かに滲んで行く。祐樹はただひたすら言葉をなくしていた。
すると直後、一瞬も躊躇わずに、ガトゥは祐樹とマウリカの体に触れるとタイムワープをした。
人々の混乱を避ける為だろう。時間は……多分未来か。場所は、白く塗装された円形の広間で、天上がゆるやかに弧を描いている。
ガトゥは、特殊な医薬品か何かで瞬く間にマウリカを止血した。だからマウリカの血が白い床を濡らすことはなかった。
ガトゥは静かに息を整えるとマウリカの体を見つめる。
「霊安室に保管する。反体制分子の一人としてではなく、善良な一市民として埋葬する」
祐樹は、ガトゥが手段を選ばない男であるのを改めて実感していた。ガトゥは「自分達」の考えを祐樹に告げる。
「それがアゼテリのやり方であり、紫紺の羽根団へ送る和解のメッセージにもなるんだ」
祐樹の唇は冷たく、青紫に染まっていく。
「殺した……。人を何の躊躇いもなく」
ガトゥは少しも顔色を変えない。薄い唇を引き締め、切れ長の瞳で祐樹を見つめている。その姿は冷たい印象があった。ガトゥは祐樹にこう告げる。




