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再実験 4

 翌朝、祐樹が目覚めると、梨奈はテート夫妻と新聞を広げて話をしていた。梨奈とテート夫妻は気持ちが高ぶっているようだった。梨奈はリビングに来た祐樹を目にとめると新聞片手に駆け寄る。

「ねぇねぇ見て。祐樹」

 新聞の第一面、見出しには「ライト兄弟、空を飛ぶ。ラングレーの過ち。明らかに」と書いてあった。文面はライト兄弟を称賛する一方で、ラングレーの過ちをあからさまに批判していた。

 祐樹の心は曇った。だがテート夫妻と梨奈の喜びようは、祐樹の気持ちをかき消すほどだった。祐樹は一人心を閉ざし、ラングレーの気持ちに思いを馳せた。

 午後になってウィルとオービルがテート夫妻宅に帰宅した。彼らも上機嫌だった。二人とも新聞に一通り目を通していて心から喜んでいた。

 梨奈が昨夜の食事会でどんな話をしたのか二人に尋ねる。オービルは楽しそうに打ち明ける。

「彼らはすぐにでも特許を申請すべきだと勧めてくれたよ。これは蒸気機関発明以来の革命だとまで評価してくれた。最高の夜だった」

「蒸気機関以来!」

 梨奈は両手を合わせ目を輝かせる。祐樹も少し身を乗り出す。オービルは興奮気味に両手をあげる

「彼らは軍事技術への利用など、飛行技術のさまざまな使い方についてアイデアを出してくれたよ」

 オービルは屈託がなかった一方、ウィルは少し慎重だった。

「ポイントはそこだ。オービル。軍事技術に利用されるとなると……。僕達は歴史に悲惨な一ページを書き記してしまうかもしれない」

 オービルはウィルの理想主義に対して現実志向が強かった。彼は飛行機発明が世界中に広まるのをはっきりと自覚していた。

「飛行技術は俺達の手から離れ、歴史を動かすほどになる。ならば兄さん、分かるだろう。俺達の財産は祖国のために使われるべきだと」

 ウィルは反論こそしなかったが、少し複雑な面持ちだった。彼は飛行技術が、軍事利用されるとは想像だにしたくなかったのだ。

 ウィルの気持ちを知ってか知らずか、オービルは心地よさそうに寝室へ向かう。整理したい資料があるのだという。

 取り残されたウィルは口元に指をあてがい、ただひたすら考え込んでいた。


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