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再実験 1

 実験は初めてライト兄弟が空を飛んだ時と同じ条件。つまりノースキャロライナのキティホークで行われることが決まった。

 主催者の新聞社は、大きなイベントになると踏んだのだろう。ライト兄弟に宿泊先のホテルを用意すると言ってきた。だがウィルは厚遇を受ける立場にないと丁重に断った。そしてテート夫妻宅に泊まる事にした。夫妻は快くライト兄弟と祐樹、梨奈を受け入れる。

 テート夫妻もライト兄弟が認められるのを望んでいた。ウィルとオービルの人との繋がりが彼らを後押しして、彼らの成功を招き寄せていた。

 祐樹達は飛行実験開催の二日前にキティホークに向かった。キティホークに着いて、飛行機の組立てに取り掛かると、ライト兄弟の表情は引き締まっていく。

 その頃には祐樹と梨奈は、パーツの取りつけを指示されるまでになっていた。祐樹達が二人の助手になったのは現代に戻るためだ。だが二人は純粋に彼らの手伝いが楽しかった。祐樹と梨奈の手は休まることがなかった。

 そして半日程かけて「フライヤー号」が再びその勇姿を現した。格納テントに収められた「フライヤー号」は、鮮やかな光を放ち、ひたすら大空を仰ぎ見ているようだった。

 その夜、皆が寝静まった頃、ウィルが祐樹と梨奈の寝室に訪れて、祐樹一人を呼び寄せた。梨奈はぐっすり眠っていた。祐樹とウィルは屋外に出て、二人は星明りのもと、ウィルと話をした。ウィルは何時になく真剣な表情で祐樹に訊く。

「祐樹、嘘は付かないと約束してくれ」

 祐樹はためらいなく首を縦に振る。祐樹は自分の立場をすっかり忘れていた。少し軽々しかったかもしれない。そう祐樹は思っていた。

 ウィルは祐樹と梨奈の身の上に疑問を抱いていた。当然と言えば当然だ。ウィルは祐樹を見つめる。

「祐樹、君達は……君と梨奈は一体誰なんだ?」

 その問い掛けに祐樹は言葉を詰まらせる。ウィルは掌を広げる。

「地層を調べていたというのは本当なのか? 君達はまだ若いのに両親や身内に連絡もしない」

 そして顎元に手をあてて、思案げに口にする。

「最先端の学問にも詳しいし、君達は……謎だ。そう、まるで君達は未来からの使者のようだ」

 ウィルは真摯な瞳を見せる。

「そう僕は思ってしまう。はっきり教えてくれ。祐樹、君達は、一体……誰なんだ?」

 ウィルの真っ直ぐな質問が祐樹の胸に突き刺さる。ウィルに嘘をつくのは祐樹にとって辛いものだった。祐樹は笑顔で取り繕う。

「俺達は……学生です。冬休みに地層を調べに来ていた。ただ、それだけです」

 ウィルはそれ以上もう何も詮索しなかった。それが祐樹にはありがたかった。

「分かった。もう何も訊かない事にする。君を信じよう」

 ウィルは、疑いを自分の胸の奥に仕舞い込んだように祐樹には思えた。

 ラングレーの批判がウィルを傷つけ、軽い人間不信に陥らせているのが祐樹には分かった。祐樹にはそれがとても辛かった。

 二人は口をつぐんだまま、テート夫妻宅へ戻った。祐樹の胸は締め付けられていた。月明かりが祐樹の嘘を見透かしているようでもあった。

 やがて夜は明け、ついに飛行実験の日を迎えることとなった。


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