ガトゥ再来 1
朝方の四時半頃だろうか。風が激しく「振れる」音がした。ガトゥか、紫紺の羽根団か。どちらかが祐樹達のもとを訪れたのだ。
祐樹は上体を起こすと身構える。祐樹が大きな音を立てたので、梨奈もすぐに目を覚ました。二人は訪問者の顔を確かめる。その人物の顔は、おぼろげながら分かる。ガトゥだった。
ガトゥは強引に祐樹の体を起こすと手短に用件を告げる。
「一つのトラブルは克服出来た。良くやった。次のシチュエーションだ。この便箋にライト兄弟への別れの言葉をしたためろ」
ガトゥの容赦のないやり方に、梨奈は険のある声で反発する。
「ガトゥさん? あなたのやり方は横暴よ。よく説明もしないで、私達に協力させるなんて」
ガトゥは少しも表情を変えない。厳しい顔つきで、梨奈にも便箋を差し出す。
「詳しく話をしているヒマはない。タイムワープを使った紫紺の羽根団との駆け引きが熾烈を極めている。君も別れの文章を書き記せ」
祐樹と梨奈はやむなく黙って、便箋を受け取る。ガトゥは二人を落ち着かせる。
「不自然な兆候を残さずに彼らのもとから姿を消すんだ」
梨奈は、ガトゥのどことなく漂う暗い影に、もう一度憎まれ口を叩く。
「完璧な秘密主義なのね。協力しなければ私達を未来へ帰すつもりはないのね」
ガトゥは梨奈の言葉に何も反応しなかった。それはガトゥからの、二人への無言の要請だと祐樹と梨奈には思えた。仕方なく祐樹と梨奈は極短めにウィルとオービルへ別れの言葉を走り書きする。
(ウィルさん、オービルさん、再実験の成功おめでとうございます。俺達はしばらくの間、故郷へ帰ります。短い間でしたがお世話になりました)
梨奈は自分で書き記した文章を一度覗きこむと、不服を漏らす。
「小器用な文面でイヤ。もっと時間を掛けたかった」
ガトゥは二人から便箋を受け取り、封筒に仕舞い込むと、ベッドの上に添える。ガトゥは祐樹達の肩に触れる。
「なにぶん時間がないのでね。分刻みの争いになるんだ。少し乱暴な手段に訴えてでもこうするしかなかった」
状況を何とか飲み込もうとする祐樹はガトゥに尋ねる。
「次はどの場所、どの時間に行くんですか?」
「四年後だ。以前君達を連れて行った場所だ。セルフリッジ中尉の死を食い止める」
ガトゥは静かな闘志を胸に秘めている。その決意は祐樹と梨奈の心を打ち、揺り動かした。次の瞬間には、三人は目を閉じた。すると風が「振れた」。




